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今回性的虐待の話が出てきます。駄目な人はご注意ください。

 数日後アギトが食堂で昼食を食べていると顔なじみの使用人のルカウドが向かいの席に座る。何度か飲みにも行ったことがある間柄で彼は主に馬の世話をしているのだが馬の数も少ないためいつも暇そうにしている。そのせいかどうか滅多に馬屋にいるのを見たことがない。

 なんだかニヤニヤしているルカウドにけげんな視線を向けると、


「お前、あのルルとお茶してたんだって?」

「え、なんで知ってんの?」

「へー、やっぱほんとだったんだ。いやーびっくりだな。今まで結構出入りの商人とかあの人に声掛けてたみたいけどみんなあっさりすっぱり断られてたしなあ。まさかアギトがねえ」


 んん?

 その出入りの商人の話は初耳だったので詳しく話を聞くと、アギトが知らなかっただけでルルは結構出入りの業者に声をかけられることが多いらしい。


「まあ、外見だけは抜群にいいしな」

「べつに内面だって悪くないだろ」

「え、何その言い方。もしかして本気?本気で口説きたいとか思ってるわけ?」


 かなり意外そうなルカウドに何となく面白くない気持ちになる。たぶんあれ以来ルルが部屋に来ないというのもあるかもしれない。もしかしたらこのままなし崩し的になかったことにしようとしているのではないかと苛々が募っていた。話しかけてもこれは前からだったのだがいつも「仕事中ですので」とつれない態度で、結構頭にもきていた。

 しかもその上出入りの商人に声を掛けられているだと?

 弄ばれ捨てられそうになっている女の気持ちはこういうものなのか。


「だったらどうなんだ」


 こうなったら外堀から埋めてやろうではないか。

 アギトはルカウドに挑戦的な口調で言い放つ。


「言っとくけど先に目をつけたの俺だから」


 もう手も出してるけど。


「へええええ。どうぞどうぞ。がんばってよ」


 ルカウドの目はキラキラと輝き、面白いネタを仕入れたぞと今にも屋敷中に触れまわりたそうにうずうずしているのが分かる。

 ふん、思い切り広めるがいい。ついでに出入りの商人にも広めてくれ。

 アギトはお先にと食事の終えたトレイを片づけ仕事に戻った。



 夜、アギトの部屋の扉が小さくノックされ、待ち構えていたアギトはすぐにドアを開ける。

 予想通りそこにはルルが立っていた。


「どうぞ?」


 身体を斜めにしてルルが通れるようにするが、


「わたくしは今日ここで」

「構いませんが誰かに見られるかもしれないですけど」


 それは嫌だったのか渋々といった感じで部屋に入ってくる。いつもは部屋着のようなものに着替えているのに今日は黒い制服のままだ。今日はまだ仕事モードだから絶対にやりませんと宣言されているようでなんだかなー。と思いながらアギトはお茶を入れる。


「ソファという気の利いたものはないんでベッドにどうぞ」


 使用人部屋にはベッドとちいさな棚とテーブルが置かれているだけだ。食事は食堂だし部屋は寝るだけなので十分これで事足りる。


「ありがとうございます」


 お茶を受け取りアギトからかなり離れたベッドの端にちょこんと座るルル。


「そんなに警戒しなくても無理やり押し倒したりしませんから」

「いえ、わたくしはべつに」


 お茶を一口飲み、何から話そうか迷っているようだったのでアギトは自分から口を開く。


「もう少し早く来てもらえると思っていましたが」

「……もう来ないつもりでした」


 やっぱりか。


「なぜですか。街であの男に会ったからですか。何の説明もされないで終わりなど到底納得できませんが」

「わたくしたちの間では何も始まっていないと認識していましたが」


 ぐっと言葉に詰まるアギト。


「これまでのように身体だけの関係ならば続けても構いませんがあなたが求めているのはそれだけではないようなので……それは困ります」

「困る?なんで困るんですか?俺の他に好きな人がいるとか将来を誓った人がいるとかそういうことですか」

「いえそれはありません」

「では俺のことが嫌いなんですか」

「それは分かりません」

「いや分かるでしょう。普通嫌いな男に抱かれたりします?」

「他の人はどうか分かりませんがわたくしは…。街で会ったあの男はわたくしの従兄です。虫唾が走るくらいに嫌いですが幼いころから何度も犯されました」

「……え」

「わたくしの家はかなり貧しくのんだくれの父と薬でおかしくなった母親がいます。父はわたくしが幼いころに酔い潰れて外で寝てしまいそのまま凍死しました。わたくしは父が外で寝ていることを知っていましたがそのまま死んでしまえばいいと思っていたので放っておきました。残った家族は母と姉とわたくしでしたが母は子供を育てられないとわたしと姉を父の弟のところに預けました。叔父は父よりはまともでまじめに働きそれなりの暮らしをしていました。しかしやはり父の血筋か当時十三歳の姉を娼婦のように扱いました。叔父には妻と息子が一人いて立派な家もありました。姉のおかげで叔父はわたしに手を出してくることはありませんでしたが従兄は違いました。そのときわたくしは10歳でした。従兄が具体的にわたくしに何をしたかお聞きになりたいですか?」


 無言で首を振るアギトにルルはそうですかと頷き、


「その関係は姉が15で本当の娼婦になるまで続きました。姉はそのときすでに子供のできない身体になっていて、娼館にわたくしを連れて逃げました。わたくしは年齢の関係ですぐに娼婦になれませんでしたが姉が頼みこんで一緒に住まわせてもらえることになりわたくしは娼館から学校に通いました。成績の良かったわたくしは先生に後見人になってもらいそうしてここに勤めることになったのです」

「…………」

「納得できたでしょうか。わたくしはここに勤めなければ娼婦になっていたのです。いえ、正確にいえば10歳のころからすでに娼婦でした。ですからわたくしにとって肌を重ねることには何の意味もないのです」


 アギトはベッドから立ち上がり空になった自分のカップをテーブルに置く。


「ルルには意味のないことかもしれませんが俺にとっては意味があります」

「ですから意味のあるものにされては困るのです」

「どうしてですか」

「どうしてって、あなたわたくしの話聞いてました?わたくしは汚れているのです。娼婦ですから」

「誰がそんなことを言ったんですか」

「誰って…、従兄です」


 ルルのカップにはまだ中身が残っていたが、まだ飲むのか聞いたところ首を振ったので受け取ってそれもテーブルに置く。


「自分のことを娼婦と言いましたが一体何人とやったんですか」

「何人て……ふ、二人ですけど」

「二人ってまさか俺を入れてじゃないですよね」


 アギトの言葉にルルは頬を染めながら、もごもごとそうですけどと呟く。


「それはまた随分身持ちの固い娼婦ですね。ナノコなんかこないだ10人斬り達成したって自慢してましたけど」

「ナノコ、とはこの前エミリア様付きで入ってこられた17歳の女の子のことですか」

「そうです。ちなみに俺も一夜限りの関係含めるとルルで六人目です。かなり汚れた男ですみません」

「そんなことは……」


 視線を落として小さくつぶやくルルにアギトは柔和な笑みを浮かべる。


「こう言ってはなんですが、もっと最悪なことを想像していたのでまあ安心しました」

「……は?」

「あの従兄との間に何かあったことくらい阿呆じゃないので分かります。その上で今日の話は想定内です。実は結婚していたとか子供がいるとか運命で固く結ばれた相手がいるとかじゃないなら大丈夫です」

「大丈夫って」


 半ば呆れたようなルル。


「従兄が生きていると前向きに生きれないというのなら俺が殺ってきましょうか。職業柄闇討ちとか得意なので。証拠が残らないようにやってきますから大丈夫ですよ。それともあれですか。二度と悪さが出来ないようにちょん切ってきましょうか。男にとってはこっちのほうが死ぬより辛いかもしれません。どっちがいいですか」


 ルルはまじまじとアギトの顔を見つめる。


「本気でおっしゃっているのですか」

「半分冗談で半分本気です」

「…………」


 押し黙るルルがいやにそそるなあとアギトは全く関係のないことをぼんやりと思う。なぜかと考えてみると制服のせいだ。多分。露出があまりないくせに体の線がまるわかりなのでそのアンバランスな感じがなんとも言えない。そのバランスの悪さはなんだかルルのようだ。


「押し倒してもかまわないですか」

「構います。今日わたくしたちのことが噂になっていると聞きました」

「噂?」


 アギトはすっとボケる。ルカウドがこちらの望んだようにうまいこと噂を振りまいてくれたらしい。


「あなたがわたくしのことをその、愛してしまって、わたくしに一言でも声をかけるものがいたら殺すと触れ回っていると」


 なんだそれは。それじゃあまるで頭がちょっとアレな人みたいじゃないか。いったいどんな伝わり方をしたらそうなるのだ。噂って怖い。


「いやそんなことで殺さないですよ」

「当たり前です」

「俺も聞いたんですけど、出入りの商人に声をかけられることが多いそうですね?」

「出入りの商人のほとんどはわたくしが応対しますから」

「そういう声をかけるとかじゃないです。わざとそういうとぼけたことを言っているのですか。それとも本当に分かっていないのですか。声を掛けてくると言ったら食事に誘うとか贈り物をしてくるとか要するに一発お願いしたいという前ふりのことです」

「え……」


 ルルの目が不安そうに揺れる。

 うん?これは本当に分かってないということか?


「それは…そういうことは何度かありましたが、向こうは何かわたくしに便宜を図ってほしいとかそういうことだと思いますけど…」

「違いますよ」


 アギトはルルの手を取るとその甲にそっと口付をする。


「気持ち悪いですか?」

「え?」

「俺に触られたりすると虫唾が走ります?」

「い、いえそれはないです……けど、わたくし今日はそういうつもりではなく、て……」


 微かに抵抗するルルをなだめるように髪を撫で、頬に口付ける。


「噂を流したの俺です」

「え?どうしてそんなことなさったのですか」

「だってルル俺の部屋に来てくれなかったでしょう?で、そのまま来ないつもりだったんでしょう?だからです。ルルが嫌だと言うならこのままの関係でいいですからちゃんとこれからも俺のところに来てください」


 アギトの言葉に少しためらったのち小さく頷くルルの服を脱がせながら内心邪悪な笑みを浮かべる。


 このままの関係?

 そーんなわけない。

 この人外見はこうだが中身の恋愛レベルは幼児並みに低い。そこがいいのだが放置しておくとどっかの誰かに奪われる。そうなる前にきちんと捕獲しておかなければ。このまま外堀から埋めてってやる。大人になると本当嘘とか駆け引きとか平気で出来るようになるんだななんて青臭いことを思いながら。


 ルルのなめらかな身体に手を滑らせアギトはこれからしなければいけないことを頭の中で順序立てた。


 だってもうこれ俺のだもん。

 

 

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