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ゴブリンと焼け溶けた神の体

 これが生物の体内だとはとうてい思えない。

 バザウは白と淡いブルーの水着でゆったりとした長椅子にもたれかかっていた。

 天井には無数の球形ランプが吊り下げられてこうこうと明るい。

 そして目の前には流れるプール。美肌の湯のジャグジー。ハーブが香るミストサウナ。

 生物は多様な進化を遂げたが、体内にこんな器官を搭載している生物などいないだろう。


「……」


 こんな遊びとくつろぎのパラダイスにいるというのに、バザウの目には失望が暗い影を落としていた。 

 バザウのテンションがだだ下がりなのはエヴェトラが原因でもある。


「わ~い!」


 エヴェトラは、クジラ号に乗り合わせた他の神々といっしょにプールを満喫している。ウォータースライダーが気に入ったようでもう五回以上はすべっている。問題はプールにつきものの水着にあった。エヴェトラの水着姿はバザウを困惑と疑念と悲しみの渦に追いやる。……上半身には女物を着用しているのに、下半身は男物の水着なのだ。


「……」


 ウォータースライダーを笑顔で滑り落ちていく豊穣神の姿をもう一度チラッと見る。

 何度見ても現実はくつがえらない。女物のキュロットパンツなどではなく、まぎれもなく男物のビーチパンツだ。少なくとも十回以上は確認し直したので間違いない。


(たとえば虫でもカブトムシにはハッキリとした雌雄があるが、ミミズ……あれには……そういう区別はなかったと思う……)


 死んだ目で諦念した後、バザウは固く拳を握りこんだ。


(……でもそれをいったら……そもそもミミズには手足だってないじゃないか!! 直立歩行型の神の方が少数派のようだしな……。せっかく人に似せて変身しているのなら……、そこは美女で良いだろ! どうしてアレンジを加えてしまうんだ!? こだわりがあるのか? ……ニッチすぎる……)


 沈黙のまま怒り狂うバザウの気迫に、隣のビーチチェアにいたフジツボの神がビクッとした。


(……これが理不尽な怒りだってことは理解している。他者の性別を俺がとやかくいう筋合いはない……。俺が男のゴブリンだという事実を誰かに失望されたり怒られたとしても、しったことじゃないのと同じだ)


 バザウはちょっと落ち着きを取り戻して肩の力を抜く。女神と旅をしているとすっかり思い込んでいたものだから、そうでないと判明して勝手に動揺してしまったのだ。すべてではないが、たいていの怒りは見当はずれの期待が原因だ。雌雄の特徴を併せ持つ大地の豊穣神エヴェトラ=ネメス=フォイゾンは何も悪くない。




 バザウの近くにいた二柱の神が、意地の悪い声色でひそっと何事かを話している。プールではちょうどエヴェトラがウミガメ型のフロートに乗るのに失敗して、頭から水に落ちたところだった。


「見てアレ。みっともなぁい」

 

 みっともないというその言葉が、間抜けな幸せ面をさらしてプールではしゃぎまくっている神のことをさしているのだと解釈し、バザウも内心それに同意した。だが、コソコソとした言葉の真意はそうではない。


「うわ……。本当に禁足の森から出てきたんだ」


「頭と体がすっかりおいかれになったニジュ=ゾール=ミアズマにとらわれていたと聞いていたけれど……。監禁ごっこに飽きたのか、それとも命知らずな誰かが余計な手出しでもしたのかしら?」


 エヴェトラを中傷した神は、パーツごとに回転する石灰岩の円柱と、表面の穴から規則的にゲル状の何かを噴出する板だった。


「特別な用事があるわけでもないのに変身したままでうろつくなんて、見ていて気持ちの良いものではないよなぁ……」


 ありとあらゆる生き物、無機物、地形、現象、概念が神となる世界には、異形ともいえる奇怪な形態があふれている。その多様さからどんな姿も許容するかのように見えるがタブーもあるらしい。

 神々は自在に姿を変える力を持つがそれは目的に応じて都度使うもの。特に理由もないのに姿を常に変えたままでいれば他の神々から奇異の目をむけられる。神の感覚はバザウにはいまいちよくわからない。会話を漏れ聞いたところでは、姿を常時変えるのは本来の姿への冒涜と受け取られ、また本来の姿が不完全であるとも見なされるらしい。


(あのタイプの形態をとっている神は……、ルネとシアとニジュとエヴェトラ……)


 それら四柱の共通点を探そうと思索にふけるバザウの耳に飛び込んだスキャンダラスなフレーズ。


「エヴェトラ=ネメス=フォイゾンは常識がないのよ。いくら好色だからって、あの恐ろしいシアの愛玩対象を寝取るだなんて信じられなぁい」


「信奉者絡みでシアに楯突いたなんて事件もあったけど。他の神の意向よりも自分の信者の方を優先したとか」


「ウソでしょう? そんなことまでしでかしてよく生きていられるわぁ……。嫌ぁね……」


(……他の神々ならやらないようなことも考えなしにしてしまう気質なのか……。ルネとの遺恨を煽るつもりでいたが、エヴェトラがそういう性格ならば他の手段もとれる……)


 理解できない、気持ちが悪い、やることなすことがおかしい、と石でできた二柱はエヴェトラをそしる。


(……ゴブリンの俺には神々の価値基準などわからないが……)


 そこまでいわずとも良いではないか。エヴェトラを擁護したくなってしまう。頭は悪いが、少なくとも気は良いヤツである。というのがバザウのエヴェトラへの印象だ。


「バザウさ~ん」


 このタイミングで間抜け面が手を振って近づいてくる。石の神たちはさりげなく場所を移した。


「退屈ですか? ウォータースライダーすごく楽しいですよ!」


 胸をぽよぽよさせて無邪気にはしゃいだ後、ちょっと心配そうにバザウの顔を覗き込む。


「あ~……。それとも具合悪くなっちゃいましたか?」


 退屈、あるいは具合が悪い。

 エヴェトラの目にはバザウがそういう風に見えたらしい。


「なぜそう思ったのです?」


「え? う~ん、なんだかバザウさんがつまらなさそうな苦い顔をしてるのがチラッと見えたんですよ~」


「……気のせいでしょう。お気遣いは無用です」


 バザウは無言で自分の頬と口元を軽く手で抑える。エヴェトラが悪くいわれているのを聞いている時に、自分がそんな表情をしていたとは気づかなかった。




 クジラの神の腹に呑まれての旅。箱庭の貴族の暮らしよりも豪華で、七色の学園生活よりも文化的な数日間をすごした。

 ナイアラスの砂浜に魚臭いヨダレと共に吐き出され、娯楽漬けだった享楽の旅は終わりを告げる。

 新月の晩。月のない夜空では星々がいっそう鮮やかにまたたいていた。


「この地の夜は身を切るほどに寒く、昼は灼熱の日差しが地上をことごとく焼き尽くします」


 エヴェトラが見えない糸をたぐるように指先を動かすと、砂粒がしゅるしゅると巻き上げられていく。神が布を畳む動作をするのと同時に砂色をした外套が現れた。


「どうぞ~。着てください」


 色合いは質素で地味なものの機能性はバツグンの服だった。たった一枚の外套を羽織っただけなのに、あらゆる害から保護されている安心感がある。


「あ~。耳や鼻に砂が入らないように顔に巻く布もあった方が良いですね」


 バザウは渡された長布を顔に巻きつけてみるが、どうもしっくりといかない。


「慣れてないと難しいですよね。ちょっとじっとしててくださいね」


 器用な手つきでエヴェトラが一枚の布からターバンとマスクを形作る間、バザウはされるがままで立っていた。柔らかな布に包まれると守られている気がした。

 エヴェトラの残された右手は温かくて、その手が頬や耳に触れるとバザウはちょっと落ち着かない気持ちになる。


「できました~。防寒、日除け、UV対策。これで全部バッチリです~」


「助かります」


 エヴェトラは照れ笑いを浮かべてから星明りの砂浜を進んだ。

 

「記録者の神域まであともうちょっとですよ! ナイアラスでバザウさんに見てもらいたいものはあります。神殿跡地、大河沿いの麦畑、広大な砂漠。見どころはいっぱいありますが私の一番のオススメは……可愛いネコがいる街です!」




 ◆◇◆◇◆




 シアの気が済んだのを見計らい、三獣神は今後の対応について切り出した。各地で発見されたキノコをもとにした生き物。妖星に侵蝕されたニジュ。主な議題はこの二つ。


「ワタリガラス。君が見た生き物っぽい何かって、完全に根絶することはできないのかい?」


「一個体を物理的に破壊するのは容易だった」


「それじゃあ見つけ次第活動を停止させるように全ての神々に通達しようか。数によっては時間がかかりそうだけどさ。で、本題だけど……」


「シア、それは軽率かと。妖星が関わっている出来事です。破壊や根絶によってどんな影響が生じるか、まだ詳しくわかっていません」


「うん? ちと待てよ。物理的な破壊といったか? 言葉の否定は?」


 今までは言葉による存在の否定で妖精現象を戻してきた。妖星対策の基本だ。


「……遭遇して真っ先に試した。だが、あれらは消えたりしなかった」


 ワタリガラスからの報告に、オオカミとキツネは深刻な表情で視線をかわす。


「存在否定への耐性を得たのでしょうか?」


「こりゃまた厄介なことになったもんだ」


「いずれにせよ目障りなのは間違いないよ。くわしく調べるのは聡明な君たちにお任せするさ。で! 本題のニジュのことだけど」


 キツネは若干困った様子でニジュの状況を説明した。

 あらゆる治療を試したがニジュの変容を喰い止めることはできなかったことを。


「変容?」


 こっくりとキツネは大きく頷く。ニジュの体はただ崩壊しているのではなく、強制的に別の何かに作り替えられているようだ。この報告を聞いたシアは深く考え込んだ。


「僕の力で、治すことはできないのかな?」


 健康な人間の神を自己再生し続ける不老の肉塊へと変えることができたのだ。

 ならば逆に自分の力で、弱って変容した菌の神を救い出せるのではないか。シアはそう考えた。


「もちろん慎重にやる必要がある。有害で危険な力だからね。でも上手く使えば、ニジュを苦しめている原因を特定して、それだけをピンポイントで破壊することができたら……」


「ふぅむ。試す価値はありますな」


 治療場にむかうシアとキツネに、オオカミとワタリガラスが声をかける。


「治療場に使っている洞窟の汚染状況は問題ないのですか?」


「空気の浄化は俺が手配した風の精霊が担っている。だが土にしみ込んだ分の処置は充分なのか?」


 キツネは悠々と尻尾を揺らす。


「その点については心配ない。分解のスペシャリストの神がついておるよ」




 ***




 ニジュは近づいてくる気配を感じ取り、浅い悪夢でさまよっていた意識を浮上させる。

 攻撃態勢をとるシアの姿がそこにあった。キツネがそれを制止する。


「違う違う。やめなされい。これが……」


 ぼそぼそした小声でキツネがシアに何かを説明している。

 シアはパッと緋円の帯を引っ込めた。


「ああ、ニジュ! だったんだね! ごめんよ。びっくりしちゃってね。僕は間違えただけなんだよ。警戒してピリピリしていたものだから、てっきりワタリガラスが見た不吉なものがこんなところにまで入り込んだのかと思てしまったのさ」


 キツネに教えられて、やっとシアは目の前の相手がニジュだと認識できたらしい。

 不安感がニジュを襲う。


「君ってやつは……。ずいぶんと脆弱な姿になってしまったね」


 シアの言葉ににじむのは、以前からの親しみとそれから嫌悪と戸惑い。

 いったい自分はどれだけ変わり果ててしまったのだろう。


「でも悲嘆にくれるのはおよしよ。その哀れな姿から、僕が救い出してあげるから」


 横たわったままニジュはシアに少し待つように合図する。

 体力はだいぶ消耗しているが痛みはだいぶマシになってきている。今なら考えたり集中するだけの気力はある。他の神の手助けがなくても大丈夫かもしれない。

 神々は自分の姿を想像力の範囲で好きに変えられる。どんなちっぽけな神にでも備わっている基本的な力の一つだ。

 いつものように念じるだけで良いはずだ。なんの問題もなければ。

 ニジュは自力で姿を元に戻そうとした。


「……」


 いくらやってみてもムダだった。

 姿が変わっただけではなく神として当たり前の力までも弱まっている。


 宙に浮かぶ水が、寝そべるニジュの姿勢に合わせて降りてきた。

 病気の者を落ち着かせるようにシアがささやく。


「心配することはないさ。君は運が良い。僕という優れた友を持っているのだからね」


「失礼ながらそこはヘソと呼ばれている部分ですな。頭はあちら側に」


 シアはぶくぶくと気泡を立ててふてくされた。


「こういうタイプの生き物の体の部位が、本体が藻である僕に一目でわかると思うのかい?」


 ニジュはぼんやりとシアの作業を見つめていた。

 濃く鮮やかな緑色が水の中でたゆたっている。こんな時でもシアの姿は相変わらずキレイだと思う。

 細かな気泡が早いリズムで連続して上がっている。それを見てニジュにはシアがとても集中していることがわかった。

 ニジュはシアの声も好きだった。傲慢なほどに自信にあふれていて、子供っぽいくらい残酷で。


「あれ、おかしいな……」


 こんな風にうろたえるシアの声を聞くのはこれがはじめてだった。

 キツネと相談し合うその声も、いつもの横柄なシアではないようだ。

 シアの力をもってしてもニジュを元には戻せない。突き付けられたその事実よりも、ニジュは途方に暮れるシアに心を痛めた。


「……シアよ」


 大丈夫、とはいえない。それは嘘だ。

 もう結構だ、は少し冷たく聞こえる。

 なんと声をかけたものかとしばし考えた後で伝えたのは。


「感謝する」


 シアが見せた反応は複雑なもので、この神をよくしるニジュでさえも完全にはその内心を推し量れなかった。

 少なくともわかったのは、複数の感情がシアの中でせめぎ合っているということ。


「……君からその言葉をもらうほど、僕は……」


 シアは大きく浮かび上がると洞窟の出口に向かって移動した。


「どこにいかれるのですかな?」


「あらゆる場所へ」


 ニジュの変容には妖星が関与している。

 時を同じくしてこの地上に現れた奇妙な生物も、妖星とニジュの変異に繋がりがあると思われる。

 情報が足りないから、どうすれば良いのか見当がつかないのだ。

 ならば世界中を駆けずり回って情報を集めるまで。シアはそう決意した。


「親愛なるニジュ=ゾール=ミアズマを元の気高い姿に戻すためにね」


 シアはかつての壮健だったニジュの形を思い浮かべる。

 複雑に地中にはり巡らされた白い菌糸体の繊細な美しさ。

 自然の驚異を凝縮したかのような子実体の奇抜な妖しさ。

 それなのに今の姿ときたらひどいものだ。本来の姿からこんなにも歪められてしまった。

 友として一刻も早く治してあげたい。そう願った。




 シアが先頭に立ち調査を推し進めることになったが、その結果が出るまでには時間がかかる。その間にニジュが落ち着いて療養できる場所が必要だった。臨時の治療場として洞窟を使っているが、このままずっと島に留まることはできない。この隔絶された小島は神々の集会場に用いられる特別な場所。いつまでも根城のように占拠し続けるのは、いかに格の高い神であっても顰蹙を買う。


 肉体の変異が伝染しないことを慎重に確認されてから、ニジュは島を出ることになった。まだ両足で立つこともままならないので、菌類と地衣類で作ったクッションにもたれかかっている。キツネからは苦しみをまぎらわす秘薬や神気を整える霊薬などを渡された。


「薬が足りなくなったら身近な獣に伝えてくれれば、すぐ届けさせますぞ」


「手間をかける……」


 ニジュはさっそく貴重な薬の入った瓶にためらいなく素足を突っ込んだ。


「その薬は口から飲んでくだされ!!」


「……すまない。変容した我が身にまだ慣れておらんのだ。口があるのは体のこちら側だったか……」


「そうそう。慣れぬ姿に難儀なさるとは思いますが、いずれは勝手がわかってく……」


「そうだな」


 ニジュは細い腕で危なっかしく薬の瓶を持ち上げると、頭からざばんと薬をかぶった。

 もはや何もいうまい。キツネはそう思った。




 まだ不安定なニジュのために介添え役があてがわれた。……ということだがそれらしき者の姿が見えない。


「いったいどこに……」


 つぶやく声には若干の苛立ちと不安が混じった。


「は~い。私ならここにいますよ」


 湿った土をかき分けて漆黒の頭部がひょっこり現れた。たしか、ニジュが治療場で目を覚ました時にすでに一度会っている。


「……お前か」


「そういえば自己紹介がまだでした! あの時は色々とドタバタしてて、じっくりおしゃべりしてる余裕なんてなかったですからね~」


 ずず、とその神は大きく伸びあがった。首の辺りを彩る金色の輪が見えた。


「私はエヴェトラ=ネメス=フォイゾン。モットーは地道にコツコツと! なミミズの神です」


「……我はニジュ=ゾール=ミアズマ」


「ニジュさん! これからよろしくお願いしますね~」


 座っているニジュを取り巻くようにエヴェトラがぬるーっと移動した。頭部をついと伸ばしてから長い体を引っ張るようにして進む。


「さ~て、どこにいきましょうか? このエヴェトラ=ネメス=フォイゾンがお供しますよ!」


 シアについていこうかという考えがちらりとよぎったが、やめておいた。この体ではシアの邪魔になるだけだろう。今は療養に専念するべきだ。それに適した環境というと心当たりは一つしかない。


「……我が元いた場所へ」


 他の神から妨害されない限り、神は自由自在に移動ができる。ただ自己変化もまともにできないほど衰えた今の状態で、瞬間転移ができるかニジュは不安だった。

 移動できないだけならまだしも、間違って意図せぬ場所に出てしまうのではないか。それもこの地上ではなく、妖星が作り出した領域に閉じ込められて帰れなくなったら。ついそんなことばかりを想像してしまう。


「ニジュさ~ん」


 ハッと我に返る。エヴェトラの声にはほんの少しの不安も怖れもない。深い悩みとは無縁そうでまったく羨ましい限りだ。


「転移する時って潜る感覚でやってます? それとも飛ぶ派ですか? さっきまでワタリガラスさんのところの精霊さんと話してたんですけど、むこうは飛ぶ感覚でだっていうんですよ~。私はもちろん潜る派です!」


 そんなことはあまり考えたことがなかった。

 以前はほとんど無意識でできていたことだから。


「さあ……胞子は空へと飛ばすものであり……」


 ニジュは自分の頭部にそっと触れてみる。しっとりとした髪の感触が心地良い。


「菌糸は地中に張り巡らすものであるからな……」


 ほっそりとした二本の脚を抱えた。

 完全に動物の人間にそっくりというわけではなく、ニジュの脚は尖った細い棒状で踵や足の爪はない。


「……今の我に転移ができるのかは疑問だが……」


「それじゃあ私といっしょに潜ってみましょうか」


「……そうするしかないのだろうな」


 どうにでもなれと思った。転移を使わず移動していくにはニジュの神域はあまりにも遠い。

 緊張でとっさに閉じた目蓋を開けると、ニジュはなじみ深い湿った森の中にいた。

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