エピローグ
アルツィオラの王立美術館には、一枚の大変有名な絵がある。
全体に暗い色調の中、画面右手に銃を構えて兵たちが並び、左には群衆の姿が描かれている。いや、群衆と言ってもそれは、ほとんどがすでに斃れている。その中で真ん中に一人、白い服を着て、絶望の表情を浮かべながら、両手を広げている男の姿がある。
この絵は、シルヴァルドによるモンティバル征服に対して蜂起したアルツィオラの市民が、虐殺される姿を描いたものである。そしてこの真ん中の白い服の、今まさに銃殺される直前の男こそが、蜂起の中心人物の一人、ギル・ヴァン・ドランであった。
絵の解説や歴史書をひも解くと、ギル・ヴァン・ドランは元は軍人であったが、このアルツィオラの蜂起の時には一介のパン職人であったという。そして、この男にはブロンドの美人の奥さんと、五人の子どもがいたという記述もあるが、彼らの名前や消息まで伝えているものはない。ただしゲリラ活動に熱中したヴァン・ドランはあまり家に寄りつかず、女ぐせも悪かったとも言われている。
結局、シルヴァルドのモンティバル支配は、その後盛り返した諸国連合との戦にシルヴァルドが破れ、失脚、追放されたことにより終わりを告げ、再び王制が復活した。シルヴァルド側に寝返ったゴルディアク、チャドランといった将軍はことごとく反逆罪で銃殺された。
シェーネル湖畔のソーナ・アルヴォラータの一族は、シルヴァルド時代に非常に厚い保護を受けたことが災いして、王政復古後、国外追放になった。ただし、ソーナ・アルヴォラータ自身は、その前に老衰のために静かに生涯を閉じていた。
国外追放になったソーナの一族は、新大陸を目指した。しかしその詳しい人数や名称は不明である。また、新大陸移住後も、特に傑出した人が出たという話はないが、その血脈を受け継ぐ者は今でも多く、新大陸を中心に世界に散らばって生きている。
ただ、この一族が最初に新大陸に入植した地域には、木を複雑に組み合わせて作られた細工物が、今でも土地の名物として伝わっている。一種のパズルのようなもので、表面の木を複雑に動かすと、箱が開く仕組みになっていて、それは「リュテカ」と呼ばれている。由来は詳しくはわからないが、この箱を初めて作った人の名だそうだ。
すべてはこうして無名のものとして、歴史の堆積の中に埋もれてゆく。しかし、わずかながらの痕跡が、稀に残ったりもする。
もはや語るべきことは何もない。これにてこの物語を終わる。
完




