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神々と満月の一夜

 夜空の下。月明かりに照らされた屋根の上に細身の人影。

 飾り羽と羽毛だけで構成された飛べない翼。

 奇抜な化粧が塗られたその顔は男なのか女なのか判然としない。

 背後に輝く千匹獣座。赤、青、白の星々が寄り集まって、まるで空の血飛沫。


「愛ってのは良いものだねえ」


 ルネ=シュシュ=シャンテはニヤリとほくそ笑む。

 風変わりな色の口紅が不気味なラインを描く。


(バザウをここに送りこんだのは正解だったね。ヤツは成果を出した。これもアタシがつむいだ運命のせいか)


 死んだプロンへの淡い恋心。

 バザウの心に秘められていた愛と死の感情に反応して、創世樹の宿主は動きを見せた。

 ルネはそれを見逃さない。


「恋に焦がれる愚かなカエル。ひょいととらえる無情なバザウ」


 前に一度即興で作った歌の欠片を口ずさむ。

 ルネは中庭の真ん中に降り立った。

 音もなく。軽やかに。

 ふわりと宙に浮いているが着地する時に、鳥の鉤爪がついた足先で紫色の花をわざとかすめた。


「いるんだろう? わかっているよ」


 真実の愛の箱庭で創世樹の根をはりめぐらせている宿主。


「ネグリタ=アモル」


 小さな子供の姿が突如夜の庭園に現れる。

 観念したかのようにうなだれて。

 その幼い顔は疲れ果てた大人の表情をしていた。


「ルネ=シュシュ=シャンテ……さま」


「まあ、まあ、まあ! どうしたの? そんな辛気臭い顔しちゃって。スマイル、スマイル!」


 ルネはひらひらと手を振った。


「アタシがお前より上位の存在だからって、そんなに緊張しなくて大丈夫。あ、ねえ。お茶とお菓子は出ないの?」


「ここへ何をしにいらしたんですか?」


 陽気な態度のルネとは対象的に、ネグリタは警戒心をあらわにしている。


「ちょっと見物に。チリル=チル=テッチェから創世樹を託されたんだろう? 調子はどうだろうと思ってね。創世樹は良い感じに育ってる?」


「はい。ですが……」


 ネグリタは黒い瞳で疑わしげにルネを眺めまわした。


「ルネさまは、チリルさまと敵対しているとお聞きしました。私はチリルさまからご忠告を受けました。ルネ=シュシュ=シャンテに気をつけろ、と」


 ジッ、とルネの挙動を観察している。

 チッ、とルネは心の中で舌打ちした。


(余計なことを吹きこみやがって)


 だが、混沌がつけいる隙は残っている。


「そう! そうなんだよ。ネグリタ……」


 陽気だったルネがしょぼくれ顔に早変わり。


「今はチリルとケンカ状態なのさ。残念だけど」


 ルネとチリルは敵対している。という情報をひとまず肯定する。

 いきなり否定しても、相手はまず信じない。疑いを強めるだけだ。


「アタシの不注意な行動にチリルはとても怒ってね。怒るのも当然さ。自分でもバカなことをしたと思っているよ。だけど謝ろうにも、話し合いのチャンスすらくれないんだ。本当に反省しているのに」


 敵対の意味を会話の中ですりかえる。

 立場的な対立ではなく感情的なすれ違いだと、ネグリタ=アモルに信じこませてしまえば良い。


「ええと……。たしか、実験用の魂の種を台なしにしたとか……。そう聞いています」


「そのとおりだ!」


 オーバーアクションでの熱演。


「純粋にチリルの手伝いをしようとしたんだよ。役に立とうとしたんだ。でも、アタシにはちょいと実験の内容がややこしすぎたんだ。だから、ついあんなことを……」


 力なく肩を落とす。それも演技。


「ネグリタ=アモル。相談があるんだ。もう一度アタシがチリルの信用を取り戻すには、どうしたら良いと思う?」


「それは、ええと……」


 ネグリタの目から警戒の色がだんだんと薄くなっていた。

 相談を受けとめて、ルネの話に耳を貸している。


「うーん、そうですね……。反省の気持ちをこめたお手紙を書いてはいかがで……」


「そうだ!! ネグリタ=アモル!! お前の手伝いをすれば、チリルもアタシのことを見直すんじゃないかな?」


「え……」


 ネグリタは少し困ったような驚いたような顔をしている。

 だが完全な拒絶ではない。


(もう一押しといったところか)


「ですが、ルネさまは……。そういった細やかな仕事が、その……、お好きではないのでは?」


 言葉を選び選び、やんわりとネグリタが断る口実を探している。

 ルネがチリルの実験を台なしにしたのは事実だ。そんなルネの手伝いを二つ返事で引き受ける者がいたら、よほどのお人よしかバカである。


「そうだねえ。適当な性格のアタシが自分の判断で動くと、また失敗してしまうかもしれない。そうなったらお前に申し訳が立たないよ、ネグリタ=アモル。せっかくアタシとチリルの仲直りに、お前が力を貸してくれるっていうのにね」


 すでに取引が成立しているという前提で話をする。

 これはバザウに使われたテクニックだ。


(あのゴブリンはずる賢い子だよ)


「あの、私は別に……。そんな……」


「大丈夫だよ、ネグリタ。お前がアタシにごく簡単な指示を出してくれれば良いんだ。そうすれば、お互い上手くいく。お前はアタシの強大な力を借りられる。アタシはお前を成功に導くことで、チリルからの信頼を回復できる。……反対する理由はどこにもないだろう?」


「そう、ですね」


 ネグリタはうなづいた。


「ルネさまの力があれば、もっとたくさんの永遠の愛が産み出されることでしょう。それは、とても良いことです!」


 ネグリタ=アモルが信じている価値観。


「愛は、素晴らしいです。けれど人の心は、とても移ろいやすいもの。それを永久にするためには、死が必要。愛に死す運命こそが、一番尊いのです」


 ネグリタ=アモルの創世樹の根が世界中に広がれば、全ての心がこの価値観に染まるだろう。


「本当。愛ってのは、良いものだねえ」


 ルネはパチパチと拍手した。




 愛ゆえの死を。

 その信念がネグリタ=アモルの創世樹を強くする。


(灰色のあれが、赤にああして、黄色がこうなって。そしたら緑が多分こう動くから……。うん、いけるいける。ルネちゃん天才!!)


 生きる者にとってはまさに天災。


「ルネさま」


 ふいにネグリタに話しかけられる。


「あーはん?」


「どうぞごらんください。これが私の真理が形となったものです」


 紫色の花を手で示した。


「って、これはチューリップじゃーあーりませんか? 樹木ってわけじゃないんだ?」


「はい。創世樹とは概念のようなものですから」


 チリルの手にある時は色のない無個性な苗木のようなものだが、宿主の真理を反映して様々な植物の形に変じるのだという。

 ネグリタはうっとりと目を細める。


「キレイでしょう? この花の一つ一つが、永遠の愛でできているんですよ」


 庭園の花壇には無数の花が咲き誇っている。

 直立不動でただそこに存在し続ける。


「絶景だよ。ネグリタ=アモル」


 心にもないお世辞をいうのはルネの大得意。

 近々この花壇に花が増える。そういう予定だ。




 箱庭にあるスモークの部屋でルネは自堕落に寝転がりながらお菓子を食べていた。

 チョコにマカロン。カシス風味のギモーブも。


「なっ……、なんだ貴様は!?」


 部屋の主は驚いた。当然の反応である。

 ルネは立ち上がって、くねくねとしなを作る。

 服からパラパラとお菓子のクズがこぼれ落ちた。


「あっらぁん、おっ帰りなさぁい、あなたぁん。ご飯にする? お風呂にする? それとも、ア・タ・シ?」


「バカにしているのか! 勝手に部屋に上がりこんで何者だ!?」


 スモークは怒りながらも怯えて動揺している。尻尾は足の間に逃げ込んだ。


「アタシが何者かだって?」


 雰囲気を一変させる。極彩色の背中の飾り羽が優美に揺れた。そのままふわりと浮き上がる。


「なっ!?」


 スモークは口をパクパクさせている。


「アタシは永遠の愛からつかわされた使者だ」


 そしておバカなスモークは永遠の愛にとらえられた死者と化すのだ。


「お前の愛を永遠にするために力を貸そう」


 慈愛と自信をにじませたペテン師の笑み。


「お前の悩みなどお見とおしだ。スカーレットといったな。彼女の心が離れていく。それが怖いというわけか」


「スカーレットさま……」


 スモークの顔が曇った。

 スカーレットは、もともと頻繁に箱庭に訪れる方ではなかったが、このところはほとんど姿を現さない。

 特にバザウの実力が箱庭で認められてから。


「愛する者に会えないのは、つらいだろう?」


「それでも待たねばならない」


 それがルール。

 真実の愛の箱庭は、貴族が立場や身分に関係なく本当の愛を追求するための場所だ。

 だがその自由は閉ざされた限定的なものでしかない。

 箱庭という空間でだけ人外の恋人との触れ合いが許される。


「彼女に会いたくはないのか?」


「会いたいに決まっている! それができないから、こうして苦しんでいるのだ!」


 箱庭の住人は許可なく外の世界に出てはならない。

 出入り口には見張り番が立っている。


「アタシなら」


 ルネは妖しくほほ笑んだ。

 指先で自分の唇に軽く触れる。


「不可能を可能にしてあげられる」


「本当か!?」


 スモークがルネに詰め寄る。

 ゆらっとした動きで、ルネは少し距離をとった。


「でもその前に。聞かせておくれよ、お前の心。どれだけ彼女を愛しているか」


「……良いだろう」


 スモークの一族は選ばれた獣人だった。


「この体には特別な血が流れているのだ」


 人間に保護され、評価される。

 その見た目と資質は特に貴族階級から人気だった。


「厳密な決まりがあるのだ。毛の色や、目の色。体型にいたるまで」


 スモークはその厳しい基準をクリアした。

 もっとも理想的な見た目と引き換えに厄介な特質も混ざりこんだ。

 先天的に内臓の捻転を起こしやすい要因をかかえている。美しい容姿は同時に彼の肉体に不調を与えた。


「疾患のリスク? 気にならないな」


 スモークは自分の血統に満足していた。

 それを心から自慢に思っていた。

 血統こそが、一番の価値。


「だって、そうだろう? ただ一つの完璧な姿の影には、数えきれないほどの……その基準に至らなかった命が隠されているのだからな」


 理想の基準に満たない者。それらは容赦なく処分される。スモークの一族は人間からそうやって愛されてきた。長い間。


「この身に流れる血を否定することだけは、できない」


 膨大な犠牲の上に立つ完成品。

 それが自分。


「この血を求めた人間の心を失うわけには、いかない」


 ただ貴族のために。

 そのために、一族の血統は理想的な形にたもたれてきた。病もうと苦しもうと。


「主人に愛され、主人に仕える。それがとても嬉しいのだ」


 それがスモークにとって大切なこと。誰かが疑問をはさめばすぐさま吠えかかるだろう。

 血統の歴史を否定すれば、それまで闇に消えていった無数の脱落者が、本当の意味で無駄死にになってしまう。

 主人であるスカーレットへの愛と忠誠を否定すれば、スモークの心の本質が崩壊する。


「この身の血の一滴にいたるまで。スカーレットさまを愛している」


「お前の心はよくわかったよ。血に根ざした、主人への純粋な思い。とても高潔だ」


 ルネは作り笑いで応じる。スモークの心は純粋すぎる。混沌の神の好みではない。

 一つの心に複数の思いが入り混じった、ゴチャゴチャで、あやふやな心。ルネはそういう雑多な心が好きなのだ。


「それではお前の愛する者に会わせてやろう」


 スモークの心が喜び一色で染まるのが、ルネにはわかった。

 素直で、わかりやすくて、何よりも純粋。


(ああ、嫌だねえ。こういう深みのない単純な心ってのは)


 本心を覆い隠して、ルネはスモークを死の罠へと誘いこむ。


(……まるで、チリル=チル=テッチェみたいじゃないか)


 ルネは箱庭の門番の記憶を書き変えながら、箱庭を抜け出すスモークの背中を眺めた。

 スモークはスカーレットの居場所を目ざして夜の闇を走っていく。




 人目を避けて、路地を抜けて、鉄格子をかいくぐり。

 ルネの助けによってスモークはどうにかスカーレットの屋敷までたどり着いた。

 スモークの呼吸は乱れ、心臓は激しく脈打つ。夜の庭から屋敷の窓を見上げる。


「お前の思い人はこの出窓にいるよ」


 バルコニーの真下の壁に寄りかかりながら、ルネはリュートを取り出した。弦を弾いて奏でるのは小夜曲セレナーデ


「スカーレット!」


 スモークの呼びかけに一つの窓が開いた。

 鮮紅の髪をなびかせた乙女の姿。


「……なぜ、ここにいるの?」


 押し殺されたスカーレットの声は低く平坦だった。そこに歓喜の色はない。


「会いにきたんだ。ここまで」


 息を切らせながらスモークがささやき返す。


「誰に許可を得て、あそこから出てきたの?」


 スモークがチラリとルネの方を見た。


 出窓の下にいるルネの姿は、スモーク以外には死角となっている。

 もっともルネが望めば完全に姿を消すこともできるのだが。


(アタシのことは、いうんじゃないよ)


 ルネはスモークに目くばせをした。

 スモークは不思議そうな顔をしている。

 それだけではこの単純な犬にはわかりづらいと気づいて、ルネはもっと明確なジェスチャーをする。

 くちびるに指を当ててしーっとナイショの合図。

 それでようやくスモークも理解したらしい。


「僕の意志でだ」


 スモークはこれまで自分とか、俺とか、私とか、そういった言葉を使ったことがない。一人称を使って何かをいったことは今までなかった。

 主人から命令されたわけでも、主人の望みをくみ取ったわけでもなく、スモークが自分の意志で行動を起こしたのは、これがはじめてのことだった。


「そう……。わかったわ」


 スカーレットはスモークに微笑んだ。


「ちょっと待っていて」


「ああ。待っている」


「そこでじっとしているのよ」


 出窓からスカーレットの姿が消える。

 スモークは辛抱強くスカーレットを待ち続けた。ドキドキしながら。


「庭にケダモノがいるわ。汚らわしい。処理してちょうだい」


 屋敷の番兵に命じる声。

 それがスモークが最期に聞いたスカーレットの声だった。




「赤ずきんちゃんは、狼さんと仲良しでした」


 ルネは庭の隅でリュートを奏でている。


「でも本当は二人は仲良くなってはいけないのです。お婆さまも、お母さまも、とんでもないことだと叱りつけるでしょう。二人はそんな仲でした」


 スカーレットの屋敷は騒然としていたが、誰一人ルネに気づく者はいない。


「森の奥深く。閉ざされた秘密の場所で、二人は逢瀬を重ねました。二人の関係が許されるのは、そこでだけ」


 小夜啼鳥ナイチンゲールだけが、悲しげに鳴いている。


「赤ずきんちゃんのお家にのこのこ訪ねていけば、狼さんは撃ち殺されるに決まっています。恋に溺れたバカな狼さんは、そんなことさえもわからなかったのでしょう」


 リュートの音色がポロンと響く。


「狼さんの大きな腕、速く走れる脚、ギラギラ光る鋭い牙。赤ずきんちゃんは、そんな狼さんに愛される自分が、大好きでした。自分が大好きなのでした」


 ルネはそこで演奏をやめた。


「愛ってのは、良いものだねえ」


 一つの心に複数の思いが入り混じっている。ゴチャゴチャで、あやふやな心。恋愛は心をメチャクチャな状態にする。

 スモークの体には無数の矢が射こまれていた。


「愛に殉じたお前の魂は、アタシがきちんとネグリタ=アモルのもとへ連れていこう」


 ルネの目がふとイタズラっぽく光る。


「そうそう、忘れるところだった。こういう時はちょっと『ツマラナイモノ』も持っていかなくちゃ」


 それがネグリタ=アモルが元いた国での習慣だから。




「どもー。誤配遅送は当たり前! ルネちゃん印の宅配便です。ご注文の品をお届けに参りました。印鑑かサイン、お願いします」


 軽い調子でネグリタの元へと戻る。


「ほら、ネグリタ。確かめてごらん」


 スモークの魂を彼女に渡した。

 ネグリタはうっとりとした表情で魂を手で包んだ。


「ステキな死に方……。愛する人を思ったまま、この心臓は矢に貫かれたのですね。最期の鼓動のその時まで」


 その手の中で魂が淡い光を放つ。


「ネグリタ=アモルが、真理を授けてあげましょう。死んだ愛だけが、永遠となる。それこそが究極の愛の形」


 童女の手の中には紫の花をつけた球根があった。

 ネグリタは黒い瞳をルネにむけた。もうそこにはみじんの疑いもない。


「ルネ=シュシュ=シャンテさま。ご協力、ありがとうございます。おかげでまた一つ永久の愛が実現されました」


 ペコリとお辞儀をする。


「どういたしまして。ところでこちらは『ツマラナイモノ』ですが……」


 ネグリタの故郷の流儀に合わせて持参したものだ。


「スカーレット。生ものです」


 梱包されたスカーレットをどさりと地面に放り投げた。

 白くやわらかな素材、発砲スチロールの箱に閉じこめてある。

 だいぶ手荒く扱ったがまだ中で生きているはずだ。空気穴も開けてある。


「困ります。こんなものをもらっても」


「そう? そちらの習慣に合わせたつもりだったんだけど」


 ネグリタ=アモルの元の居場所。


「こっちにくる前は、チキューのニホン出身だったんだろう?」


 チリル=チル=テッチェの創世樹計画には、強い意志を持った心が必要不可欠となる。

 高位の神々はすぐに対策をとった。魂がチリルの手に渡らないように監視を強化。


 これで創世樹計画は頓挫するかに思えたが、チリルはあきらめない。

 この世界の魂がダメなら別の世界の魂がある。監視の目をかいくぐり、異世界へと自らおもむき、強い心を持った魂を集め出した。


(そうして選ばれた中の一人が……)


 ネグリタ=アモル。もともとは地球の日本に産まれた女の魂だ。

 その意志の力を見こまれ、チリル=チル=テッチェによってこの世界へ魂を運ばれた。創世樹の宿主として。


「あのう、ルネさま。これ、いったいどうしましょう?」


 ネグリタは巨大な箱を指さした。


「さあ? 適当に『ツマラナイモノ』を持ってきただけだからねえ。煮るなり、焼くなり、好きにおしよ」


 スカーレットが入った箱がガタガタと揺れている。中で暴れているらしい。


「そうですね……。これ、どう処理しましょう……? 愛の冒涜者には、どんな姿がふさわしいと思いますか?」




「はいはい。どもどもー。誤配遅送は当たり前。ルネちゃん印の宅配便です」


 夜間。無人の調理室に忍びこむ。つまみ食いをするためではない。ルネは届けものを置きにきたのだ。


「んーと? どこに置きゃ良いかねー?」


 暗い台所に目を凝らす。

 ルネの視線はカマドの近くで止まった。


「へい! 薪一丁、お待ちどう!」


 薪置き場に荷物を下ろす。


 ルネが運んできたのは、ちょうど女一人分ほどの重量のある薪だった。

 神々が暗躍した、この満月の晩は、こうして幕を閉じた。



挿絵(By みてみん)

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