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第61談 お母さんどこ?

 今回は、園部麻里子さん(仮名・年齢非公開)から寄せられた体験談の1つをご紹介いたします。


 以前の体験談については「第53談 とあるアパートの怪異談」をご参照ください。


 夜勤のバイト帰り、人気のない駅でエレベーターを待っている時など、ふとした瞬間、誰もいないはずの気配に振り返ったことはありませんか?


 それが〝何でもなかった〟と笑えるうちは、まだいいのかもしれません。


 これは、園部さんが、いくつかのアルバイトを掛け持ちしていた時期の話となります。


 その日、彼女は某店舗の深夜勤務に入っていました。


 冷蔵庫のモーター音と、天井から滴るエアコンの結露音。誰もいない通路を風が撫でると、職場内の店内ポップがカサカサと揺れる。


 誰も気に留めないような、いつもの静かな深夜だった……はずでした。


 最初に違和感を覚えたのは、「音」でした。


 レジ前に立っていた時、店内の静寂に紛れて、微かな衣擦れのような音が、背後から聞こえたのです。


 まるで、誰かがすぐ後ろで服の裾を揺らしているような……そんな微かな気配。


 しかし、振り返っても誰もおらず、モニターにも人影は映っていません。


 彼女が(おかしいな)と思った次の瞬間、今度は視線を感じました。


 何者かが、ジッと見つめているが、彼女に何か救いを求めているような意志も感じられる奇妙な視線でした。


 園部さんは、反射的に目を向けました。


 すると、ガラス張りの自動ドアの向こうに〝その子〟が立っているのを見ました。


 白いワンピースを着た、2~3歳くらいの女の子。おかっぱ頭で、手には赤い風船を持っていました。


 その時間帯は、防犯の関係上、女の子の立っている自動ドアは施錠されているし、来訪者を告げるインターホンも鳴っていません。


 ですが、その子は、まるでそこに立つのが当たり前のように、微動だにせず園部さんを見つめていました。


 彼女は声を出さず、(どうしたの?)と、心の中で女の子に問いかけました。


 すると、次の瞬間、頭の中に誰かの声が響きました。


(お母さんとはぐれちゃったの)


 耳元ではなく、脳の奥で囁かれたような、幼い子供の声。


 その主は、ドアの向こう側にいる少女であると、彼女は確信しました。


 思わず視線を逸らしてしまいましたが、直後もう一度ガラス越しに目を戻したのですが、その姿はもうありませんでした。


 念のため、外に出て辺りを見回しました。しかし、人気もなく、夜の風が路地のゴミ袋をわずかに揺らすだけでした。少女の姿は、一瞬の内に跡形もなく消えていたのです。


 翌日。園部さんは、同じ系列店で働く別店舗の霊感が強い事で知られる女性スタッフさんに、何気なくその話をしたそうです。


 「白いワンピースで、おかっぱ。赤い風船の子って……」


 彼女がそう言いかけると、スタッフさんは顔を強張らせて言いました。


 「同じ女の子、ウチの店にも来たよ。1週間くらい前かな」


「その子は『お母さんとはぐれちゃったの』って言ってました。きっと、ずっと探してるんだと思います」


 園部さんは、スタッフさんに少女の言葉を聞いた事を説明しました。


 「なんで?どうして深夜に、あんな子供が?交通事故か何かで亡くなった子なの?」


 「そんな気がします」


 スタッフさんの問いに、園部さんはゆっくり頷きながら答えました。


 その直後、スタッフさんはボソリと呟きました。


 「変な話なんだけどね。その子を見た日、なぜか店の奥の休憩室で、誰もいないのに床板がギシッて鳴ったのよ。おかしいでしょ? だって、その子は外にいたはずなのに。しかも、何て言えばいいのかな。まるで〝他の誰か〟が、その子の名前を呼ぶような気配もあって。声じゃないの。ただ、空気がそう言ってるみたいな……妙な感じだったのよ」


 その話を聞いてからというもの、園部さんは、件の少女の姿を見る事は無かったそうです。


 しかし、数ヶ月が経過した頃。


 夜勤中、閉店後の店内を清掃してた時でした。


 店の外は、やけに静かなので冷蔵ケースの音が、いつもより大きく聞こえました。


 ふと、園部さんが視線を窓に向けると、〝あの少女〟が再び現れたのです。


 前回と異なっていたのは、〝誰か〟と手を繋いでいた事でした。


 それは長い髪の女性でした。顔立ちは見えません。しかし、どこか穏やかな雰囲気があったそうです。


 少女のもう一方の手には、やはり赤い風船。


 風船の糸を、まるで宝物を握るようにしっかりと掴んでいました。


 その姿を見た園部さんは、思わず微笑みながら、


 (お母さんに会えたんだ。良かったね)


 と、思いました。


 それと同時に、少女と女性の霊は、〝フッ〟と光に溶けるように、ゆっくりと姿を消していきました。


 まるで最初から、そこには誰もいなかったかのように……。


 ただ、棚の上に吊るした販促ポップだけが、風もないのに、ゆっくりと揺れていました。


 それ以降、少女の霊を見たという話はパッタリと聞かなくなったそうです。


 それで良かったのかもしれません。きっと少女は、園部さんに母親と再会出来た事を伝えられて成仏したのだと、私は思いたいです。

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