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ららばい  作者: kikuna
7/8

⑦朧月

 社会人になった春香は、一度もこの家には帰ってこない。

 法事の時すら、直接寺に来て帰って行く。

 自分が悪い、そんな事は充分すぎるくらい分っているんだ。

 春香が家を出てから3年3か月。俺を訪ねて一人の青年がやって来た。

 驚いちまった。

 職場の同僚だという青年、水越敏明って言うらしい。

 春香と一緒になりたいと言うんだ。

 うちの事情を聞かされていなかった水越は、何故か父親に会わすのを拒まれ、心配になって春香に内緒で、いろいろ調べさせてもらったと、申し訳なさそうに話す。

 結婚を反対できるような身分じゃない。人柄だって良さそうな青年に、俺は無条件で頭を下げていた。

 言えることはただ一つ。

 「娘を、大事にしてやってください」

 それだけだった。


 数日後、水越から説得された春香が電話を掛けて来た。挙式には参列しないでくれと言われ、俺は言葉を失う。


 空に浮かぶ朧月がやけに目に染みた。


 どうして俺じゃなくてお前だったんだと、つくづく思う。

 そんな事を思いながら酒を飲んでいると、倫子の声が頭に蘇る。


 「はいはいはい。ケンちゃんの良い所、これから言います」

 酒に酔い潰れた倫子を迎えに行った帰りだった。

 「一つ目、不愛想なのに本当はすっごく優しいです。二つ目、目が小っちゃくてリスみたいなところです。三つ目、背中があったかい所です。四つ目、友達の為に泣けるところです。私、知っているよ。ケンちゃん、いつもこの時期、酒を持ってあそこに行っては泣いているの。私、いっぱいケンちゃんのいいところ、知っているんだから」

 背中が冷たくなるのを、俺は黙って感じていた。

 バイク事故で、友達を一人失っていた。

 中学から一緒で、親からぞんざいな扱いを受けていた俺等は、バカな事ばかり話しては、盛り上がった。どうして、そのことを倫子が知っているのか、不思議だった。

 「だから前にも言ったでしょ。本当のケンちゃんを見つけられるのは私だけだって」

 泣けて泣けて仕方がなかった。

 だからいつも思っちまう。

 何で俺なんかを見つけちまったんだよって。

 春香の言葉を、素直に受け入れた俺は、空を見上げ、あの日のように声を殺して泣いた。

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