1 馬とニンジンと私
読んでくださってありがとうございます。
「おはよ~。今日もよろしくね」
厩舎(馬のお部屋)にはいる時には、小さく切ったニンジンを準備します。挨拶とともに差し出して、無口をかけるのだけれど・・・・・・。
「あれ、無口に入ってくれない・・・・・・」
無口は乗る前に鞍を載せたり、準備するときに(馬装という)繋ぐために顔につける縄みたいなもの。
馬は背が高いので、頭を上げると無口をかけることが出来ないんです。無口を用意すると入ってくれる仔もいるのだけれど。
『ニンジン一個で俺様が言うことを聞くと思っているのか?』
見下ろす目が、既に俺様。
「もう一個だけだからね」
優しい女性は、もう一つ差し出す。
『へっへーん! 後ろむいてやれ』
ニンジンがなくなったとわかると、とたんに後ろを向いて、出社拒否をする仔もいます。
さて、そうなると困った女性は、「先生~」とスタッフを呼びます。
『あ・・・・・・呼んじゃった・・・・・・。来なくていいのに・・・・・・』
ニンジンをせしめて、仕事を拒否するところまでは頭がいいなぁと思うのですが、『あ~あ・・・・・・』という目をしてスタッフに無口を付けられる馬を見ると、お仕事ってわかってるんだから、やってやれよと思わないでもありません。
ええ、馬は人間の三歳児なみの頭脳があるといいます。賢い仔だと五歳くらいです。
横で見ながら、「おバカだね、あんたは」と言うと、馬は『はぁ、仕事かぁ』という目で見てきます。
それでもやらずにはいられないのです。あわよくばニンジンを沢山ゲットするため。勿論、種族的なもので上下関係を図るためでもあります。馬は群れの動物なので、常に試してきます。自分はこの人の上なのか下なのか。そうやって試しているうちに楽しくなってきたのでしょうか。
ベテランの馬ほど、日々に楽しみを持っているようです。