森
目の前に転がったゴブリンの死体をまじまじと見る。
これで5匹目、しかも森に入ってすぐにである。
「ゴブリンってこんなにいるものなのか」
俺がエルカにそう尋ねると、
「いや、おかしい、ゴブリンは多いが森に入ってすぐに5匹は多すぎる、お前はシル様を連れて森から離れろ、私は少し奥を調べてくる」
そういうとうっそうとしている森の中をどんどんと進んでいき、エルカの姿はすぐに見えなくなってきた。
森を離れるためにシルに声をかけようと振り向くと、シルは死んでいるゴブリンを憐れむように手を合わせていた。
こちらの視線に気付くと、頷き、二人ですぐに森から離れた。
森の入り口付近だったためにすぐに森を出て、念のためさらに距離を取った。
幸いなことにここら辺の平原は定期的に騎士団が討伐していることもあり、魔物がいない安全地帯であった。
シルがゴブリンに手を合わせている姿を思い出す。
相手はヒト型の魔物、RPGではよく人を着る前の練習用に扱われる。
それをためらいもなく俺は切ることができた。
同じ調子でためらいもなく人を切れるのだろうか、俺の中で人殺しの決心はまだ決まっていない。
「シル、初めてのクエストはどう?」
「はい、ゴブリンとはいえ初めて目の前で生き物の死を見て、少し動揺しましたが、もう大丈夫です」
大丈夫、というその顔色は言葉とは裏腹に少し辛そうである。
否が応でもこれからはこういう場面が増えていくだろう、もっと血なまぐさいこともあるだろう、彼女は耐え切れるだろうか。
うん、守ってあげよう、そう心に誓う。
早速、森からゴブリンがあふれ出してきた。
数は3匹、対処できない数ではない。
さっきはエルカがいたから普通に戦ったが、今度はいないし、シルを守らなければならない。
練習がてら少し本気を出そう。
イメージする、きっちりふたが閉まった力の入った穴を思い浮かべる、その蓋を気持ちずらす、気持ち力が漏れるイメージをする。
すると王宮で試した時よりだいぶ抑えているが、今の力とは比べ物にならない力があふれる。
ゴブリンを見据えて駆けて行こうとするが足が地面に埋まってしまった。
走ろうと力を入れ過ぎて踏ん張りすぎたようだ。
今度は軽いステップをイメージするように駆けだす。
あっ、という間にゴブリンに接敵する、ゴブリンは俺が急に迫って来たのに驚いたようで、動きが止まったところで剣を横なぎに降り抜く。
剣劇が早すぎたようでゴブリンは真っ二つになるとともにその体の向こう側に剣劇が飛び大地が少し吹き飛んだ。
どうやらまだ抑えたほうがいいようだ。
力加減を試しながら、残り2匹を倒す。
俺のあまりにもの無双っぷりにシルは目が点になっていた。
「お~い、帰ってこ~い」
目の前で手を振ると、やっと正気を取り戻し、
「ジン様、いつの間にそんなにお強くなったのですか?」
本当にびっくりしているという風に高揚した感じで尋ねてくる。
「俺もびっくりなんだけど、さっきゴブリンを倒してステータスが上がったのとスキル’力加減’を切ってみたら」
と、適当なウソを言っておく、すると納得したようで「レベルアップおめでとうございます」といってくれた。
一息するとまたゴブリンが出てきたが、それを率いるように先頭を誰かが走っていた。
「け~、引け~~」
先頭を走っていたのは、エルカであった。
エルカが合流すると、息も絶え絶えに、
「森はゴブリンが異常発生している、私でも対処しきれない、シル様を連れて逃げるぞ」
そう言い慌てて、シルを連れて逃げようとするが、どう考えてもゴブリンに追いつかれるのは目に見えていた。
「わかった、俺が殿を務める、お前ら先に逃げろ」
俺はそうかっこよく決めると返答を聞かずにそのまま接近しつつあったゴブリンの集団に突っ込んでいく。
後ろでシルの俺を呼ぶ声が聞こえた気がするが振り返るとシルを抱えて走り去ろうとするエルカの姿が見えたので、とりあえず一安心して、目の前のゴブリンどもを片づける。
これも力加減の練習と一匹一匹、漏らさないように狩っていく。
あっちこっち地面はえぐれてしまったが、おおむね感覚はつかめてきたと思う。
森からは相変わらずゴブリンがちらほらとあふれてくる。
ここで存在を忘れていたマップを思い出す。
マップを表示させると俺の後方をすごい勢いで離れていく青点と黄色点が見えた。前方はまばらにものすごい数の赤点があった。
特に森の奥のほうに赤点の塊のようなものが見えた。
そこが発生源だとあたりをつけてそこめがけて突っ込んでいく。
発生源と思しき場所に近づくにつれて途中遭遇するゴブリンも増えてきて、変わったゴブリンにも遭遇するようになった。
そのゴブリンは普通のゴブリンとは違い、鎧を着ていたり、体格が大きくなっていたりしていた。
どれも普通のゴブリンの何倍も強く、普通のゴブリンと同じ加減で戦うと倒すのに手間取ってしまう、なので敵に合わせて力加減を変えて戦う。
めんどくさい
段々うっとうしくなってくる、もう隠さなくてよくね、でも今の段階でいろいろな面倒に巻き込まれるのは嫌だな。
と、ちょっと思考がそれ始めて、集中が途切れていた。
急に目の前に今までで一番大きなゴブリンが現れた。
その一撃は自然に放ったものだ、すべての鬱憤がこもったその一撃が正面に解き放たれた。
’ドガーーーーン’
まるで大きな爆弾が落ちたかのような音が響いた。
土煙がもうもうと立ち込める、マップで確認すると向かっていた先の赤点の塊のようなものが消えおり、周囲にあるまばらにいた赤点も大きく数を減らしていた。
段々と土煙が晴れていくと、その惨状が見えてきた。
俺の目の前から扇状に広がるように森が半壊していた。
まさに、ゴブリンを壊滅して、森も壊滅させてしまったわけだ。
「はっはっ、イッツナイスアメリカンジョーク」
口からは乾いた笑いしか出てこない。
前回より力加減を調整できるようになり大きく力が解放されてしまったようだ。
本当にどうしよう。
もういっそのこと、ばらして…、そういうストーリもあると思うが俺はそんなにうまく立ち回れないと思う、いつかは人に話さないといけない時が来ると思うが、今はその時ではないと思う。
シルとエルカには悪いがまだ信頼しきれてない、俺を利用しようとはしないだろうがこの力を見たら距離を置かれたり化け物扱いされるかもしれない。
せっかくやり直した人生、いい友人を作って彼女だって作りたい、ということで、
「神様、ヘルプミ~~~~」
漠然と神頼みを行う、地面に膝をついて、手を合わせて強く願う。
”しょうがないですね、ほっておいたほうが面白いのですが、いいですか、’魔法(土)’の’ランドメイク’使って地面を作って、’プラント・ウッド’で木を植えなさい。魔法はイメージですよ”
急に頭の中に声が響いてきた。
声によると’ランドメイク’と’プラント・ウッド’を使えばいいらしい、えぐれた地面を真っ平にするイメージを固めて、
「’ランドメイク’」
そう唱えると地面はイメージ通りに真っ平になった。きれいなぐらい真っ平、まるでスケートができそうなくらい平らになった。
気にせず今度は茂った森をイメージする。
「’プラント・ウッド’」
新たにできた地面からまるでビデオを何百倍の速度で早送りしたように木が生えて茂っていく、どんどん茂っていく、どんどん茂っていく、どんどん茂って、まるでジャングルのようにうっそうとした森になってしまった。
その光景にやってしまった感があるがとりあえず知らぬ存ぜぬでごまかしがききそうでだと思い、森をお後にする。
森を抜け王都に近づくと目の前から兵士の一団が来るのが見えた。
よく目を凝らすと戦闘で馬に騎乗し率いているのはエルカだった。
走って彼女のもとに行くと、まるでお化けを見たような目で俺を見て、驚きの声をあげる、
「ま、まさか、無事だったか、ジン、ゴブリンはどうした、あのすごい音は何だ!」
俺が森を吹き飛ばした音は王都のほうまで響いていたらしい、
「ゴブリンを追って、森に入ったら、奥のほうからものすごい音とがしたと思ったら、ゴブリンどもは蜂の巣を突いたように散れてどこか行ったんで、帰ってきた」
と口からデマかせをホイホイいう、こんなホイホイ嘘が出るって詐称スキルでも持っているのかな
「そうか、ジンが無事で何よりだ、王女様が心配されている、斥候を出して森の状態を確認、ジンは私と一足先に王宮に戻るぞ」
そう言い副官と思われる男に何やら伝えると人が乗っていない馬が連れてこられた。
「さ、これに乗って、急いで王宮に行くぞ、早くシル様にジンの無事な顔を見せてやらねば」
手綱を渡され、どうしたらいいのかと思ったが自然と体が動きあっという間に馬に騎乗できた。
「見事なのりっぷりだな、勇者は総じて騎馬が下手と聞いていたが、うまいやつもいるんだな、さ私について来い」
エルカはそういうと馬を王都に向けて走らせる、俺もそのあとを追うように手綱を引き馬を走らせた。
うまく展開が練れない
毎日更新されてる方はすごい