ゴブリンとそれぞれの覚悟
満月の夜から一夜明けた箱庭は騒然としていた。
いつもは人形のように感情を見せない従者達が珍しくうろたえる。ささやかれるのはウワサ話。
「脱走して……」
「殺されたそうよ」
「それで、行方不明に」
「死体は見つかったんだろう?」
「いいえ、主人の方が……」
「厄介なことをしてくれたものだ」
「バカなヤツだ。しょせんは犬畜生か」
「シーッ……。もしも誰かに聞かれたら困るでしょ! この箱庭には、怪物がうじゃうじゃしてるんだから」
メイドと兵士たちの会話はそこで打ち切られた。それぞれの仕事へ戻っていく。
「……」
箱庭にうじゃうじゃしている怪物の一人、バザウは柱の影で話を聞いていた。
ひんやりとした柱に背中をもたれる。
(今朝は、少し肌寒い)
いつも何かとバザウに絡んでくる、暑苦しい灰色の毛むくじゃらがいないから。
箱庭は混乱におちいりながらも、やはり通常どおりの日常も流れていて。
炊事場の煙突からは朝食のために煮炊きをしている煙が、もくもくと上がっていた。
バザウはビアンキと話したかったが、彼女はそれどころではなさそうだ。
箱庭の設立者として対応すべきことが多いのだろう。
「主人は多忙につき、現在お取り次ぎできません」
ビアンキと面会することはできず、人形のようなメイドが淡々と応じるだけだった。
(仕方がない。出直すしかなさそうだな)
あきらめてきびすを返す。
廊下を歩くバザウの耳に箱庭の住人のざわめきが聞こえてきた。
「こんなこと今までなかった」
「前代未聞の大事件ですよね」
「どうなっちゃうのかしら? 本当、嫌な感じの空気だわ……」
話しているのはスカーレット被害者の会のメンバーたちだ。
(……前代未聞の大事件)
こんなことは、今までなかったという。
(その安定が、突如崩れた)
ずっと安泰だった真実の愛の箱庭に巻き起こった騒動。
(思い当たるのは……)
箱庭に入りこんだイレギュラーな要素。
混沌の神と協定を結んだ自分自身。
ルネ=シュシュ=シャンテは前にこんなことをもらしていた。
(陰謀を……企てると……)
警戒はしているつもりだった。だが、バザウの意識は主にジョンブリアンの安否にむけられていた。スモークとスカーレットには特に注意を払っていなかった。
(ウカツだった)
壁に寄りかかり思考する。ストレスのせいで、軽く痛む額を押さえた。
(……さらに情報を収集するべきか? いや……、やめておこう)
スモークの死に動揺している。
行方不明のスカーレットの生死も気がかりだ。
今のバザウの精神は安定になっている。こんな状態ではロクに頭も働かない。まずは精神を落ち着けることが先決だ。
(心に隙を作れば……その分だけ、ルネ=シュシュ=シャンテにつけこまれるだけなのだから)
バザウは自分の部屋へと戻る。
ドアノブに手をかけたところで、ふと動きをとめた。
今日は自分以外の者もこの部屋を使っているのだ。
「……入ってもかまわないか?」
ノックを数回。
「どうぞ」
ドアのむこうから少女の声がしたことを確認し、ドアを開ける。
「バザウ。お帰りなさい」
ジョンブリアンは窓辺に立っていた。きちんとした服に着替え、髪も豪華に巻かれている。
彼女が身支度を整える間、バザウは自室を出て朝の箱庭を歩き回っていた。
「なんだか大変そうね」
いつもはソファでくつろいでいるはずの少女は、窓から中庭の様子を見ている。
「何かわかった?」
不安そうな声でそう尋ねる。
(……ああ、わかった)
バザウがここにいること。
それはスモークの死と無関係ではないこと。
(あの神をいいくるめた気に……なっていた)
バザウはルネの傀儡ではない。自分の意思で動く協力者だ。
記憶の改ざんを嫌ったバザウは、混沌の神と交渉し自由を獲得した。
だが、それは同時にしりたくもない事実を突きつけられることでもある。そのことをバザウは痛烈に実感した。
「何か飲んで気分転換した方が良いわ。冷たいお水と温かいお茶。どちらがほしい?」
「……温かいものが良い」
目の前を横切っていくジョンブリアンを引き寄せて抱きしめる。
「ひゃっ」
小さな驚きの声が上がった。
それからおずおずと名前を呼んでくる。
「……バザウ?」
これだけ体を寄せていると、相手の声の振動までが直に伝わってくる。
衣服越しに、彼女のやわらかな肉を感じた。肩や腕の、細い骨までも。
血のかよった体のぬくもりが、今はただ愛しい。
「ど、どうしたの?」
「……」
素直に心情を話すべきか迷った。バザウは他者に弱みを見せることに慣れていない。
ぎこちなく口を開く。
「不安になった」
ジョンブリアンまでもが策謀の餌食になるのではと。
そして自分がその災いの引き金となるのではと。
「そうね。ワタクシもスカーレットのお屋敷での事件を聞いて、頭の中がまっ白になってしまったわ」
バザウの腕にジョンブリアンがそっと触れる。
「何かとても恐ろしいことが起きているのかしら……。嫌な人だったけど、こうなるとスカーレットが心配だわ。無事に見つかると良いわね」
ジョンブリアンは静かな口調でそういった。
「……気をつけた方が良い。お前も」
こんな漠然とした助言しかできない自分を歯がゆく思う。
だが、くわしく事情を話せば話すほど、ジョンブリアンは混沌の神が作る運命の渦に巻きこまれていく。
バザウの心情をしってかしらずかジョンブリアンは気丈な笑顔で答えた。
「ワタクシなら大丈夫よ。きっとバザウが助けてくれるもの」
違う、と叫びたかった。
全てを洗いざらい彼女に話してしまいたくなった。
その衝動をバザウは抑えこむ。だが、胸に突き刺さった罪悪感までは消せない。
(初めて会った時、俺は憂鬱になった。自分はこれから、この娘の心をあざむき、利用するのだと)
バザウの見とおしは甘かった。心を利用する程度で済むとは限らない。
ルネ=シュシュ=シャンテはいともたやすく命を奪える。
バザウが生かされているのは、生きている方がルネにとって都合が良いから。それだけの理由。
誰かが死んだ方がルネにとって都合が良いなら、ヤツはサクッと殺してしまう。躊躇などしない。
(創世樹計画と、その妨害活動……か)
チリル=チル=テッチェの崇高な理想はともかく実質は神々の勢力争いだ。バザウはその使い走り。
少しばかりの自由を許された、混沌のルネ=シュシュ=シャンテの手駒にすぎない。
(俺は歩く先に、混沌の災厄をまき散らす)
そういう運命なのだ。バザウがいくら嫌だと叫んだところで混沌の神は愉快そうにニヤつくだけだ。
(いっそ完全な操り人形になれば……、こんな苦しみとは、無縁でいられる)
不快な記憶は全て書き換えて忘れてしまえ!
創世樹計画妨害のため、神の力を借りての大活躍!
なんの苦悩もない、爽快な世界だ!
その代償は、ただ一つ。自己の意思。これを手放すだけで良い。
(そうすれば、苦痛は消える)
それはバザウの心の中でのこと。現実では悲劇が起きている。それを認識しなくなるだけ。
(俺が苦痛を感じなくなるだけでは……、根本的な問題解決にはならない)
バザウの思いとは関係なしに、神々は強大な力で周囲を翻弄する。
バザウは、チリルの押しつけがましい理想にも、ルネの気軽に運命を弄ぶ態度にも、賛成できない。
使える武器は舌先三寸と機転だけ。しょせんはゴブリンでしかないバザウは、神の前では非力だ。
それでも、ほんのかすかでも。
神に、運命に。
バザウは自分の力で、その流れに干渉することができるのだ。
(操り人形になり下がれば、そのわずかな希望すら、捨てることになる)
バザウは改めて腕の力を強める。
腕の中の少女は緊張しながらも、大人しくバザウの抱擁を受け入れた。
(……手放したりはしない。俺の意志で、守り抜く)
そう決意した。
ビアンキとの面会がかなったのは、それから数日後のことだった。
「やあバザウ。こうして君と話すのはずいぶんと久しぶりな気がするよ」
あれから、スカーレットはまだ見つかっていない。
そしてスモークがなぜ箱庭を抜け出せたのかも依然として不明のまま。
「困ってしまうよね」
ビアンキはさして困ってもいない様子でいった。膝に乗せているのは、あの黒髪の人形だ。
「根拠のないウワサばかりが飛びかって」
(根拠のないウワサ……)
ビアンキの人形についてささやかれているあの怪談じみたウワサが、チラリと脳をかすめた。
「おびえた小鳥たちの罪のないさえずりだと思うことにしているよ」
そういってビアンキはお茶のカップに手を伸ばす。
東国式の緑色をしたお茶だった。カップには持ち手がなくシンプルな形状をしている。コースターは木目の美しい小皿だ。
「私は本来コーヒー党なのだけどね」
ビアンキは片手で人形の髪をなでる。
「あの人はこういうものを好むんだよ」
「何をしっている?」
バザウの口ぶりからは仮初の礼節が消えていた。
その無礼な態度をさして気にするでもなく、うつろな目で王子さまは語るのだ。
「中庭の花園にまた一つ、花が増えたよ。感じるんだ。あの人の気配も……」
不可解なビアンキの言葉。
バザウはすぐさま解読する。
「中庭に咲く紫色の花か。あの花に、どんな秘密があるというんだ?」
「冗談だろう? 君、まだわからないのかい?」
バザウの詰問にビアンキはやや侮蔑をふくんだ調子で答えた。
知識人たる君がどうしてそんな簡単なことに気づいていないんだ、とでもいいたげな声で。
そうしてつぶやく単語が一つ。
「花言葉」
「は……?」
切迫した事態には似合わないあまりに少女じみたヒントだった。
「チューリップ。どこか子供らしい花だよね。あどけない印象を受ける。だけどよく見ると凛とした美が、そこにある。美しい。大好きだ」
ビアンキは淡々と語る。
「色によって、花言葉の意味は違う」
普段のお茶会の席でちょっとした雑学を披露するような。そんな落ち着いた様子でビアンキは淡々と話をする。
「赤は愛の宣告。白は失恋、そして新しい恋。黄色は正直、あるいは実らぬ恋」
ビアンキが自分たちを花に当てはめているのは、バザウにも察しがついた。
「緑の花をつける品種は、まだここでは手に入らないんだ。残念だね」
銀色の目にバザウの姿を映しながらビアンキがいう。
「それとも君は、葉っぱかな?」
からかいは無視する。バザウが聞きたいのは、無意味な戯言ではない。核心へ近づくための情報だ。
「……紫は?」
中庭の花壇を彩る花。植えられている品種の名はネグリタ。くしくも、あの黒髪の童女と同じ名前。
「……紫は、永遠の愛」
どこか悲しげな表情でビアンキが答えた。
「箱庭で育まれた真実の愛が、永遠の愛となる時……。その思いは紫の花となる」
前に一度、ビアンキの口から同じことを聞いたことがある。
庭園でのちょっとした会話の中でのことだ。
「その永遠の愛というのは……」
バザウが心の中に思い描いていた答えそのままをビアンキが口にした。
「死んだ愛だよ。中庭の花壇は、また一人分、賑やかになった。喜ばしいことだね」
ネグリタの言葉が、バザウの頭に浮かんでは消えていく。
「究極の愛は、死に通じると思うんです」
「死をへた愛こそが、永久になれると。私はそう思っています」
そういって、プロンの死を祝福した童女。
「あのう。お詫びの品を置いていきますね」
「でも。あなたの心から取り出したものですので、やはりバザウさんがお持ちになるのが、よろしいかと」
そういって、紫の花の鉢植えを残した童女。
「あの花が新しく咲くたびに、あの人の気配を感じるんだ。でも、なかなか姿を見せてはくれない」
うつろな表情でビアンキは人形の髪の一房を手に取る。
黒い流れが、しゅるりと指の間を抜けていった。
「……あの人とは、誰のことを指している?」
ビアンキついての不気味なウワサを思い返す。
「その人形の髪の、本来の持ち主のことか?」
「え? いいや、違うよ。女の子たちがよく話しているのはしっているけれど。そう。街で偶然キレイな黒髪の持ち主を見つけてね。ゆずってほしいと願い出たのは、本当のこと。翌日、その女性が水で死んだのも事実だ。私がその髪を抜いたのも」
本人の口から直接語られる異様な執着。
バザウは用心深く尋ねた。
「……自分の手で、か?」
「どっちのことだい?」
ビアンキは人形をなで続けていた手をわずかに休めて、自分の顔の前で両手を組んだ。
「そういう変わった仕事を任せられる職人が、思いつかなくてね。水死体から髪を抜いたのは、この右手だけど」
強くしなやかな右手がひらひらと振られた。
「その女性を殺害した、というのはまったくのいいがかり。殺しの示唆すらしていないよ」
「……それは上手すぎる偶然だな」
「本当、不思議だよね」
ビアンキも平然と同意する。
「あの人と出会ってから、そういうことがよく起きるようになったんだ。偶然が重なって、私の思いどおりにものごとが進んでいく。私がこの真実の愛の箱庭を作れたのも、そういう不思議な幸運に恵まれたおかげだと思う」
そこまで話したところでビアンキはふと気づく。
「ああ。そういえば、まだ君に、あの人のことを話していないままだった。私の愛しい人。幻想の姫君」
「……」
ビアンキの愛しい人。
年齢や性別からして除外していたが、黒髪の持ち主でも人形でもないとすると、どうしてもある人物のことしか思い浮かばない。
「それは……、ネグリタ。黒い髪を二つに結った、幼い娘のことか?」
ビアンキの表情が一変した。
と、バザウが認識するよりも早く。
テーブルの上のものが飛び散る。
身を乗り出したビアンキにつかみかかられていた。
「っ!?」
神秘的な王子さまの突然の凶行。
(……っ、なんてバカ力だ)
「どうして君が彼女のことをしっている。彼女は君に姿を見せたのか。彼女はどんな顔をしていた。笑っていたのか、泣いていたのか。どうしてすぐに私に教えなかったんだ。君は彼女と会話をかわしたのか。その内容を私に教えなさい。それはいつのことだった。彼女が姿を現す特別な条件はあるのか」
(何をいってるんだコイツは!)
手首を返して技をかけた。
ビアンキの腕の関節に、骨がきしむほどの負荷がかかる。
レッドキャップのゴブリン、赤帽子隊長直伝の体術だ。
腕の痛みに耐えかねて相手は自然に手を放す。そういう技だ。
「……ねえ。どうして君なんだ」
放さない。
「どうして君が選ばれたんだ?」
腕の骨がギチギチと悲鳴を上げていいるにも関わらず、ビアンキは手を放さない。
無理につかまれてバザウの服の布地が破れる音がした。
「なぜだっ!? どうして私のところに彼女はきてくれないっ!?」
「警告する。三秒以内にこの手を放さなければ、お前の腕を折る!」
顔を突き合わせた至近距離。
飾り立てた外面を捨てて、互いに怒鳴り合う。
「……ああ。それは困るね」
一秒ほどの完全なフリーズの後、ビアンキはやけにあっさりと手を引いた。
バザウの小柄な体が解放される。
「……けほっ!」
体は解放されたが、まだバザウは警戒を解かない。
「これはひどい。テーブルの上がグチャグチャだ。後でメイドを呼ばないと」
そんなバザウとは対照的にビアンキはもう平常運転に戻っている。
「手が折れたら、この子たちを抱けない。そうなるのは、悲しいよね」
部屋にずらりと陳列された人形達。
ものいわぬヒトガタたちは、バザウとビアンキの動きをただ無感動に見つめている。
「バザウ、大丈夫かい? ケガはなかった?」
何事もなかったかのように、ビアンキが王子の顔で問いかける。
(狂っている)
無言で部屋から立ち去ろうとするバザウに、ビアンキが声をかけた。
「待ちたまえ」
その声には先ほど見せた凶暴性は見当たらない。
「ふふっ。バザウ、自分の格好をよく見てごらんよ」
「……」
ビアンキに乱暴につかまれたせいでひどいありさまだ。
繊細な布地の衣服は、ところどころ破れたり、引き裂かれていた。
「その姿のまま、君がこの部屋から出ていったら、また新しいウワサが広まってしまうね。何か、はおっていくものを貸そう」
いたって正常な意見だ。
周りの目を理解しているし、客観的な判断力もある。
(だが、異常だ)
「さて。どれが良いかな。問題はサイズだけど……」
適当な服を見つくろうビアンキの挙動を用心深く見つめながら、バザウはそんな感想をいだいた。
「それじゃあね」
「……」
服を借りて、ビアンキの部屋から出る。
廊下の空気が清々しく感じられるのは、きっと気のせいなどではないだろう。
「もし今度、あの人を見かけたら。私に教えてほしいんだ。それが無理なら、私のことを彼女に話してくれるだけでも良いから」
ビアンキとネグリタ。
不可解な二人。
(……正直、もう関わりたくないのだが)
そうはいかないバザウの事情。創世樹計画を探るためには、ビアンキやネグリタと関わる必要がある。
「ああ……。わかった」
「良かった。ありがとう」
王子さまのようにビアンキは優雅に微笑んだ。
何もしらない女子なら黄色い声で騒ぎ立てそうな、凛々しさと優しさを兼ね備えた表情。
ビアンキの裏の面をしってしまったバザウにとっては、嫌悪を呼び起こす象徴。
「私の愛しい人はね、ずっと苦しんでいるんだ。悪い魔法使いの魔法にかけられて。だから私は、彼女を救いたい」
狂気の銀眼は、決意を秘めた者の目をしていた。
ルネ=シュシュ=シャンテはうらぶれた街角で露店を開いていた。
胡散臭い紫色のテントは占い小屋だ。
「バザウ。お前は決心したんだね。お前は屈しなかった。立派、立派、パッパラパー」
客のいないテントの中で独り言。
ルネがのぞきこんでいるのは、商売用のニセ水晶ではなく万華鏡だ。
「だけど、カン違いしてはいけないよ。覚悟と決意をいだいて動いているのは、何もお前一人きりじゃあない。この世界では始終別々の心が別々の目的のために動いてるんだからね」
愉快そうに、ククッとノドを鳴らす。
ルネにとってバザウは思いがけず手に入れた、珍しいカードの一枚でしかない。
ゲームを有利に運ぶためには、手札を有効に使わなくては。
大事にしまいこんでおくだけでは勝負には勝てない。
小さな足音がテントに近づいてくる。
「占い師さん、いるかしら?」
幼さの中にどこか高貴さを感じさせる声だった。
「お入り」
ルネの声からふざけたニュアンスが消える。
荘厳としてだがどことなく妖しげ。
旅の占い師。それが今のルネの役。
少女の恋を導く者だ。
「良かった。旅をしているって聞いたから、もう次の街へいってしまったんじゃないか、不安だったの」
「抱えている不安はそれだけではないだろう」
「さすがは占い師ね。見事的中、ってところかしら。ちょっと不安なことがあって、話を聞いてほしいの。占いというより恋の相談になってしまうけれど」
占い小屋の客用のイスにジョンブリアンが腰かけた。
「聞こうじゃないか」




