部活動記録011《VS兎桜》
「君は・・・偽騰さんのところの影君か。充と仲良くしていたようだけど、そこまで仲良くしてくれていたなんてね。もう大丈夫だよ。これからは海外で勉強に専念することになったんだ。今までありがt」
「ふざけるな!」
オーラが見えない僕でさえも分かるほど怒っている。
ほんの数年の付き合いの僕のために本気で起こっている。
「彼の人生を決めていいのは彼だけだ!ほかの誰も決めてはいけない!」
そんな影を前にしていても冷静さを保っている。
「ここではやはりだめだな。君も一緒に来なさい。場所を変えよう」
車に乗って、会社に向かった。
「ここが『兎桜』の総本部だよ。さ、入ってくれたまえ」
応接で待っていた。
「充はいいのか?このままで」
優しく声をかけてくれた。
ここまで来たら影自体の生活も危うくなってしまうほどの問題になっているのに首を突っ込んでくれるのはありがたいがあんまり巻き込みたくないな。
「しょうがないんだよ。反抗してもすぐに押しつぶされてしまう。これが現実の親の考えなんだ。自分の思い通りにならなかったらどんなことをしても、どんな汚いことをしてでも自分好みの子供に育てる。『親は子を選べない』この言葉はそんな親の心のひどい言葉だと思っているんだ。」
「それがどうしたんだ?」
「えっ?」
「それはただ親が使う言い訳に過ぎないんだぞ?」
意外な言葉が聞こえてきた。
「俺に親との記憶はほぼないけど、親は子供をそんな風に思っているはずはないと思うぞ?」
「残念ながらうちは家業中心の完全資本主義なんだ。『兎桜』を大きくするために子供を育てているのと同じなんだ。これが現実なんだ。」
扉を開け、青柳浩三が入ってきた。
「話は終わったかい?」
「なんとか終わりました。」
「本題はここからだよね、父さん?」
「ここは会社だ、呼び方を考えろ」
いつにない迫力だった。
「勝手なことをしてしまい、申し訳ございせんでした。」
「常識が分かるような青年でよかったよ」
これが冷戦ってやつなんだな。
「浩三社長は充のどの部分に不安要素を持ったのですか?」
「主に勉学への不安だ。聞いたところ充の成績は学年160人に対し、98位と聞いた。最低でも50位には入ってほしかったところなんだ。だから留学に行かせるつもりだ。何か反論意見はあるかい?」
「社長、確かに成績がいいとは言えません。しかし、今度の定期テストで50位圏内に入ります。なのでそれまではここにいさせてくれませんか?」
「そう簡単に了解を出せるわけはないんだ。こちらが安心できるような証明を提示してほしいんだが、何かあるか?」
全く案がない。
勝算もなく、無力のまま散っていくことを覚悟していた時に影の手が僕の肩を軽くたたいた。
「僕に提案があるのですがよろしいですか?」
目で「任せろ」と語りかけてくれた。
「僕の成績をご存知でしょうか?自慢で名ありませんが、15位の僕が全力で充を50位圏内に入れて見せます。それでどうでしょうか?」
「もしものことがあればどうするというんだ?君にできることなんかたかが知れているだろう。そんな見込みのないことを言うのはよして自分の人生を満喫するんだ。まだ60年はある人生だよ?わかっているのかい?」
「命の尊さをわかっていないのはあなたの方です。」
怒りが最頂点にまで達してしまった。
影がここの空間で一番命の重さをわかっている。
そう、どんな大人よりも。
「浩三社長は早海香也教授の論文をご存知ですよね?」
「もちろん。『超能力を持つ人間の思考判断及び共通している環境』だよね?世界的に注目を浴びたんだ。知らない方が珍しいくらいだ。」
「それの詳しい内容はもちろん知っていますよね?」
急に顔をしかめた。
「わからないんですね?」
「それが何になるんだ?」
ここだ。
このチャンスをものにするんだ。
そう言わんばかりに攻めた。
「僕が言いたいのは、自分の見ている景色だけではないってことです。先ほどの論文の内容は謎の特殊能力を持った子供をheartchainと呼び、生活習慣、思考回路など様々なことを調べ上げ、比較をしたものです。」
「教えてくれてありがとう。だけど、今それは全く関係ないだろう。」
「先ほど浩三社長は『先が長い』っとおっしゃいましたよね。それは大きな間違いです。」
「とは?」
「僕はその『heartchain』なんです。」
社長はポカーンとしていたが、すぐに表情を取り戻した。
「何冗談を言っているのかな?」
「真実ですよ。僕の言っていることすべて、です。」
早速調べているようだ。
「今、浩三社長は恐怖の感情を思い描いてますよね?」
「な、なぜ!?」
「わかるんですよ。特殊能力があるから、もうあとがないんです。もって一年なんです。だからやりたいことも、やらなきゃいけないこともあるんです。それの一つがこれです。充への恩返しです。」
「・・・影っち」
論文を読み上げた浩三社長は涙ぐんでいる。
「こんな深いことがあったのか。」
「だからここまでしてるんです。」
深く、深く考えていた。
その時間はとても長く感じた。
俺が不安のオーラを出しているのを悟っているのだろう、こちら側を見ている。
長かった沈黙を浩三社長が打ち破った。
「・・・わかった。次のテストまで待っていよう。」
「やったー!」
緊張の糸が切れたように体制が崩れた。
「大丈夫かい?」
「は、はい。気が緩んだだけです。」
そんなこんな家に帰った。
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「ただいまー」
「おっかえりー!」
挨拶と同時にダイビングハグをかましてきて、瞬時に荷物を奪われた。
「早速ご飯にしよ❤」
「姉さん、荷物はいいよ」
とても温かい気持ちになった。
「・・・・まずは一つ、かな」
その様子を草陰から覗いている少女が言い、開いていた懐中時計を「パタン」と、閉じた。
その次の日からしばらく充は学校に来なくなった。
そんな中で紅学祭に前例のない大事件が起こった。




