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第51談 ドライ・ボーンズ

 降霊術を紹介する記事の中で、ときどき目にする名前に「ドライ・ボーンズ」というものがあります。


 ご存じない方のために簡単に説明しますと、これは海外発祥とされる降霊術の一種です。


 深夜0時01分に浴室の鏡を見つめたり、ロウソクの火が燃え尽きるまで待つなどの手順に沿った儀式を行うと、悪魔が召喚されるので、参加者は〝かくれんぼ〟を行うというものです。


 ……この場では、これ以上の儀式の詳細な説明については、あえて割愛させて頂きます。 気になる読者様は、各自で調べてください(ただし、オススメはしませんが……)。


 午前3時まで、悪魔に見つからなければ願いが叶うといわれていますが、万一捕まってしまえば憑りつかれて不幸を招くとも噂されています。


 今回ご紹介するのは、この「ドライ・ボーンズ」を軽井沢の別荘で試した大学生グループの体験談です。 取材に応じてくださったのは匿名希望の大学生の誠也さん(仮名)。


 四ヶ月ほど前になりますが、他サイトで先行で連載してた本作用の体験談募集の知らせをX(旧Twitter)で見て、私に連絡をくれました。


 発表までに時間がかかってしまったのは、その凄まじい内容ゆえに、聞き取りや確認等の取材作業を繰り返し行っていたからでした。


 裕福な家庭に育った誠也さんは、親が所有してる別荘に仲の良い友人の守さん(仮名)、亮介さん(仮名)、ユカさん(仮名)を招きました。


 きっかけは、ありふれた大学生らしい退屈からだったそうです。


 23時近く、酒盛りに飽きた彼らがネット掲示板を眺めていると、海外の降霊術「ドライ・ボーンズ」のスレッドが目に入ったといいます。


 「面白そうだから、みんなでやってみようぜ」


 誠也さんがそう口にした時、場の空気は、ざわついたそうです。


 亮介さんは即座に反対しました。


 「いや、これ掲示板を読むと本当は“1人”でやる儀式みたいだぜ?4人でなんてのは筋違いだし、危ないよ」


 しかし、その言葉を制したのはユカさんでした。


 「亮介くん臆病すぎ。どうせ作り話なんだから大勢でやったって一緒でしょ?」


 彼女は挑発するように笑い、ためらう亮介さんを押し切る形で「4人同時のドライ・ボーンズ」を提案しました。


 結果として、亮介さんと、同じく否定的だった守さんも渋々同意し、別荘の浴室に集まったのです。


 ――その選択が、後戻りできない夜の始まりでした。


 深夜0時、浴室の鏡に、ロウソクの火をかざしながら、ユカさんが小声で唱えました。


 「悪魔よ来い!」


 その瞬間、誠也さんは別荘全体が、軋むように揺れたのを感じました。


 照明は点いたままなのに、視界が一瞬ざらついたように乱れたそうです。


 「停電でも地震でもない……でも、別荘の空気が変わったのを感じました」と、誠也さんは、私に語ってくれました。


 その直後、誠也さんの鼻の奥に硫黄と焦げた羽根のような臭いが突き刺さったそうです。


 まるで、自分の近くで亡者が燃やされているような、地獄の業火を想起させる臭気でした。


 けれど、彼は他の3人にそれを言い出せないまま、ドライ・ボーンズは進行し、それぞれが別の部屋に隠れました。


 誠也さんが入ったのは、家族が使う寝室でした。 ベッドの下に身を潜めていると、十分ほど経過した頃、廊下を歩く音が響きました。


  コツ、コツ……と規則正しいのに、靴音のようでも裸足のようでもない、不明瞭な響きだったそうです。


 「人間の歩調じゃないんですよ。妙に間延びした足音で、でも確かに床板は軋むんです」とは、誠也さんの談。


  怖くなった彼はベッドの下で、息を殺しました。


 古いフローリングに鼻を近づけると、長年のワックスと湿気の混ざった酸っぱい匂いがしたそうです。


 やがて、自分の耳元すぐにまで足音が迫った気がして、背筋に冷たい汗がスッと流れ落ちたと語りました。


 突如、別の部屋から短い悲鳴が響きました。


 「ああぁぁーっ!」


 それは、ユカさんの声でした。


 誠也さんは、儀式の事も忘れて寝室から慌てて飛び出すと、廊下の突き当たりに彼女が立っていました。


 その姿を見た瞬間、同じく駆けつけた他の二人も含めて言葉を失ったといいます。


 彼女の目は焦点を失い、口元には泡のような唾が溜まり、壁を血が滲むほど殴っていました。


 手の甲には赤い痕が走り、爪が折れても止まらなかったそうです。


 「ユカ!何やってんだ!?」


 守さんが止めに入ろうとした瞬間、彼女は獣のように叫び、廊下を暴れ回り始めました。


 壁に頭を打ちつけ、家具を薙ぎ倒し、狂ったように手足を振り回したのです。


 「危ない!押さえろ!」 亮介さんが叫び、誠也さんも加わって、必死にユカさんを押さえ込みました。


 しかし、その力は常軌を逸していたそうです。細身の女子大生のはずなのに、大の男3人がかりでも容易に抑えきれず、爪で腕を引っかかれ、蹴り飛ばされ、何度も床に叩きつけられそうになったそうです。


 「やめろ!やめてくれー!!」


 誠也さんたちの必死の呼びかけも届かず、彼女は泡を吹きながら歯を鳴らし、喉の奥から獣のうなり声を漏らしました。


  やっとのことで両腕を押さえつけ、亮介さんが上から覆いかぶさる形になった時、ユカさんの動きは突然止まりました。


 その表情は一瞬だけ穏やかに見えましたが――次の瞬間、口元が不気味に吊り上がり、発せられたのは、〝彼女自身の声〟ではありませんでした。


 低く濁った声で、こう囁いたのです。


 「……みーつけた」


 明け方、ユカさんは玄関で気を失って倒れていました。


 ドライ・ボーンズを行っていた時の記憶は無かったそうで、体中に傷を負っていましたが、それ以上に深刻だったのは、その後の変化でした。


 彼女は非常に怒りっぽくなり、大学内でも友人に暴力を振るうようになりました。


 更に校内の鏡や、窓ガラスに向かって〝見えない誰か〟と話す姿が度々目撃されました。


 ある講義の時に、誠也さんが彼女のノートを覗き込むと「出ていけ!!」「見つけるな!!!!」といった文字が書き殴られていたそうです。


 ……最終的にユカさんは、精神病院へ入院してしまいました。


 誠也さんの話では、その後しばらくの間、ユカさんは自宅で暮らしていたそうです。


 ところが、家族の証言によれば、日ごとに奇行が増していったといいます。


 深夜になると誰もいない廊下に向かって叫び出したり、洗面所の鏡を殴りながら延々と「出ていけ」、「見つけるな」と呟き続けたり――。


 時には突然、家具で窓ガラスを割り、その破片で自らの体を切りつけて泣き叫ぶ事もありました。


 両親は心配して医者に相談しましたが、精神安定剤を飲ませても落ち着かず、弟や妹に暴力を振るいかける事すらあったそうです。


 次第に家族だけでは手に負えなくなり、やむなく精神科病院へと入院させる決断を下したのだといいます。


 入院後、彼女の家を訪れた誠也さんは、ユカさんの母親から「家では本当に大変だったのよ……」と涙ながらに、事の顛末を打ち明けられたそうです。


 その姿を見た彼は、ついに胸の内に秘めていた真実――あの夜に行った「ドライ・ボーンズ」の儀式の事を、彼女に思い切って告げました。


 しかし、返ってきたのは『信じられない!』という表情した母親の怒声でした。


 「そんな馬鹿げた話、娘の病気と何の関係があるっていうの?これ以上、ウチの家族を惑わすような事を言わないで!」


 そう言って、誠也さんを責め立て、家から追い出してしまったそうです。


 彼は、深い絶望とともに(自分のせいでユカをさらに孤独にしてしまったのではないか?)と強い罪悪感を抱くようになったと、私に語ってくれました。


 現在も彼女は、病室の鏡に向かい、必ずこう呟くといいます。 「夜明けまで、もう少し……」 そして、時折り、こうも口走るそうです。


 「4人分の願いは、私が背負ってる。だから苦しいの……だから出られないの」


 その表情は苦悶に歪みながらも、どこか誇らしげでさえあったと、誠也さんは担当の看護師から聞いたそうです。


  彼は最後に、私へこう語りました。


  「本来〝1人〟でやるドライ・ボーンズを、僕らは4人でやってしまった。その歪みのツケが、全部ユカに行ったんです。本当に、何てバカなことをしてしまったのだと後悔しています……」


 ……最後に、私自身の体験をお話ししておきます。 この取材を終えた2日後の夜、私は自宅で眠っていました。


  ふいに全身が鉛のように重くなり、声も出せない――いわゆる金縛りに襲われたのです。


 枕元には、ぼんやりとした〝人影〟が立っていました。 顔や服の輪郭までは分からないのに、そこから漂ってくる気配は、どうしようもなく冷たく、暗く、そして――どこか〝悪魔〟を思わせるシルエットに見えたのです。


 金縛りが解けた時には、人影は消えていました。 あれは本当に悪魔だったのか?それとも取材のせいで過敏になっていたから見た悪夢なのか?


 ……今も判断がつきません。 ただ一つだけ言えるのは、この原稿を書いている今も、あの夜の気配だけは決して忘れられない、という事です。


 ドライ・ボーンズは、現在でも海外の都市伝説として語られています。


 ネット掲示板やSNSに散発的に現れる体験談も、真偽の程は分からないまま削除され、今や断片的な噂しか残っていません。


 しかし――今回の取材を終えた私には、ドライ・ボーンズをただの都市伝説と笑い飛ばす事は、もはや出来ません。


 誠也さんが聞いたという謎の足音や、別人のようになってしまったユカさんの奇行。そしてその後に私自身の身に起きた不可解な出来事……。


 どこまでが事実で、どこからが噂なのか、現実と非現実の境界線は思った以上に脆いものでした。


 ここまで読んだアナタは、どう感じたでしょうか? 誠也さんの作り話と思う方もいるかもしれません。どう思うのかは読んだアナタ自身の判断にお任せします。


  しかし、取材を終えた今も私の頭の片隅には、直接目撃していないはずなのに、ユカさんの焦点の定まらない瞳と、あの「みーつけた」という低い声がこびりついています。


  ……もし、今夜アナタの家の鏡に〝何か〟が映り込んでも、それを「幻覚だ」と言い切れますか?

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