②ちんけ
ちょっとやそっとで俺の人生は変わるはずもなく、たむろする場所だけを変えて、俺は道を通る奴らに眼を飛ばし、好き勝手していた。
「こんな所に居た」
弾んだその声に、俺は凄みある目つきで見上げる。
「またタバコなんて吸って」
そう言ってタバコを取り上げれた俺は、
「何じゃこら」
当然のように声を張り上げた。
足を震わせたあの店員が、それでも笑顔で俺を見ていた。
「おめーの店じゃねーだろ」
「違います。でも迷惑になっているのは変わりませんよ。また警察、呼ばれちゃいますよ」
「うぜーこと言ってんじゃねーよ。このあま」
余程怖かったんだろう。涙を浮かばせたその女は、スカートをぎゅっと握りしめ、それでも俺に突っかかって来た。
「間違っているもんは間違っています。それにそんな事ばかりしていると、本当にダメになっちゃいます」
「俺がどうなろうと、おめーの知ったことじゃねーだろ」
「知ったことじゃありません。でも、私、私」
参ったと思った。
それからというもの、倫子は俺の居場所を突き止めては、ちまちまと小言を繰り返し、あの笑顔を見せては、タバコの代わりにと言って、飴玉を口に放り込ませた。
ウザいと思いながらも、俺の心の隅に、倫子はいつの間にか住みついてしまっていること、気が付かず、月日が流れる。
くだらないいざこざだった。
気が付くと俺は頭から血を流し、その場に崩れていた。
もう終わりだと思った。
血が目に入り、景色が赤くにじむ。
くだらない俺の人生。心配してくれる奴なんて、もう誰もいないと思っていた。
それなのに、倫子は俺の手を握りしめ、意識を取り戻したのを見て、涙流して喜んでくれたんだ。
「こんな生き方、私のためにやめて欲しい」
その言葉を、すぐに受け止められたわけではない。
ぐずぐずと、幾度なく繰り返すそんな生活を、倫子は必死で割りこもうとして来て、危うく巻き込みそうになり、俺はやっと目を覚ます。
こんな俺のどこが良いのか、さっぱりだったけど、せがまれるまま、江夏倫子が霧島を名乗るようになり、古いアパートが二人のお城になる。
族から抜けた俺は、家出同然の倫子と二人流れ着いた街で新生活を始めることになった。
それでも、俺の性根がすぐに治るはずはない。
定職に就かず、仕事を見つけても三日ともたずにいた。
朝から晩まで倫子が働いて、そんな俺を支える。
何一つ文句も言わず、黙々と働く倫子。
それがいつしか、当たり前になってしまった俺は、好き勝手にその金を使いまわってしまう。
倫子が俺に対して、唯一、眉間に皺を寄せて怒るのは、タバコを吸うこと。
本当に嫌がった。あんまり嫌がるから、その理由を聞いたことがあった。
大好きだった先生が肺がんで亡くなってしまったと、涙ぐんで話し、その先生が初恋の相手だったという余計な告白まで、付け加える倫子を、俺は強く抱きしめる。
とっくに死んでこの世にいない相手に、情けないことに俺、妬けちまった。
そこまで言うなら、辞めてみようかと思ったのも束の間、俺の口にはタバコが銜えられ、倫子の財布から抜き取った金でパチンコをうっていた。
山ほどの景品を手に、自慢げにする俺に、倫子は呆れはしたが、
「お腹が空いたでしょ」
そう言って、食卓いっぱいの食事を用意して、また仕事に出かけて行く。
二人で暮らし始めてから、倫子が満足に寝ている姿を、あまり見たことがない。
よく躰が持つなと言う俺に、飴玉を見せて、元気の源と笑ってみせる。
だから俺、すっかり安心していたんだ。
何があっても倫子だけは俺の傍に居てくれる女だと。




