部活動記録010 《偽騰が支えている人間》
影っちをなんとか家に帰らせた後の部室では・・・
「全く偽騰君は周りの人がどんなことを考えているのか理解しょうとしていないんでしょうか?はたまたわざと理解しないんでしょうか?前者なら今度からとことん仕返してやりたいし、後者ならひどい人間ですし、こんな時にどうしたらいいかわからないし、影君って環境が環境だからってあぁー!!もう起ったぁ!今から仕返しに行って来る!」
カバンを持って行ってしまった。
「光っちったらツンデレになっちゃった」
「・・・・」
「鹿島っち、なんか言ってよ」
「・・・・失礼します」
そのまま帰ってしまった。
「はぁー。なんか嫌われちゃったかな?」
今日のご飯のことなんかを考えながら身支度をしていたら、
「青柳先輩!なんか見られてる気がします!!」
ドアを勢いよく開け、瀬川っちが入ってきた。
「角から黒いフードをかぶっていたから顔は見えなかったけど、きっと女子なんだよね。」
「女子のストーカーか・・・なんか恨みでも買っちゃったんじゃないの?いっつも影っちといるから。意外とモテてるから」
「『闇の支配者』って呼ばれているんですよね。」
「よく知ってるね。」
「先輩のことならなんでもわかりますよ。クラスでもよく羨ましがられてます!『カッコイイ!』『クールビューティー!』『独占されたい』ってよく聞くんですよ」
そんなことを謎の『先輩ノート』を出しながら丁寧に事細かく教えてくれた。
おかげで二時間も帰りが遅くなった。
♦
「ただいまー」
扉を開けると待っているものは使用人でなく、兄弟姉妹でもない。もちろん親でもない。
たった一枚の小さな正方形の薄っぺらい紙切れだった。
そこに書かれていることとは、
「今日も遅くなります。出前でも取って夕食を済ましてください。何か用事があれば業務用のメールアドレスにいつものように送ってください。 母より」
その紙切れを丸めてくずかごに捨てた。
中にはここ一か月の丸めた紙切れが入っていた。
内容も、材質でさえも全く同じであった。
リビングに行き、いつものようにテレビをつけ、水を飲みながらただぼーっとしていた。
番組の合間のCMには、父さんの会社の新作商品が映っていた。
いつものことながら、急にむしゃくしゃして荒々しくテレビを切り、部屋に行った。
ベットに横たわり、今日のことを思い出していた。
「そういえばコロンっち誰かに見られてるって言ってたな。影っちの話でうっかり忘れてた。」
スマホの連絡先を眺めた。
「いろんな人と交換してけど、そんなことしそうな人はいないよな。目的は、影っちか、鹿島っち個人に恨みを持っている人っすよね。両方考えられないっすね。」
机に向かいパソコンを立ち上げ、課題のレポートに手を付けた。
社会科のレポートで、「人間の平等性」というテーマであった。
「平等ってなんすかね。」
そんなことをつぶやいていたら意外な人からの電話があった。
「もしもし充君?久しぶり!影の姉の香也だよー」
「お久しぶりっすね。」
ハイテンションで、影とは真逆の性格の人物、早海香也は影の家の近所で、影がはっきりと覚えている唯一の家族と呼べる人だった。
「何か用でしたか?」
「それがさ、なんでか影ちゃんがいつも以上に元気なくて、ほんとに死んじゃいそうで怖いんだ、何か知ってる?」
「わからないです。最近はいつも通りの影っちだったんで大丈夫ですよ。」
そういうと少しテンションを取り戻し、
「なら良かった。すごく安心したよ。」
「そういえば今、学校のレポートで、『人間の平等性』っていう事をやってるんですけど、参考に聞かせてもらってもいいですか?」
声だけでわかるくらいに明るくなり、
「いいよ!影ちゃんのことでお世話になっているからそのお礼にね。明日の四時に図書館に来れるかな?」
ということで、レポートがはかどりそうな状況になった。
「それじゃあね。影ちゃんをよろしくね❤」
そして次の日
部室に行く途中で誰かにつけられている感じがした。
後ろを振り返っても誰もいない。
思い過ごしだろうと思い足を進めた。
「ヤッホーみんな!」
中にいたのは影っちと鹿島っちだった。
「やあ」
「・・・・・」
「お二人とも相変わらずの返答ですね」
カバンを置き、ソファに腰を落とした。
「なあ充、今日姉さんと集まりがあるんじゃないのか?時間は大丈夫か?」
「なんで知ってるの?」
「社会のレポートは姉さんの得意分野だ。突っかかってたら充なら聞きそうだったから鎌をかけただけだ。」
「おそろしいっすね。さすが影っち」
「・・・ずる充」
ぼそっと呼び捨て+罵りのダブルパンチ
「ひどいっすよ?これはあくまで参考までに専門家の意見を聞きたかっただけっすよ。何にもずるくないっす。」
「・・・レポートは・・・自分の意見を・・・述べるもの・・・」
コーヒーをすすりながら言った。
「その喋り方どうにかならないっすか?会話がやりずらいっす。」
「・・・・慣れてないだけ。」
そう言ってそっぽを向いた。
「あーあ、怒らせた。」
気まずそうにして影っちがそっと席を離れた。
「姉さんのところに行くなら連絡してくれ。早めに行って待ってろよ。姉さんを待たせないように。」
「了解だけど、どこか行くの?」
「ああ、生徒会に予算の件で呼ばれているんだ。」
「この部室の予算ってあるの?」
「もちろんあるとも。依頼解決時に報酬が降りてくるから記録を毎回生徒会に見せに行ってるじゃないか。それで、遠くの所まで行ったり、今度の『紅学祭』の出店費用もそこからしか出ないから、足りない分は自分たちで出すか、規模を小さくするかのどちらかなんだ。だから、必死こいて全部の部活が頑張っているから実力がついてくるんだ。」
「そんな制度だったんだ。それで、一つの依頼に対しての報酬っていくらくらいなの?」
そう聞くと、棚から一つのファイルを出して見せてくれた。
「ここ最近だったら充が入って最初のやつあるだろ?」
「あぁ、嫉妬心から生まれたやつだよね。」
「それだ。あれくらいだったら約5000円に俺の怪我の治療費の3000円が降りた。」
「それってほかの部活よりも多くならない?」
「多くなる。だが、だれ一人と文句を言おうとはしないんだ。」
「どうして?」
そうしたら別のファイルを持ってきた。
「ここの校内新聞の記事を読んでくれ。」
「どれどれ?」
そこには野球部の部室荒らしの記事があった。
これは、僕たちが二年生の初めの時の事件だった。備品であるバット五本、ボール二十五球に優勝旗が盗まれ、中が荒らされた事件だ。これは市内どころか、県中で大騒ぎされた。
「この事件を解決したのが俺と光だ。ほかにも、バレー部の食中毒事件に、テニス部のガット事件など、事件の大半はこの部活が解決したんだ。だから反対意見を出しにくいし、出ないってことなんだ。」
「だったら偉業をやり遂げた部活には賞状と盾みたいなものが送られるはずじゃないの?」
「もちろん送られた。そこの3番の引き出しを開けてみろ。」
言われたとおりに3番の引き出しを開けるとあふれんばかりの賞状と盾があった。
「なんで飾らないの?」
疑問に思い聞いてみると、
「最初は飾ってたんだが、数が多くなりすぎて全部しまったんだ。」
「だったらいい解決法があるじゃない。」
メモに方法をかき、影っちに渡した。
「その通りのことを言ったらきっと大丈夫。さぁ、行った行った。遅れちゃうよ?もう俺も行くし。」
「そうだな。行って来るよ。充も気をつけてな。」
戸惑いながらも無事、生徒会のもとに向かった。
「じゃあ行くか。」
部室を後にして待ち合わせ場所の市立紅蘭図書館に着いた。
だが、そこにそこで待っていた人物は一人では分かった。
香也さんと僕の父親であり、兎桜の現社長青柳浩三と母親の旧姓八島美南の姿もあった。
「充、こんなところで何遊んでいるんだ?勉学はどうした?」
「これから教えてもらうところだよ。」
「・・・そんなことでどうする。もう懲りた。」
カバンの中から資料を渡してきた。
そこに書かれていたのは『米国留学案内』とあった。
「ちゃんと学んでもらうためにもこれに参加して来い!」
これは絶対だった。
親の意向を捻じ曲げることは今の僕にはできないことだ。
だけど、ただで食い下がるわけにはいかない。
「ごめんなさい。これには参加することはできません。参加したくないです。」
初めて親に反抗した瞬間だった。
「その口でこの俺によく言えたもんだ。だがな、お前は何様のつもりで言ってるんだ?お前を育てたのはこの俺たちだ。それを無視することはできない。させない。無理やりにでも参加させる。」
腕をつかまれ車に乗せられた
「どこに行くんだ!」
「家だ。ここじゃまともに話できないからな。」
この土地に帰ってくることはもうないんだろうか。
そんなんことを考えていた。
こんな時にあいつがきてくれないのかな。
そんなことはないか。あるわけがないのだ。
だけども、奇跡は必ずピンチに起こるものだ。
聞きなれた声
待ち遠しかった声
「待ってください!」
僕の英雄はここにいた。
そう、僕を変えてくれる唯一の人間が




