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短編ホラー

段ボールが増えていく

作者: 川浪 オクタ
掲載日:2026/05/30

 301号室のドア前に置いてある荷物。


 何時になったら無くなるのだろうと思っていた。


 確か最初に見たのは登校前。


 下校時に、ポストの郵便物も残っていたから、まだ帰ってきていないんだろうなって思ってた。


 私の階にはあるけど、この301号室のある階は昔っぽく、304号室という部屋がない。


 だからこの階だけは301、302、303、305になる。



 ーー2日目ーー


 今朝も、まだ荷物があった。


 きっと旅行とか行ってるのかな。


 今日は部活があって帰りが遅くなるから、その時にはもうないだろう。



「ねぇ。団地の子がいなくなってるの本当?」


 小学校からの友人がお昼休み中に聞きにきた。


「え、そうなの?」


「小学生の子だったかな。3日くらい帰ってきていないんだって。弟の学校からのアプリで流れてきたって、お母さん言ってた」


「そうなんだ……知らなかった」


「おばさんからは何も聞いてないの?」


「うん……特に。貼り紙も貼ってなかったし」


 そういえば、団地にいる子供って、どのくらいいるんだろう。


 時々、団地の公園で遊んでいる子を見るけど。


「何か分かったら教えてね!」


「......何か分かったらね」


 友人は、聞いて満足したように自分の教室に戻って行った。



 ーー3日目ーー


 荷物が1つ増えていた。


 中身が見えないようになっている、白い袋の荷物。


(まだ帰っていないんだ)


 帰ってきた時に見た、ポストの中身も増えてきてる。


「ただいまー。手紙置いておくね」


「ありがとう。これから夜勤に出なきゃいけなくなったんだけど、大丈夫?」


「うん」


「ご飯は作ってあるから、ゴメンね」


「大丈夫だって。……あれ?」


 さっきポストから持ってきたものの中に、違う質感のものがあった。


 マンションとスポーツ用品店のチラシの間に、ざらっとした用紙。

 半分に折られていて広げてみる。


【協力のお願い】

 ●●団地入居者各位

 〜中略〜

 ●●月●日から、●●小学校に通う、行方がわからなくなっている児童がいるとの報告が警察からありました。

 一人で歩いている児童や、不審な人物を見かけた際には、速やかに自治会や警察に連絡をお願いいたします。

 〜中略〜


 息が止まった。

 昼休みに聞いたのはこれだ。


 でもこの内容だと、うちの団地の子って限らないか。


「お母さん。団地の小学生が行方不明って話、知ってる?」


「え。そうなの?」


「今日友達に聞かれてさ。ポストに入ってたこれも、ほら」


 母親がまさかという顔で紙を受け取り、眺めた。


「本当……? ●日だから、もう4日も見つかってないの?」


「こういう事って結構ある?」


「……そうね。あなたが小学生の時は不審者の連絡はあったけど」


 顔写真も載っている。歯を見せて笑っている、可愛らしい笑顔の子だ。


「あなたも気をつけなさいよ。部活で遅くなる時あるから」


 帰りが遅くなってるのは部活の後、団地の人があまり来ない場所で友達としゃべってるから。

 母には内緒にしているけど。



 ーー4日目ーー


 寝坊してしまった。


 母がいないからと遅くまで漫画を読んでいたら、ついうとうと。


 遅刻だ。学校から親のスマホに連絡が行く前に登校しないと。


 急いで支度をして、家を出る。


 今から出れば1校時終わり頃には着くはず。


 階段を降りる時、視界に入ってきたものは、301号室の段ボールだ。


 増えている。


 301号室の前には、昨日まで三つだったはずの荷物が、今朝は5個になっている。


 大きい段ボールが二つ増えた。


 まだ帰ってきていないのかな?


 この量だと、中から開けられないんじゃないかな。



 ーーそういえば、301号室の人は、どういう人だっけ?


 階段の途中で足が止まった。


 若い人? お年寄りの人? 男の人? 女の人?


 もし、お年寄りの人だったら部屋の中でーー



 ブーブーブー


 突然、カバンの中のスマホが震えた。


(もしかして、お母さん⁉︎)


 私は急いで階段を駆け降りた。



 ーー5日目ーー


 部活の帰りに、友達と推しの話や好きな人の話をした。

 まだ話し足りなかったから、例の場所で続きしようってなった。


 けれど、今日は無しになった。


 自治会のところにパトカーが停まっている。


 別に悪い事はしてないんだけど、ちょっと怖くなって中止になった。


 仕方ないから、大人しく家に帰ろう。


 読みたい漫画もある。あとで友達とアプリで通話でもすればいい。


 ポストの郵便物を持って階段を登る。


 相変わらず、段ボールが積み重なっている。


 ――これ、どうするんだろう?


 朝から何個か増えてる感じがする。


 このままだったら、隣の部屋のところにも置かれちゃうんじゃないかな。


 隣の部屋……302号室。


 確か今誰も住んでいないはず。


 ポストのところに、ものを入れないようにテープが貼ってたはずだから。


 だけど、他の人はこの段ボールに何も疑問に思わないのかな……。


「あのー」


 ハッとして階段の後ろを振り向く。


 警察官だ。


「急に声かけてすみません。階段避けてもらってもいいですか?」


「あっ、はい」


 びっくりした。歩く音も声も何も聞こえなかった。


 この段ボールのことを考えすぎてた。


「……どうかしましたか?」


「えっ。あの」


 やばい。頭の中真っ白になった。


 危ない人って思われてるかも。


「何やってるの……?」


 警察官の後に、母親が登ってきた。


「お母さん!?」


「あなたが登らないと警察の人も階段登れないでしょ? すみません……」


「いいえ。大丈夫ですよ。突然話しかけたので、驚かせたようで」

 にこりと微笑んで、母を先に登らせた。


「とりあえず、どっちかに寄りなさい」


「あ、うん」


 この段ボールの事を言うべきか。言わないほうが良いのか。


 何もないにしても、一応気になったから言ったほうがいいのかな。


 でも、旅行中かもしれないし……。


「何か気になることでもありますか?」


 若めの男性の警察官が優しく声をかけてきた。


「え……あ……えっと」


「大丈夫ですよ。小さな事でも」


「ほら、何もないですよ。ね?」


 母は、この段ボールのことは気づいていたのだろうか。

 毎日、この階段は通っているはず……。


「段ボール……」


 私は301号室の方を指差す。


「だんだん増えていっているんです」


「ドアの前にも置かれるようになって……旅行かなって思ってたんですけど、もしかして中に人がいて……とか」


 警察官が指を差した方をむき、もう一人の男性と顔を合わせうなづく。


「いつからか覚えているかな?」


「……確か今週の部活がある前の日に気づいたけど、その前からあったかもしれないし……」


「そうですか。お母さんは、こちらの荷物はいつからなど覚えていますか?」


「いいえ……特には。あまりそちらの方は見ないで階段使っているので……」


 そう。急いでいたり、スマホ見ながらだとあの部屋のあたりは視界に入らない。


「そうですか」

「また何かあったら警察に連絡いただけますか?」



 ーー6日目ーー


 昨日は警察官と話しをしたせいか、目が冴えてしまってなかなか眠れなかった。


 二度寝しちゃったみたいで、気づいたら昼近くになっていた。


 スマホには母から仕事に行ってくるとメッセージが入っていた。


 爆睡しているから、起こさずに行ったらしい。


(お腹減ったなー)


 近くのコンビニ行って、適当に何か買ってこよう。


 軽く顔を洗って、髪を少し整えて外に出た。


 階段を降りていると、つい癖で301号室の方を見てしまった。


 段ボールの場所が変わっている。


 昨日はドアの前に置かれていたのに、今日は廊下の端に寄せられていた。


 帰ってきたのかな?


 でも、荷物の量は昨日と同じくらい。


 減っていない。


 どういうこと?


 しばらく、階段のところで立っていると、301号室のドアが開く動きを見せた。


 なんか、怖い!


 私は階段を急いで駆け降り、ポストの辺りまで逃げた。


(別にたまたま、そこにいたっておかしくないじゃない)

 帰りは、遠回りだけど、反対の階段から帰ろうと思った。



 コンビニから帰ってくると、今度は向かいの棟の前にパトカーが止まっていた。


 一台ではなく、数台。


 何かあったんだろうか。


 少し落ち着いた心臓も、またドクドクと騒ぎ始めた。


 そうだ、帰りは反対側からの階段を登っていくんだった。


 それでも、つい、301号室のある階段の手前で足が止まってしまった。


 ーー深く考えすぎ。


 たかが段ボールで、こんなに怖くなるなんて。


 大丈夫。


 こちらの階段は305号室が一番近い。


 きっと目に入らない。


 階段を登ろうとした時、後ろから鈍い音がし、体が壁にぶつかった。


 そして、痛み。


 痛みのある所が熱く感じる。


 徐々に視界が歪み、真っ暗になっていく。


 怖いよ。お母さん……。


 意識がなくなりそうな視界のすみで、あるものが目に入った。


 305号室の前にも段ボールが——。



 ーー◯日目ーー


「こんにちは……」


 中学生はゆっくりと静かにドアを開ける。


「あら、久しぶりね。どうしたの?」


「お見舞いです。クラスと部活からの」


「ありがとう。きっと喜んでる」


「……いえ」


「学校は、どう?落ち着いた感じ?」


「そうですね……まだ元気ない子もいます。だって、まさか知っている子がって」


「……そうよね。私も同じ気持ち」

「でも、この子が気づかなかったら、行方不明の子は見つからなかったかもしれない。」


「はい……」


 母は指で涙を拭う。


「ありがとう。また学校での話聞かせにきてくれたら嬉しい」


「はい!じゃあまたくるね」


 中学生は私の手をさすって部屋を出ていった。



 ーー私は、何かをして感謝されたようだ。


 何をしたんだろう。


 思い出せない。


 ただ、覚えているのは、305号室も何かあると言うこと。



 でも、今はそれを伝える術は持っていなかった。


 母親のスマホに学校からの通知が届く。


「……またなの?嫌ね……」


 件名は【行方不明者の情報提供をお願いいたします】

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