03:00:00~根本からの三時間~
駅前のカフェ『フレンチコア』。
名前の由来は開店当初、マスターがフレンチコアにはまっていたから。
しかし今店内で流れているのはハッピーハードコアだ。趣味変わったのか。
どうやら一足先に着いたようだ。席は半分ほど埋まっているが雨宮さんの姿はない。
入口から見つけやすそうな位置のテーブルに座り、上にファイルを置いた。
これが、今回の事件の鍵。
店員が注文を取りに来たので、メッツォメッツォとプロシュートを頼んだ。
メッツォメッツォってのは、エスプレッソが効いたカフェモカのことな。調べた。
ほどなくして二品が運ばれてきて、いざ食べようとした瞬間に雨宮さんがきた。
別にやましいことをしているわけではないが、なんだか食べづらい。
雨宮さんはエスプレッソ コンパンナを注文。エスプレッソの上に生クリームが乗っている。一度飲んでみたい。
エスプレッソ コンパンナが届いたところで、一旦手元に戻しておいたファイルを差しだした。
雨宮さんはそれを受け取り、中身を見た。
しばらくし、「流石だ」と言いたそうな笑みを浮かべた。
「三好さん、話したいことというのはやはり推理のことですね?」
うなずく。
もしかしたら真相は違うかもしれない。
だから、これはあくまで可能性の一つとして受け取ってほしい。
そう断ってから、俺の推理を話した。
被害者の女性――名前は螢 心というらしい――は、なんらかの方法で遅れて作用する毒を盛られる。
その後、あの公園に行き、そこで毒のせいで息絶える。
その瞬間、おそらく池の対岸からスペツナズナイフで心臓を穿たれる。
これが簡単な道筋。
この段階では違和感がありすぎる。
だから、次にその違和感を説明する。
まず、「どうして狙撃手は被害者が公園に行くことを知っていたのか?」
しかし、あえて逆に考えると、
「狙撃手は被害者が公園に行くことを知る機会はあったのか?」
おかしい考え方だとは思うが聞いてほしい。
「被害者は自殺。厳密には他殺に見せかけた自殺。」
と考えた。それなら狙撃手が被害者の行動を知ることはできる。
だから毒は盛られたのではなく、自ら服用した。
「では自殺を他殺に見せかけて何があるのか?」
これは仮に狙撃手と被害者が親密な関係だった場合、「保険金をもらうため」と考えることができる。
自殺による保険金は加入から2年が経たなければもらえない(例外はあるが)。その期間内に自殺してしまうと保険金は出ない。理由は分からないが、早急に大金が必要になったのだろうか。
そして、「なぜ公園で自殺することを考えたのか?」
これはもはや一か八かだったと思う。
自宅というのは証拠が残りやすい。しかし逆に、証拠がないと自殺とわかってしまう。
そして狙撃手自身が容疑者になってはならない。つまり狙撃手が証拠を残すことはできない。
恐ろしいことに二人は「公園で自殺する。近くに人がいればそいつに濡れ衣を着せる」という作戦にした。
公園なら証拠がなくともすぐに自殺とはならない。無駄な捜査をさせ、余計な証拠を指し示すのが目的だったのだろう。
死に方に毒死を選んだのは、おそらく「さすがに心臓を刺されるのはいやだ」ということだ。
しかし、それが大きな誤算だとはこの時は知らなかった。
見事、毒死のタイミングと濡れ衣を着せられる人物がいるタイミングを合わせることができた。
しかし、死因が毒死になってしまったことと、狙撃に使ったナイフがスペツナズナイフだったことが失敗の始まりだった。
まず毒死であること、その毒が慢性であることから、心臓に刺さったナイフが「装飾」になってしまった。
つまり、捜査の目をナイフに向けようとしたが、逆に作用してしまった。
さらにスペツナズナイフ。指紋が見つからない、グリップが存在しない。
他のナイフなら指紋がなかろうと俺が容疑者になっていた。なぜなら手袋を使えばいいからだ。
しかしスペツナズナイフなら違う。指紋が見つからないのが前提。グリップの捜索が始まるが、見つからない。
こうなると、このナイフが「なぜあるのかわからないもの」になる。
仮に俺がとっさにナイフを抜いてしまっていたら、これも俺が容疑者になる理由になっていた。
逮捕する理由はなくなり、結局事情聴取で終わってしまった。
そしてその後、スペツナズナイフを狙撃に使えるボウガンの存在を露呈されてしまう。
そう。
事件発生から3時間。
スペツナズナイフは「謎の物体X」から「狙撃に使われた物」に変わり、
俺は「関係者」から「被害者」に変わり、
女性は「被害者」から「容疑者」に変わり、
事件は「他殺」から「自殺」に変わった。
3日後、螢さんの自殺を擁護したもう一人の容疑者が捕まった。
どうやら螢さんの親友らしかったが、およそ俺の推理通りだったらしい。
だが、少しだけ違うことがあった。
同日、俺はまたあのベンチに座っていた。
弁当を食べるためではなく、ある人と待ち合わせをするため。
間もなく、左手から女性が歩いてきた。
肩にかかる黒い髪、赤ぶちのメガネ。服は白を基調にしている。やはり細かい種類は分からない。
「お待たせしました。」
彼女は螢心さんの姉、螢 舞。
意外や意外、俺の職場に勤めていたらしい。
俺と舞さんは横に並び、公園を後にした。
え、なんで姉さんと一緒にいるのかって?
あの事件が色恋沙汰だったからだよ。言わせんな恥ずかしい。
End!
完!ご愛読ありがとうございました!
っと、推理には変なところがあるかもしれませんが、お口を(・x・)でおねがいします。