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第1章:情報の代償とスルタンのヴィジョン

コンスタンティノープル、1451年 — 王宮図書館


I. 宇宙という名のチェス盤 (Cosmic Chessboard)

夜が、重い鉛のようにマルマラ海へと沈み込んでいた。宮殿の高い窓から忍び込む風は、書架に並ぶ数千冊の革装丁の書物の間を抜け、古の囁きを運んでいた。若きスルタン、メフメト2世は、目の前の机に置かれたアンダルシア製の真鍮のアストロラーベを指先で静かに回した。このアストロラーベは、単なる星位観測のためではなく、宇宙の不可視な構造における「歪み」を測定するために設計されたものであった。


スルタンの前には、羊皮紙に精密に描かれた地図が広げられていた。しかし、それはルメリ・ヒサルの設計図でも、コンスタンティノープルの城壁を示す軍事図面でもなかった。プトレマイオスの天動説からイブン・アル・ハイサムの光学理論に至るまで、物質と光の本質を問う図解の数々であった。ファティ(征服王)は、アリストテレスの物理学を超えた真理を追い求めていた。すなわち、空間と時間は絶対的なものではなく、「周波数(Frequency)」の問題であるという真理を。


「宇宙とは、」とスルタンは独り言を漏らした。「単なる石と土の塊ではない。すべての原子、すべての微粒子は、神の『クン(在れ)』という命による振動なのだ。もしこの振動の鍵を見つければ、我々は都市だけでなく、時の流れをも征服することになる。」


II. エヴリヤの夢:次元を超越する旅人

その時、図書館の重厚なオーク材の扉がきしんで開いた。入ってきたのは、不眠により目を赤くし、手を震わせる青年、エヴリヤ・チェレビであった。彼はまだ伝説的な紀行録の旅には出ていなかったが、その精神は世界のどの地理よりも広大な想像力を宿していた。


「陛下、」エヴリヤは床にひれ伏して言った。「三晩、一睡もできませんでした。夢に見た光景は、征服者にとっても修道者にとっても吉兆とは言えませぬ。時の継ぎ目がほどけるのを見たのです。ある瞬間、私はコンスタンティノープルの城壁におりましたが、次の瞬間には見知らぬ地に立ち、空は鉄の鳥(飛行機)で覆われ、人々は光るスマートフォンを凝視しながら歩く、奇妙な夢の中にいたのです。」


ファティはアストロラーベを置き、鋭い視線をエヴリヤに注いだ。これは単なるうわ言ではない。歴史が「時の裂け目」と呼ぶ事象の最初の予兆であった。


「語れ、エヴリヤ、」スルタンは威厳に満ちた冷静さで命じた。「その光り輝く都市に、我らが旗は翻っていたか? それとも、時は我らを塵のように隅へ追いやっておったか?」


エヴリヤは唾を飲み込んだ。「陛下、旗は同じでございましたが、人々は異邦人のようでした。言葉は我らのものに似ておりましたが、言語は汚れておりました。空気は……海の潮香ではなく、焼けた金属のような刺激臭が鼻を突きました。しかし、夢の中で声が囁いたのです。『鍵は、シュメールの粘土とアルタイの霧の中にある』と。」


III. 学術的指令:

周波数の追究スルタンは立ち上がった。書庫の奥へと歩みを進め、数百年前のシュメール楔形文字が刻まれた粘土板の写しを机に置いた。


見よ、エヴリヤ、」ファティは指で粘土板を指し示した。「シュメール人は物質の本質を『メ(Me)』と呼んだ。彼らによれば、あらゆる概念、あらゆる物体には神聖な周波数が存在する。我々がコンスタンティノープルを征服するならば、武力のみならず、この周波数を我らの時代に固定することで成し遂げねばならぬ。行け。」

「どこへ、陛下?」


「アレクサンドリアの貯水槽、そしてアルタイのいただきだ。市場や宮殿の報告はいらぬ。石に刻まれた、忘れ去られた幾何学を記せ。風が特定の角度(ここでスルタンは $45^\circ$ と $90^\circ$ の屈折を描いた)で吹く時に発する鋭い囁きと、水の流れに潜む密かなリズムを持ち帰るのだ。お前が持ち帰る一文字一文字は、この帝国の存続にとって、どの城壁よりも価値あるものとなる。我々は時の中に埋没せぬよう、時を歪め(曲げ)ねばならぬのだ。」


IV. ボアッチの介入:論理の剣

スルタンがエヴリヤを送り出した後、暗い隅から一つの影が現れた。それは、スルタン自らが鍛え上げた戦いの達人であり、数学の天才でもあるボアッチであった。ボアッチは当時知られていたあらゆる暗号解読法クリプトグラフィを打破し、ファティの最も機密性の高い実験を統括していた。


「聞いたか、ボアッチ?」とファティが問うた。


「聞き及びました、陛下。」ボアッチは剣の柄を握りしめながら言った。「時の流れが流体であるという陛下の理論が証明されつつあります。もしエヴリヤがその鍵を持ち帰れば、我々はこの都市をビザンツからだけでなく、宿命そのものから切り離すことができるでしょう。」


ファティは微笑んだ。これは、歴史上最大かつ最も危険な実験の幕開けであった。コンスタンティノープルは1453年に単に征服されるのではない。時の濾過器を通り、2026年のアンタルヤへと、「魔術の天蓋(Büyü Kubbesi)」の中に封じられて転送されるのである。


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