ゴブリンと貪欲の市場
旅をしながらバザウは禁足の森の存在を耳にはさんだ。
同じエルフでも、他種族とも友好的に接する開かれた集団と、交流を絶ち自分たちの文化を守ろうとする集団がある。
禁足の森に住まうエルフは、エルフの中でも飛び切り排他的で閉鎖的な一族だ。
(そして……長命なエルフの中でも最も古い神々の知識を持つ)
禁足の森をバザウは遠巻きに見ていた。
茂みや木立がぽつぽつ点在するだけの開けた草原の先に濃い森がある。
そこだけ不自然に古木大木が密集し、特異で不自然な印象だ。その名前のとおり立ち入りを拒むかのような閉塞感が漂う。
(嫌な空気だ)
理由はわからないが漠然とした不安がわいてくる。根拠も理窟もない。だが、ぼんやりとした不安は鮮烈な恐怖に変わっていく。
自分は数瞬後に死ぬのではないかという、動物としての本能的な危機感へ。
近くで小鳥が優しくさえずっている。少し遠くではノネズミがちょこまかとエサを探している。
この平穏な場でこんな恐怖を感じている生き物はきっとバザウだけだ。
頭は動かさずに視線だけを動かして周囲を見る。耳や鼻や皮膚の感覚、そして精神を使って気配を探る。
それを見つけた時、内臓が冷える嫌な感覚がした。
草の間から伸びた細い木の軸。地面に突き刺さった数本の矢。まだ新しい。
矢の角度は、森の方から飛んできたことを示している。
ここは、バザウが今立っている場所は、エルフの矢が飛んでくる範囲内である、ということを理解した脳が泡立つように警鐘を鳴らす。
バザウはすぐにでも走り出したくなったが、代わりに静かに息を吐いた。
焦って動けば目立つ。射手に見つからないよう慎重にその場から立ち去る。
耳の奥が騒々しい。自分の血が流れる雑音が聞こえる。唾液を飲みこむかすかな挙動でさえも、やけに大きく感じられた。
「……」
どんな弓の名手でも手が出せないほど充分な距離をとって、そこでようやくバザウは自分の命がつながったと実感できた。
緊張を解くとどっと疲れが出た。木陰の茂みに入りこみ、身を隠しながら体を休める。
落ち着ける場所に避難したところで、バザウは森について考えをめぐらせる。
これ以上近づいたら危険だろう、というバザウの予測よりも実際の危険地帯は広範囲だった。
エルフは森を守るだけでなく、森の外部に対しても攻撃をおこなっているようだ。
(……何に対して?)
警戒しつつバザウは周辺を探索する。
地面に複数の生き物がかよった痕跡を見つけた。それはやがて明確に踏み固められた道となって、バザウを見しらぬ場所に誘う。
吹く風が雑多な臭いを運んできた。この先に何があるのか教えてくれる。大勢の生活の場だ。
道沿いに突き立てられた丸木の柱。乱雑に鉄の金具が打ちこまれ、風雨にさらされた誰かの白骨が空虚な眼窩でバザウを見下ろす。
(車輪の音だ)
後ろの方から荷車が近づいてくるのを察知して、バザウは道から外れて隠れることにした。
毛の長い巨大な豚が荷台を引いている。それを操るのは眠たげな顔つきの年寄りオークだ。積荷は干し草と野菜と……それから怪人。
荷台の後ろに奇妙な姿をした何者かが乗っていた。
茶色いレザーを組み合わせたマスクで素顔は完全に隠されている。
仮面の主が手を軽く上げた。その方向には誰もいない。隠れているバザウ以外は。
無言でその手をゆるゆると振り、遠ざかっていく。二つの黒い腕輪がキラリと光った。
(……俺に気づいたか。気配を消すのはそれなりに上手いと思っていたんだがな)
バザウがしばらく道を観察したところ、何人ものオークがここを通過した。
数は少ないが、流れ者風のゴブリンやコボルトといった種族の姿もちらほらと見かける。
(オークの拠点……、といったところか)
これで納得した。禁足の森からそう遠くない場所でオークが集まっているとなると、エルフが何に警戒していたのかという疑問も解けてくる。
バザウは道が三叉路になっている地点にいくと、話しかけやすい相手がとおりかかるのを待った。
今度は身を隠さず、通行を妨害しない場所で休息をしている体裁をとる。
丸木柱からぶら下がった白骨死体が生前どんな姿だったか推理して待つ暇をつぶした。
ガタボロの荷車にイラついて機嫌が悪そうなオーク。見送る。向こうもこちらに関心を持たない。
骨太狼に騎乗した殺気立ったオークの武装戦士。見送る。狼も戦士もバザウに気をとめることなく進んでいった。
拠点のそばで旅のゴブリンが一息ついていても、オークは一向に気にしない。
風変りな金属片を抱えこんだ白衣のゴブリンがえっちらおっちらやってきたので、バザウは彼に話しかける。
「すごい大荷物だな」
「まあね。お前さんも市場にいくんかい?」
特に警戒する様子もなく白衣のゴブリンはバザウに返事をする。
そこそこ年を経た顔つきで、分厚いレンズのゴーグルで目を保護していた。
「いや。俺は旅のゴブリンで特に目的地は決めてない。……市場、というのは?」
「なんだい、しらずにここまできたんか。マヌケなヤツもいたもんだ。そりゃあ貪欲の市場のことよ」
この先にあるのは貪欲の市場と呼ばれるオークが築いた交易拠点。それと同時に禁足の森へ進攻する基地でもある。
道沿いに点在する鉄を打ち込んだ柱は、エルフに協力する精霊除けと市場内で不法を働こうとする者への見せしめを兼ねている。
貪欲の市場では森との戦いを優位に進めるための戦力、物資、技術などを幅広く募っていて、オークに味方する種族なら立ち入りを許可される。
オークにしろその他の種族にしろ、はじめて市場に入る時には門番の前で限定的相互平和の宣誓をする決まりだ。
「ゴブリン族にも似たような儀礼があるが……、オークの場合はどんな作法なんだ?」
「簡単なもんだよ、別にオークに殴られてやる必要はない。皿を手に乗せて壺に手を突っ込む。オーク族のというよりも、貪欲の市場ならではの作法だがね」
「そうか。教えてくれてありがとう」
「おっと、待ちな。貪欲の市場にいく気なら、コレがあると便利だ。もちろんタダでゆずるというわけにゃいかんが」
荷物をガッチャガッチャかき回しながら、白衣のゴブリンは小箱を取り出した。
細長い仕切りが八列。仕切りの中には上下にスライドできるプレートが十枚セットされている。
「……これは?」
「ゴブリンでも安心! これさえあれば三つ以上数えられるようになる! 高性能携帯計算補助機だ」
「……」
代価として払えるものがない、という理由をつけてバザウはゴブリン用計算機の購入を断った。
そのまま二人で歩いていくと、貪欲の市場を取り囲む壁が見えてきた。
発明家のゴブリンはすでに何度か市場を利用しているらしく、迷いのない慣れた足取りで進んでいく。
「市場にはじめて入るんならそっちで宣誓の手続きをしな」
宣誓の場所をクイッとあごで示した後、別れ際にこう告げた。
「盗みや騙し目的で市場に入ろうとするなら、門をくぐらず引き返した方が良いぞ」
バザウはオークの門番の前に立っていた。
はじめて貪欲の市場に入る時には、この中で悪さはしないと宣誓しなくてはならない。
オークはけして品行方正な種族とはいえないが、だからこそ市場内でわざと揉め事を起こす行為は厳しく罰せられる。
もし悪気がなかったとしても、それを判断するのは本人の主張でもなく厳密な規定でもなく、現場にいるオークたちの胸三寸、気分次第。
門番オークは無愛想な口ぶりで、主だった禁止事項を説明する。
私闘が禁じられている場での暴力及び殺傷。あらゆる盗み。そして契約の反故などが相互平和を破る行為とみなされる。
その他にも、正当な理由のない食事のお残し、笑いをとるためにデブオークの胸を揉むなども争いの引き金となるため重罪とされている。
……一部変な決まりもあるが、バザウは貪欲の市場の相互平和宣誓を承諾した。
「市場にいる限り、市場の法に準ずると誓う」
仏頂面で番人が何か平たいものを持ってきた。
華やかな絵皿だ。それをずいっと無言で差し出される。皿の上にはクッキーの盛り合わせどころか、綿ボコリさえ乗っていない。何も乗っていない皿。
バザウは絵皿を両手で持……ったのも束の間で、門番は一度だけ頷くとさっさと皿を取り返していった。
(……なんの意味あるんだ)
次に無愛想な番人が持ってきたのはフタつきの壺だった。
パカリとフタが開けられると同時に異臭が鼻をつく。
(……腐れた食べ物が放つ臭いだ……。これは、とろけたレタスの芯、スイカの皮、コーヒー豆のしぼりかす……)
「宣誓に対する証明を与える。片手を入れろ。決まりはないが、利き手の逆が良いだろうな」
軽く息を整えた後、バザウは覚悟を決めた。
バザウの左手は壺の中に。想像どおりのどろべちゃした感触。
だがその後に何かがちょろちょろと手をくすぐりつついてくるとは思ってもみなかった。
「? ……うん? …………ぅあああっ!? ぬるぬめるしたものが!!」
「うるさいぞ、ゴブリン。しっかり巻きついたら手を出して良い」
手首の辺りに柔らかくぷにぷにしたものがくるりと巻きつく感触があった。
おそるおそる壺から腕を出せば、そこには黒い腕輪。太さは小指ほど。一ヶ所だけ銀色の部分がある。
見れば、門番オークの左腕にも同じような腕輪がある。腕輪は静かな輝きを放っていた。
こうしてバザウは貪欲の市場で相互平和宣誓の証となる腕輪を手に入れた。
手に染みついた異臭のオマケつきで。
堅牢な門から一歩貪欲の市場の中に入ればその熱気に圧倒される。
敷物を広げる無数の露店に、食べ物や小物を扱う賑やかな屋台。
通りには店が連なり、そこをいききするオークたち。
バザウは好奇心のまま貪欲の市場を歩き回った。
(面白い……! 大通りを進んでみるか。何があるのか楽しみだ)
上質な織物や一流の職人が手がけた革製品、宝飾品を取り扱う店が立ち並ぶ。
以前バザウが人間の貴族の娘といっしょにいた時には、こういった高価な贅沢品に囲まれて暮らしていた。
少女の名前はジョンブリアン。おしゃべり好きで強引なところもあるが、ひたむきな愛情を持っていた。
(元気にしていると良いな)
バザウは頭上を見上げた。
(道の上に屋根がある……。作るのは大変だったろうな)
見上げていた目線を元に戻すと、バザウは自分がジロジロ見られていることに気づいた。
大通りのオークたちは不信感を隠すことなく拒絶と不快をその目にはっきりと浮かべている。
どのオークも富を誇示するような豪奢な出で立ちだ。
「……」
バザウは冷めた表情で大通りから立ち去る。
ここはろくに金も持っていないゴブリンがふらふらうろついて良い場所ではなさそうだ。
路地裏に張り飛ばされる前に自分の足でさっさと移動する。
移動したバザウがむかった通りは、もっと安価で身近な日用品を扱う店が軒を連ねる場所だ。ごちゃごちゃした布屋に、実用的な皮製品の店。それから胡散臭いアクセサリー屋。
壁には古びた貼り紙がみじめったらしくしがみついている。路地の片隅には放し飼いのブタが落ちているエサを求めてうろつく。
さっきの通りよりもぐっと庶民的な空気だ。ゴブリンがほっつき歩いていても、周りのオークは特に気にも留めない。
バザウは匂いに引き寄せられ、食べ物を売る店が集まったエリアにたどり着いた。
チョココーティングされたポテトチップス、アイシングがけ。
脂身の串焼き。
シロップ漬けのフルーツ入りの水飴マグカップ一杯分。さらに色とりどりのチョコの小粒が散らされている。
中にチーズとポテトを詰めこんだベーコン編みロール。
ピザのサンドイッチ。
衣をつけたバターを油で揚げてたっぷりの砂糖を振りかけた菓子。
プリプリのソーセージをサクサクのパイで包み、蜂蜜をかけて甘じょっぱく仕上げたもの。
「うぉおお……! なんと素晴らしい! ここはまさに楽園だ……」
ジャンクでハイカロリーなご馳走の数々にバザウは目を輝かせた。
何か食べてみたいが、あいにく支払えるものは何も持ち合わせていない。
一瞬良からぬ思いつきが頭をかすめたが、市場にきたのはほしい情報を集めるためだ。問題を起こすためではない。ガマンする。
壁を埋め尽くす貼り紙の海の中に一枚の注意喚起のポスターがあった。文字はなく、下手くそな絵が大きく描かれていた。
対比するように描かれた、店主にコインを渡している笑顔のゴブリンと、商品をポケットに入れているのが見つかり泣いているゴブリン。
なお、泣き顔のゴブリンの片手はダイナミックに切断されている。
白衣ゴブリンの忠告どおり、貪欲の市場で盗みを働くのだけは絶対にやめておこうと決めた。
色んな通りを見て回りバザウは書物を扱う店を見つけ出した。
(本……。神々について書かれた本があれば……)
店内に入ると、無数の背表紙にじっと見られている錯覚に陥る。
この店の本には表紙に武器の傷がついているものや、血痕の汚れがあるものが多い。おそらく仕入れ方法は、略奪。
店の敷地はこじんまりとしていて、七空学園の図書室の方がまだ広い。が、狭い空間にぎっしりと詰めこまれた大量の本の群れには奇妙な息遣いのようなものがあった。
その中からバザウは一冊の本を見つけた。
『チル経典』。表紙に大陸共通語でそう書かれている。人間族が使用している言葉だ。
チル。チリル=チル=テッチェの名前の一つだ。
中身を確認しようと本棚の前でバザウが背伸びをした時だ。
「ちょいとそこの小さいの。うちの売り物に触るんじゃないよ。それは頭をのせる枕でもないし、パタパタめくるオモチャでもない」
店の奥から気難しそうなしわがれた声が飛んできた。
バザウはいったん大人しく手を引っこめる。
青白く湿った肌をした陰気なオークが暗がりのカウンターの椅子に腰かけていた。
頭頂部には髪がなく、残された髪は肩よりも長く垂れ下がっている。
「すまない。しかし、これが本だということも背表紙の文字も理解しているつもりだ」
バザウの受け答えに本屋の主は少し驚いた様子だった。それでもいったいどこでゴブリンが人間の文字を覚えただとか、店主はあれこれ詮索したりはしない。
店主によって重要なのは、このゴブリンが本物の客なのか、それとも店内に侵入した厄介者なのかだ。
「金はあるのか?」
「今はない」
「やれやれ……。大方お前さんも、この市場のウワサを聞いてのこのこやってきた気楽なゴブリンだろう。楽しいものがたくさん集まってる場所だとかなんとかな。だからって、ほしいものがなんでも手に入るわけじゃない。金がなくちゃ話にならない。わかるか?」
「わかるさ。つまらない盗みで腕をなくすつもりもない」
「珍しい。ゴブリンにしては少しは話がつうじる」
店主の口元は結ばれたままだったが、その目元がごくわずかに愉快そうに細められた。
「お前さんが店の中でお行儀良くして、代金を持ってきたなら、その本は売ってやるよ。しばらくの間は取り置いてやってもかまわないが、どうするね?」
「それはありがたいが……、良いのか?」
「都合が悪けりゃこんな提案はしない。肉と違って本はすぐに腐るわけでなし、ホコリをかぶってるよりかは必要としているヤツの手に渡るのが一番だ。この本ならまあ、80ブリス……」
そこまでいって、店主はゴブリンでもわかるようにいいかえる。
バザウがゴブリンであることをすっかり失念していたうようだ。
「鶏マークのコインだ。それを一枚持ってくりゃ、この本と交換できるぞ。それに釣銭もつけてやる。なあ、釣銭ってのは理解できるか?」
市場の貨幣について簡単な説明を受けた。
初期は物々交換が主流であったが、より円滑に交易をするために貴金属製の硬貨が使われるようになったそうだ。
単位はブリス。価値の高いコインから馬に羊に兎、鶏や麦束や卵といった家畜や食品の模様が刻印されている。
コインの価値は刻印されているものと等しい。数字の計算が苦手な者でも、だいたいの価値が感覚的に理解できるように工夫されている。おバカなゴブリンにも優しいデザイン。
「一つ質問をして良いか」
「なんだね」
「ソーセージのコインもあるのか?」
「……そんなものはない」
チリル=チル=テッチェをしる手掛かりになりそうな『チル経典』の取り置きを頼んで、バザウは略奪古書店から出た。
(この市場で、ゴブリンでも金が得られる方法を探してみるか)
真っ先にむかったソーセージ専門店では仕事にありつけなかった。
「……こういうこともある。次だ」
焼きソーセージを売っている屋台。不採用。
美味しくて評判のパン屋。ソーセージを使ったパンが人気商品。不採用。
上質な麦酒とつまみにソーセージを提供する酒場。不採用。
大衆的な定食屋。メニューには一応ソーセージの文字がある。不採用。
食品全般を雑多に取り扱う商店。陳列棚の片隅にソーセージもポツンと置かれている。不採用。
研究員と技師と雑用係を募集している魔技型≪マギケ≫ゴーレム開発室なる施設。何をする場所なのかまったくわからないが、ソーセージ専門店の隣にある。不採用。
「なぜだっ!?」
特技を尋ねられた時に、ソーセージの大喰い記録を自信満々で答えたのがまずかったのか……。と反省してみる。
「俺が誇っていた記録は大した数ではなく……上には上の大喰いがいる……ということか……」
バザウはそう結論付けたが、事実は多分そういうことじゃない。
バザウは貪欲の市場でのゴブリンの暮らしぶりを観察した。
白衣のゴブリンは売り物を用意してきていたが、そうでないゴブリンは自分自身を売りこむのが主流だ。
もっともゴブリンはオークほど屈強ではなく、コボルトほど器用でもなく、ホブゴブリンほど勤勉でもない。市場で求められるゴブリンならではの持ち味があるとすれば、それは命の安さくらいのものだ。
仕事を探すゴブリンは闘技場に身を投じることが多いようだ。雇用主はここで使い物になりそうなゴブリンを探す。店によって金額はまちまちだが、試合の優勝者には賞金も出る。
ほとんどの闘技場は酒場に併設されており、酒場の客たちはこの荒っぽい見世物を楽しむ。闘技場の舞台の上では選手同士の戦いが認められている。
ただ店によっては、一方的に弱者をいたぶる残虐ショーを目玉にしていることもある。観客のニーズというやつなのだろう。
血に飢えた殺戮灰色グマだとか、南方から船で連れてこられたオスの黒胸獅子だとか、そういうゴブリンがエサにされる前提の試合はごめんこうむりたい。
バザウはそういう店を避け、戦う相手が同じ境遇のゴブリンだったり、気の荒い犬だったり、オークが狩ってきた人間だったりする店を選んだ。
相手も勝つ気でいる以上バザウの楽勝というわけにはいかないだろうが、少なくとも勝負として成立しそうな対戦相手だ。
受付のオークに今晩開催される試合の参加を申しこむ。
貪欲の市場にある数多くの品々。神について記した書物。そして今夜の晩ご飯のため。




