部活動記録024〈愛するフィナーレ〉
「とにかく逃げるぞ!」
光の手を握り走った。
どこか遠くの街を目指して。
この場所から逃げたくて。
神谷たちが追ってきたが他のみんなが足止めをしてくれている。
雨は振り続けているが構いもせずとにかく走っていた。
声が聞こえない。
音が聞こえない。
何が見えてるのかすらわからない状態だった。
「ちょっと待ってよ!」
光の言葉に我が帰り、落ち着きを取り戻した。
「どうしたの影君?なんで逃げるの?」
それを伝えることは光を絶望させることにつながる。
だが、いずれは向き合うこと。
早いか遅いかの違いだった。
「『ダスト』になったということは、つまり、寿命が減ってしまうことなんだ」
『ダスト』のデメリットは寿命が減る。この一点にある。
姉さんの研究が主にこの寿命に関する研究だった。
それによれば『ダスト』とは苦悩の象徴で、人間の脳が耐えられる容量を超えたため、体に害を及ぼしてしまった結果が『ダスト』という事だ。
「自分のことは自分がよくわかる。もうすぐ俺は死んでしまう。光だけでも遠くに逃げてくれ。」
背中を押す。
だが、衰退してるせいか腕に全く力が入らない。
「・・・そんなんじゃ動かないよ・・・」
向こうを向きながら涙をこぼしている。
沈黙が続いたが光が振り向き、僕を包む。
弱っている体にムチを打ち懸命に背中をさする。
だが、衰退してしまっていてさすってる感覚すらなかった。
なぜここまで僕ができるのか。
答えはわかっている。
でも認める訳には行かない。
「影君」
顔を伏せ、胸に当てながら言った。
「なんでそこまでしてくれるの?」
ここまで来たらもう諦めるしかなかった。
「いいか光、1度だけだ。1度しか言えないからよく聞けよ」
思い出す過去の日々。
「俺は一人で生きていくしかないと考えてた。」
目の前で親が焼けていく姿を見たあの日。
「誰とも関わっては行けないと考えてた。」
世間から見捨てられたあの日。
「だから周りの人を突き放した。」
友を捨てたあの日。
「なのに一人だけしぶとい人がいた。」
光が小さく頷く。
「そいつはほんとにしぶとくて3年も一緒にいた。」
優しく背中をさする。
「あそこに来る人たちをいつも一緒に迎えてくれた」
あそこでは様々な感情を見てきた。
真っ直ぐ硬いものもあれば、折れ曲がってるのもある。
美しく綺麗なものがあれば、醜く汚いものもあった。
「だけどそこにいてようやく気づいた。」
自分が出せる全力で光を抱きしめた。
「俺はもう、絶対に手放さない。」
暗闇だったはずの空が赤く染まっており、絶え間なくなっていた雨の音が小鳥のさえずりに変わっていた。
「僕と付き合ってください。」
光の目から涙がこぼれた。
腕は震え、力が強くなって行った。
「もう、絶対に離さないでね」
そうして唇を重ねる。
二人の間から7色の光が溢れ出した。
「遅かったか・・・」
追いかけてきた神谷が崩れた。
「ふざけるなよぉー!影ー!!」
『忘却』を使おうとしたが『フレア』がそれを吹き飛ばした。
遠くで見守っているよコロン達が、
「これで全部リセットか」
「・・・・・・じゃあね、先輩」
コロンとうつりが別れを告げた。
「短い間、お世話になりました!」
明るく、これ以上ない笑顔で里中がお礼を言う。
「お疲れ様、偽騰」
宮野先輩が爽やかに告げる。
7つ目:『リセット』
自分の命と引き換えに望んだら時間まで世界をリセットする。
最強の1度きりの能力。
影はついに力つき、光の腕の中で最後を迎えた。
「また会おうね、影!」
影の亡骸を抱えながら笑顔で泣いていた。
その数時間後、後を追うようにして光が亡くなった。
光が戻した時はこの街が火災になる前日。
影が居なくなったことによって火災は起こらず、『ダスト』が生まれることもなかった。
『ハートドロップ』部長。3年、偽騰影。
この名前はもう誰も覚えていない。
だが、この街を救った人。
愛するとはなんだろう。
好きな人を守ることなのか?その人のことをずっと考えることなのか?その人のために死ぬ事なのか?
どれも違うと思う。
愛とは、
その人が心にずっと残っていること。
『ハートドロップ』部長。3年、偽騰影。
この街を救った人。
この名前はもう誰も覚えていない。
けれども、影は最後の瞬間まで光の心に残っていた。
つまり、
偽騰影は最後に人を愛していた。
偽騰影の物語は完結した・・・
けれども、その後の物語はずっと続いていく。
2人のいない卒業式、消えた二人の再開、、、、
物語は本当の完結はまだ終えてない・・・




