部活動記録020〈動き出す恐怖 〉
「影君!ってどこ行ったのかしら?」
部室手前で振り向いた光だったが、そこには偽騰の姿はなかった。
「サボる人じゃないし、用事でもあるのかな?」
あまり深く考えず、いずれ戻ってくると信じて部室に入った。
窓の外を見ると、先程まで綺麗な晴天であったはずが大雨にみまわれていた。
稲光は見えないが、雷鳴は聞こえてくる。
音に驚きその場に縮こまる光。
だが、それと同時に不吉な予感もしていた。
そこにいつものように依頼人がノックする音が聞こえてきた。
いつものように「どうぞ」と、親しみやすい声で返事をした。
そこに居たのは以前、ここに来て依頼をしてきた里中出会った。
「お久しぶりです光さん」
「お久しぶりですね、今日も依頼ですか?」
いつもと何らかわりの変わらない対応をした。
「いえ、偽騰さんにお話がありまして。どちらにいますか?」
「から君なら今用事が出来たようでここにはいませんよ。きっと待っていれば来ますから、そこにはおかけになってください。」
そう、きっと影君は来る。そう信じている。
なのに何故かもう二度と会えない気がする。
「それにしても、急に降ってきましたね」
「そうね、傘持ってきてないのに」
影を待つ間、たわいもない世間話をしていた。
里中が部室に来てからもう1時間がすぎていた。
さすがに遅すぎる。
「偽騰さん、まだ来ませんね」
里中も不安そうにしていた。
もちろん、光もとても不安そうである。
メールガトドキマシタ。
光のスマホから光とともに着信音が流れた。
差出人は偽騰だった。
中には部活を休むとの事だった。
「今、影君からメールが来て、今日は来ないそうよ」
里中は少し寂しげにした後、何かを決心した目付きになった。
「光さん、少し聞いてもらってもいいですか?」
この声はいつもよりもワントーン低かった。
「何か相談事かしら?」
里中の顔つきがますます重くなる。
「実は、前々から誰かにつけられてる感覚があるんです」
「それって、ストーカーってこと?」
「はい、ですけど何かおかしいんですよ。」
ストーカー行為自体おかしな行為なのに、さらにおかしな行為とはどういうことはわからなかった。
「どういうふうにおかしいの?」
里中は少しうつむきながら話した
「学校内でつけられてる感じがするんですけど、生徒ではないんですよ」
「部外者が校内に潜伏してあとをつけてるってこと?」
おかしな話だ。
なぜ校内だけをストーキングするのか、その理由が皆目見当もつかないからだ。
「直接顔を見たの?どうして生徒じゃないってわかるの?」
「顔までは見てないんですが、服装が税服でなく、レザースーツのような感じだったんですよ」
学校にレザースーツでくる人は基本いない。
先生だとしてもそのような格好で来る人はもちろんいない。
だが、部外者がいるとも思えない。
「ただの勘違いじゃないの?」
そう思い、そのまま伝えた。
「でも、私の『炸裂』が効かなかったんですよ。」
それこそおかしな話だ。
一般人に、ましてや生徒に『ダスト』が効かない人がいるわけがないのだから。
「確かにおかしいわね。」
「そしてついさっき、ここに来るまでもつけられてたんですよ。」
里中の目が泣きそうになっている。
「私、もう怖くて怖くて…」
目から涙が零れてきた。
そこに何も知らない青柳がやってきた。
「ごめんね遅れちゃって、、、ってなんで里中さんが泣いてるの?」
「……里中さん、話してもいい?」
小さな問いかけに里中は頷いた。
先程までのことをありのままと青柳にも話した。
「確かに怖いね。とりあえず今日はひかりっちと一緒に帰った方がいいよ」
「グスン、、、はい、そうさせてもらいます」
その日の部活は中止にして帰宅した。
帰り道、まだ雨も降っていたことから、光が車を呼び里中と一緒に下校した。
しばらく走り、2.30分ほどで里中の家に着いた。
「光さん、今日はありがとございました」
「えぇ、また何かあったら連絡してくださいね」
そう言うと里中は深く一礼をし、家の中へはいっていった。
光も自宅へ着き、ベットで横になっていた。
あのメールからがからの連絡が一切なく、不安になっていた。
何度か電話をかけているが留守電になってしまう。
そこからいつも通り入浴し、食事をとり、もう寝ようと思いベッドに入った時、突如スマホが鳴った。
影からの電話であった。
「どうしたの影君?こんな夜遅くに」
時刻は11時を回ろうとしていた。
「ごめんな、何度も連絡してくれたみたいで。」
「いや、、それはいいのだけれども何かあったの?」
電話越しの影の声は息遣いが荒く、走っているようだった。
「実はさ、伝えたいことがあって、」
「、、、、っ!!」
鼓動が早くなり、顔が赤くなっていることにはすぐに気づいた。
「な、何かしら?」
「俺はしばらくの間、街から出る。けど、大丈夫だ。なんの心配もいらないからな。悪いが少しの間部活を頼むぞ!」
そう言って切られてしまった。
真剣なトーンであることから、重大な決断だったことが分かる。
「しばらくってどのくらいよ」
一人で呟いて、目を閉じた。
----------------------
偽騰影は雨の降る中、一心不乱に走っていた。
靴は汚れ、長い間走っていた。
体力も限界に近かったが、走ることを辞めなかった。
なぜか、
それは神谷の『ダスト』のとこをすぐにでも優太さんに伝えるべきだと思ったからだ。
何度も転び、服はボロボロになっていた。
雨も酷くなっていき、行く手を阻んでいるようだだった。
だが、そんなことはお構い無しに走っていた。
家の前に着き、インターホンを鳴らす。
ドアが開き、優太さんが出てきた。
それを見た影は疲れ果て、倒れ込んだ。
・・・・・・・・・
目を覚ますとソファーの上で横になっていた。
「心配したよ影君」
暖かいココアを渡しながら言った。
「ありがとうございます」
ココアを一口飲み、
「大変なんですよ!」
優太さんは驚いたがすぐに建て直した。
「何があったんだい?」
影は落ち着きながらタイムスリップのこと、神谷のことを話した。
「まさかそんなことがあったなんて」
さすがの優太さんでも動揺しているようだった。
「とりあえず今日はここに泊まっていきなよ。このことは僕が説明しとくからさ。」
「わかりました。ありがとうございます…」
言い終わると静かに目を閉じた。
次の日、優太さんの車で家まで送ってもらい、またベッドで寝た。
……
影は目を覚まし、見ていた夢を思い出し、驚愕していた。
それが正夢ならば明日、この街は火の海へと変貌する。




