ゴブリンと妖精狩りの赤き夜
「断定するにはまだ情報が足りませんが……、神殿都市に創世樹の宿主がいるのかもしれませんね」
その言葉にエヴェトラは双眸を見開いた。
「それは、まさかこの私でさえもしらない……料理ですか!? ソーセージのシュー・クシュとはどんな料理なのでしょう」
「俺もその料理は未知のものですが……言葉の響きから想像するとシュー生地を使った甘くない料理で、クミンやターメリックをきかせたオイル煮を生地に乗せて食べます。オイル煮の具材はソーセージと、タマネギ、ニンニク、レンズ豆あたりがオススメです」
「なるほど! 美味しそうですね!」
「同感です、ソーセージが美味しくないわけがない……」
「私も考えましたよ! これはクリーミーなキャベツのポタージュの中央に、丸く平たく形成したクスクスをててーんと配置。その上にイチョウ型にカットしたリヨナーソーセージ各種フレーバーを芸術的に盛りつけます。ピスタチオ、パプリカ、チーズ、オリーブの実とか、色んな味のリヨナーで華やかに! どうでしょう!」
料理を発想するのは得意なようだ。バザウははじめてこのポンコツ神を褒め称える気持ちになった。
ひとしきり二人で空想グルメの世界にひたった後で、バザウはハッと我に返る。
「……いや、架空の料理に舌鼓をうっている場合じゃなかった……」
軽く咳ばらいをして、いつも以上にすました顔を作る。話の軌道をもとに戻す。
「ネコの神さえも巻き込まれた心の異変……これは尋常ではありません。この地でチリル=チル=テッチェの創世樹計画が進んでいる可能性があるのではないでしょうか」
「? チリルさんは何を計画しているんです?」
そもそもエヴェトラは創世樹という言葉をしらなかった。バザウは創世樹計画のあらましについてエヴェトラに教える。
「ええ~……。そんなことになっていたとは!」
ルネの話ではこの世界の神々はチリルの創世樹計画に対して妨害をおこなっている。
しかしエヴェトラのこの反応。他の神々から何も聞かされていないようだ。チリルに足までもがれておきながら。
(可能性その一、仲間外れ。可能性その二、ポンコツな頭は重要事項を忘却した。可能性その三……)
バザウは魔法の包帯が巻かれたエヴェトラの右足部分を見た。包帯は神の失われた手足をかたどり実際に動かすこともできる。だがそれは代わりにすぎず本物の手足ではない。
(……コイツは禁足の森で長い間封印されていた。創世樹計画が封印中にはじまったものなら、他の神々から妨害についてしらされていなくても当然か)
チリルとルネがエヴェトラの手足を奪い、その傷を癒すためにニジュが禁足の森に菌糸の繭を作った。封印が破られたのはつい最近のこと。
仮にエヴェトラの封印中に創世樹計画が開始されたのだとしたら、その前にチリルが右足を奪っていることがまったく無関係だとは思えない。
(直接尋ねるのは気が進まないが……かといって婉曲な言い方では伝わるまい)
バザウはエヴェトラに切り出した。
「確認したいのですが、チリル=チル=テッチェはなぜあなたの足を奪っていったのでしょう?」
伝承は様々な思惑が込められて事実から変質していく。どんな貴重な本よりも価値ある情報源がバザウの目の前にいた。
「それはですね。多分私がチリルさんの怒りに触れたからです! なんでも崇高な意志の持ち主を私が汚してしまったとかで。たしかに私はチリルさんの信奉者百人ぐらいにちょっとばかり強引な方法で生命のもとを注ぎ込みまくりましたが、まさかそれが問題になるとは……」
「……大問題では?」
バザウは無表情でエヴェトラから距離を置いた。
「いや~、良かれと思ってしたことなのですが」
「あなたがどこで何をしようと咎めませんが、一つだけいわせてもらいます。あなたが良かれと思ってしたそのおぞましい行為を俺には絶対にしないでください」
「ええ~、そんなに嫌がることでしょうか? 生き物の三大欲求の一つですよ? 封印が解かれた後にオークの農園を回った時も皆さんとても喜んでいました。あるオークの母親などは虚弱な赤子を抱いて私の前に進み出たというのに」
あまりのことにバザウは反射的に耳をふさぎ、それからあらん限りの軽蔑と敵意のこもった鋭い視線を好色の豊穣神へとむけた。
「あ、あっ……赤ん坊相手になんてことを!! 尾篭なケダモノ……、いや淫行のムシケラめ!!」
エヴェトラは豊穣を司る神であり生殖とも深い関りを持つ。だがそれ以外にもこの神は生命の循環や大地の浄化とも縁があり、そして司っているのはフォイゾン。食べ物のエネルギーだ。
「私の司でもあるフォイゾン。あ、フォイゾンというのは食べ物に含まれている精気のことです。健康な生き物は普通の食事でまかなえていますが、弱った命や痩せた土地に生命のもととなるフォイゾンを注ぎ込むと元気ハツラツになるのです!」
三大欲求、性欲と食欲の喰い違い。
チリルの信者にエヴェトラが注いだのはフォイゾンだった。バザウが想像して嫌悪していたものではない。
「チリルさんの信者たちはすごく空腹な状態で、餓死者もちらほら出ているありさまだったのですよ。戦で敵の人たちに囲まれて城から身動きが取れなくて食べ物もない状況で」
バザウは誤解を詫び、疑問を投げる。
「豊穣神エヴェトラ=ネメス=フォイゾンよ。矮小な者の誤解と非礼をお許しください。それにしても籠城の末に死にかけていた信者たちの命を救ったというのに、チリルはあなたにずいぶんと理不尽な仕打ちをしたようですね」
「私の関与が意志と感情の優劣を決める神聖な戦争を邪魔したっぽいです! チリルさんはたいそう怒って私の足を切って持ってっちゃったんですよ~。あの時は驚きました~」
エヴェトラは腕組みをしながら眉間にシワを寄せ渋い顔でうんうんと頷いている。
ダークエルフの呪歌術氏に伝わる話では、チリルとルネは互いの信者を使って代理戦争をしていた時期があった。心の二神の戦争に邪魔者が入りチリルが激怒したというダークエルフたちの伝承は、エヴェトラの関与を示しているのだろう。
「飢餓状態の生き物にいきなり消化しづらい食べ物を与えると致命的な負荷がかかる場合がありますが、フォイゾンの注入には害はありません。ただ一つ……」
エヴェトラは真剣な顔で右手の指を折り曲げている。
「ひと……二つ? 重要な問題があるとすれば、食べ物の純粋なエッセンスにすぎないフォイゾンには味がなく、したがって美味しいものではない! ということです。そして……体を得たばかりの初期の妖精がこの世のフォイゾンを摂取したことで、来訪者でしかなかったはずの彼らは本格的にこの世の存在として根付いていきました」
異界の食べ物を食べると元の世界に帰ることができなくなる。ならばその逆もありえる。どこか異常な世界からやってきた侵入者がこの世の食べ物の精気をその身に取り込み、元の世界への帰還を拒絶することが。
「……血肉のかよう体まで得てこの地の食べ物を口にして育まれた命は、もはやこの世界の命の一つとして見なすしかないのでしょうね。最初の出自がどうであれ……」
悩みなどないようなエヴェトラの目に苦悩と迷いの色が浮かぶのをバザウははじめて見た。
「……神殿都市に起きた異変を調べたいのはやまやまですが、俺が街に入ると無用な騒ぎを呼ぶ可能性が高いです」
行動を起こすにはあるものが必要だ。創世樹の宿主を特定するにも、どんな真理を抱いているのか探るにも、その真理を無残に打ち砕いてやるのにも。
「なのであなたには情報収集をお願いしたい」
エヴェトラに知的な活動を一任するというのは、刃物を一度も持ったことのない子供にカミソリを握らせてヒゲソリを頼むようなものだ。
それはわかっている。しかしバザウには他に頼める者がいない。
「お任せください」
あまり賢いといえない神は、無意味にポーズをとりながら自信ありげな表情をしてみせた。
◆◇◆◇◆
その夜の満月はひたすらに赤かった。
暗い荒野を獣たちの影が駆け抜ける。神々ではなく、この地に息づく命たちだ。
長き角を持つ大きなオリックスも、蹄に似た爪を持つ小さなハイラックスも、一様に恐ろしいものから逃げてきた。
壮健なブチハイエナの姥も、猛きライオンの王も、巨大なゾウの長も、自分たちの群れに危害が及ばぬように避難する。
逃げ惑う生き物が巻き上げた砂煙がもうもうと立ち込める。
恐怖の鳴き声や必死に走る音も、次第に遠ざかっていく。
やがて最初のきざしが表れた。
夜風がびりびりうなりをあげる。
大地は武者震いをするかのように鳴動した。
暗雲は星々を飲み込み、怒りを叩きつけるかのような驟雨となる。
赤い月の晩に荒野をさまようのは血に飢えた神々の群れだ。
目的はただ一つ。妖精をこの世界から消し去ること。
三獣神は早い段階で妖精の特性を見抜くことに成功した。
妖精は強い思いに反応して集まってくる。
そこに願いがあれば妖精はわけ隔てなくそれを叶える。
険しい岩肌の塩をなんとしても舐めたいという頑固なヤギでも。
大地をかき分け岩を砕いてその根を広げようとする気長な樹木でも。
一滴の水に口吻を伸ばそうとする、乾ききった死にかけのチョウでも。
妖精をおびき寄せるのに最も効果があるのは死を恐れ生を切望する命であった。
おびき寄せに使うのはどんな命でも良かった。神々の間に遺恨を残さないことから、種族神からの保護がついえた人間が一番多く利用されている。
その命はひどく痛めつけられていた。人間に詳しい者が見ても、もはや性別や年齢を断定できないだろう。
幹からへし折られた立ち枯れた木。その枝の先に瀕死の人間がくくりつけられている。
通常のいかなる治療手段でもその傷は癒せない。
キツネの神が生贄の脳に言葉を流し込んだ。
「へっへっへ、こりゃあひどいもんだ。お前さんはもう助からないね。唯一救いの道があるとするなら、この世の理にとらわれず神の呪詛すら退ける妖精にでもすがることさ」
もはやその人間はあまり複雑なことを考えられなくなっていたが、弱りきった肉体の中であぶくのように思いが浮かんで消えていく。
――ここから逃げたい。家族は無事かな。元に戻して。苦しいのは嫌だ。楽になりたい――
それは一つの願いになった。
そして人間の腹部にに白いカビっぽいふわふわがいきなりポンと。わあ、なんと。
ふわふわはまたたく間に増えてって、人間全体をすっぽり覆ったではありませんか。
そしてお待たせしました。真っ黒なハエの一団をかいくぐって☆銀河色の綿雲☆がぴゅーん! ピコンと元気に大復活。遺体の痛いの飛ばしましょう。
地面にしたたり落ちた血の雫を真っ赤なキレイなビーズに変えて、さらりさらりと詰め直す。
白ふわカビは綿毛な感じに飛んでいきます。
五穀豊穣。五体満足。お目々、舌べろ、骨いっぱい。裂けた手の平、折れた足。スッキリすっかり治しました。
ついでに家族のとこまで飛ばします。グッバイさよならお元気で。
さあさあ妖精の登場です。
まだピチピチ若輩者の神や精霊はすでに妖精の影響を受けて、きゃー大変だー! とあたふたしています。
いったいぜんたい、どうなってしまうのでしょうか?
「気を引き締めろ。油断するとすぐ侵蝕されるぞ」
三獣神に数えられるワタリガラスは冷静だ。思考の乗っ取りもされてはいない。
多くの神々もまた、若干緊張しているが取り乱したりはしていない。
「妖精殺しは骨が折れますが、不可能ではありません。途中で諦めず最後まで手を抜かないこと。仲間の精神が発狂したり、現身が変容させられたり、もっと理解しがたい状態になってもです」
すでに神々は多くの妖精を消してきた。妖精が殺せることはわかっている。
それでもオオカミは、妖精は殺せるのだと改めて仲間に言い聞かせる。心が折れてしまわぬように。妖精との戦いは虚無や徒労との戦いだ。
現れた妖精はかつての不出来な頭足人型ではなく、小さく華奢な人体に翅をつけた姿をしていた。その翅は発光している。
飛翔する妖精を狙い、雷雲の神が紫電を落とす。
数多の亡者の腕のごとく雷の包囲網。
そのうちの一つが妖精をとらえた。
☆ ☆
☆☆☆ゴロゴロぴしゃーん☆☆☆
☆ ☆
ドクロマークがすけて浮かびます。
体がちょっぴりバチバチしましたが妖精はまだまだ元気です。
えいやっと不思議な力を込めまして、ゴロピカ雲をふんわりひつじ雲に変えました。
遊び心サービスで、虹色シャボン玉みたいなステキパステルカラーで染めてあげました。
「うっへー! くわばら、くわばら。大自然の猛威たる雷神さんが、マルーラの実でへべれけになったキリンの夢みたいにヘンテコにされちまいましたね」
討伐隊に参加していたオオミミトビネズミの神が面喰って飛び上がる。
興奮して大きな耳をパタパタ揺らす。
「むこうはマジでなんでもありって感じッスね。ウチらって勝ち目あるんです?」
オオカミが答える。
「ええ、時間さえかければ」
「持久戦ねえ。それでこんだけ戦力をかき集めたってわけですかい? ウチみたいに非力でいたいけなネズミちゃんまで」
オオカミの口の端からかすかに牙がのぞいた。バカと話すのに苛立っているようだ。腹が空いているわけではない。
「妖精殺しには数が重要であって個々の強さは無意味です。断固とした敵意を込めての拒絶。それを続けることで妖精は消えます」
「ボコすのはオマケみたいなもんで、ハブる方が効果てきめんってことですかい?」
トビネズミの低俗な表現にオオカミはうんざりした様子で頷いた。
「しかし全滅させちまうのは惜しいような……。願いを叶えてくれるってんなら、上手いこと騙くらかして利用できないんスか?」
「共存ではなく侵蝕されることになりますよ。妖精はあまりにも異質です。我々の生きる世界を歪めます」
強い思いに反応し、願いを聞き届ける。
敵対的な相手でも命は奪わない。
しかし忘れてはならない。
妖精は本来この世界のものではない。世界にとっての異物だ。
その力は荒唐無稽といえるほど自由自在で、神の力と拮抗あるいは凌駕する。
利用や共存ができると考えるのは楽観的すぎる。
「妖精に殺された神は一柱もいません。発狂や変容は影響を与えた妖精を消すと同時に消え去ります。恐れずに最後まで戦いなさい」
オオカミはトビネズミを一瞥した。
小さな体に不釣り合いなほど大きな耳に長い足。よく見かけるネズミの仲間たちと違って、トビネズミはなかなかにユニークな造形をしている。
「……あなたは妖精に姿を変えられても、今と大差なさそうですね」
「ひどいッスよ!」
妖精は神々からの攻撃をあしらい続けている。
欠損も負傷もしていないが、妖精の動きからは楽しさが失われつつある。
☆ひきりきりきり☆ひきりきい☆
☆ぺちぺちぺっちん☆
*ぽとっ
……ぶちん*
(そろそろ仕上げかな)
シアは妖精の衰弱具合を観察していた。
大小さまざまのパステルカラー星型オブジェが荒れた大地にめりこんでいる。これも激しい戦いの痕跡だ。
敗北の結果、にこにこ顔マークを描かれたトカゲと肺魚とバオバブとビスマス鉱石と蜃気楼の神五柱がご機嫌な笑顔でラインダンスをしながら連れ立って移動している。
ネコのミュリス=ネドジェム=マトゥは早い段階で脱落した。意志が脆い。
神の威厳を粉々に打ち砕かれはしたが、原因となった妖精を消し去れば元に戻る。妖精とリンクしてしまったニジュと違って。
(これが済んだら囮に使った生き物も片づけておかないと……。どっかに飛ばされたけど追跡が得意な神に任せれば余裕でしょ)
妖精から治療を施された囮は、これまで一件の例外もなく処分している。
神や精霊のようにこの世界で生じた者ではないくせに、この世界に干渉してくるところが実に不愉快だ。
既存のどんな生物でも物体でも法則でもない、正体不明の出来損ない。
こんなもののせいでニジュが歪められたのかと思うと、わいてくる怒りが制御できなくなる。
「何をやり遂げても、何をしなくても、この世界に居場所はないよ。どんなにあがいたところでしょせん異物は異物なのさ」
本体の水球から軽やかな音を立てて水の帯が分離した。
成分的には酸素を豊富に含んだ水だ。濃塩酸や濃硝酸や王水のような物騒な物質ではない。
ただシア特製のこの水はシアが狙った対象にごく微量が付着しただけで問答無用の急激な酸化反応を引き起こす。
派手な炎こそ出さないが、シアが念じれば有機物でも無機物でも水の中で燃え尽きていく。
「色んな反応が観察できて知的好奇心がくすぐられるね。妖精を沈めたらどんなことが起きるかな?」
シアは毒の水を操った。いつもの命をいたぶる遊びとはわけが違う。本気の掃討だ。
突然水がはじける。水球は水滴に。水滴は微細な霧に。一瞬にして広範囲がシアの毒水で包まれた。
「妖精相手に効果があるかはわからないけど大嫌いだってメッセージぐらいにはなるだろう?」
毒霧に触れ、鉄サビが噴き出したように妖精の体の表面が一気にボロボロになった。
それでも妖精は苦しむ素振りを見せるどころかシアに笑顔を向ける。命乞いの笑みではなく陽気な親愛の笑みを。
シアはムカムカする吐き気を覚えた。藍藻に消化器官なんてあるはずないのに。
「言葉が理解できるなら一つ質問に答えてほしいな。どうしてよりによってニジュを……ニジュ=ゾール=ミアズマの現身を選んで落ちた?」
儀式の中で妖星が介入する心の隙を作ったのは人間神だ。ニジュではない。
☆わぁ、それはねぇ*
体の奥までサビサビだらけの妖精です。
☆☆その神さまがねぇ*
ちょっと動くだけで赤茶色のカスがパラパラ剥がれ落ちて、まあまあなんてばっちいことでしょう!
☆☆☆一番優しそうだったから*
いやはやお恥ずかしい限りです。
☆☆☆☆お友達になってくれたら嬉しいなーって思い切って飛び込みました*
怒りを感じたら気の向くままに殺せば良い。いつもそうしてきたではないか。
しかし今のシアはすぐそこにいる憎い憎い妖精を殺せずにいた。
最後の妖精を殺した時にニジュの存在はどうなる?
悪い魔法が解けて晴れてすべて元どおり? それこそ妖精好みのハッピーな夢物語だ。
イ=リド=アアルの記録と三獣神の推測によれば、妖精の完全消滅と同時にニジュ=ゾール=ミアズマも消え去る可能性が高い。
殺してやりたい。殺せば最悪の事態になる。許せない。どうにもならない。望みどおりの道が見つからない。
シアの葛藤は無意識に願いとなった。
――ニジュと永遠のお別れするのは嫌だ。言い訳がほしい。妖精を殺さなくても済む言い訳が――
赤い満月は輝きを失って沈み、太陽が昇る。
この日、妖精狩りが終息した。




