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第4談 怪獣魂

  私の趣味ですが、子供の頃から特撮ヒーロー作品が好きなんです。


 『ウルトラマン』や『仮面ライダー』など、日本人なら誰でも知ってるメジャー作品は当然の事。マニアしか知らないようなマイナー作品なども観まくってきました(笑)。


 今回のお話は、私が特撮趣味を通じて知り合った友人の永田さん(仮名30代男性)から聞いた体験談となります。


 ほんの数年前までは、「ありふれた、どこにでもあるローカルヒーロー活動」だったのに、ある年の夏の日を境に、彼の世界はほんの少しだけ〝こちら側〟ではなくなったのです。


 永田さんは、某県某市で活動していたローカルヒーローサークルのメンバーでした。


 活動の中心は、地元の商店街で行われるお祭りや、ショッピングモールのイベントスペース。


 毎年恒例の夏祭りヒーローショーでは、多くの親子連れが観劇にやってきたそうです。


 その永遠に繰り返されると思っていた平穏な日常は〝あれ〟によって崩されることとなりました。


 ある年の春。季節外れの冷たい風が残る頃、永田さん達はSNSを通じて新メンバーの募集を始めました。


 それを見て集まった中の1人が、今回のキーパーソンとなる人物の和田さん(仮名60代男性)です。


 彼は造形担当としてサークルメンバーに志願してきたそうです。


 地元の公民館で開催したメンバー募集の面接場に、和田さんは年季の入った工具箱を片手に、革のエプロンを身に纏い現れました。口数は少なかったが、瞳は異様なほどに輝いていたそうです。


 「昔ね、俺は円谷プロに入りたかったんだよ」と、彼は永田さん達にぽつりと言いました。


 ……その後、正式なサークルメンバーとなった和田さんは、夏祭りに向けてヒーローショーの敵役となる怪獣の着ぐるみを制作することになりました。


 和田さんが持てる造形技術の全てを注ぎ込んで誕生した〝その怪獣〟は、〝ゴジラ〟を彷彿とさせる王道スタイル。しかし細部の完成度が違いました。


 鱗の一つひとつが手作業で張り付けられ、甲殻は硬質パテで厚く盛られ、牙や爪は、鋭く尖っており、眼には赤黒く光る反射板が埋め込まれていたそうです。


 (ショーのための造形にしては、あまりにも本格的すぎる)


 完成した着ぐるみを見た和田さんは、そう思いました。


 ある意味でローカルヒーローショーという枠組みからは〝浮いている〟ほどのクオリティでした。


 そして、その怪獣スーツは、ショーの当日まで和田さんの自宅ガレージに保管されることとなりました。


 異変が起きたのは、ショーの前夜でした。


 その日は、夏の夜にしては湿度が低く、虫の声も妙に少なかったそうです。


 和田さんが、着ぐるみのメンテナンスのためにガレージを開けたとき、彼は奇妙な違和感を覚えました。


 照明を点けた瞬間、着ぐるみが……怪獣の凶悪な眼が、和田さんを「見ていた」のです。


 正確に言うと、「目が合った」という感覚ではありませんでした。怪獣の目から、彼の全身を刺すような〝意識〟のような物を感じたそうです。


 しかも、それは2日前に置いたはずの場所から、数メートルほど動いておりました。


 ガレージに鍵はかかっていたし、和田さんは独身だったので、自分以外に出入りした者もいません。


 けれど、コンクリートの床には、尻尾をズルズルと引きずったような跡が、確かに残っていました。


 「気のせいだよな……」


 と、自分に言い聞かせながら彼はメンテナンスを終えました。


 ガレージを出ようとした時、彼の背後で僅かに「ギチ…」という音が聞こえたそうです。


 ラテックスの軋みとも、誰かの喉が鳴るような音ともつかない、薄気味悪い音でした……。


 ショー当日。


 和田さんの造った怪獣は、台本通りヒーローと激しいバトルを繰り広げておりました。


 だが、クライマックスの直前、怪獣が突然グラつき、そのままステージから転落してしまったのです!!


 予期せぬアクシデントで、観客席はどよめき、怪獣の中に入ってたスーツアクターは頭部を強打して意識を失ってしまいました。


 当然のことながら、その場でショーは中止になったそうです。


 搬送された病院で、スーツアクターは意識を取り戻し、こう語りました。


 「中に入ってる途中で、〝何か〟が俺を抑え込んだんです。着ぐるみが急に〝ズーン〟と重くなって、身体が一切動かなくなって。まるで着ぐるみの素材が突然〝鉄の固まり〟になったのかと思ったくらいでした……」


 彼の表情は、単なるケガ人の〝それ〟ではありません。まるで、何か〝見てはいけないもの〟を見た者の顔でした。


 ……ここまでの経緯を永田さんに話した和田さんは、最後にこう言いました。


 「実は、俺の造った怪獣が夜中に動いていたのさ。正確に言うと夢で見たんだ。誰も中に入っていないはずの怪獣が、ガレージの奥の暗がりで動いてるのを……」


 彼の言葉を聞いた永田さんは、背中に冷たいものが這うのを感じたと、私に話してくれました。


 それは、単に「不気味な夢」の話だったからではありません。


 和田さんが口にした〝夢の中の光景〟が、まさに永田さんがショーの準備期間中に一度だけ目撃した、ガレージの中の〝奇妙な影の動き〟と一致していたからです。


 あの日、永田さんは、ショーの打ち合わせで和田さんの家を訪れていました。


 本番前に、もう1度怪獣を見たくなった彼は、和田さんの許可を得て1人ガレージに行きました。


 その際、彼は確かにガレージの奥に置いてある怪獣の着ぐるみが静かに揺れているのを見たと言います。風もなく、誰もいないはずの密閉空間なのに……。


 しかし、彼は(着ぐるみが、すきま風か何かで揺れたんだ!きっとそうだ)と、無理やり自分に言い聞かせ、深く考えないようにしていたのです。


 その出来事が、〝夢の中で出てきた〟という和田さんの証言と完全に重なってしまった。


 「偶然にしては出来すぎてる……」


 永田さんはそう呟いたあと、しばらく黙り込んだといいます。


 古来より、「物には魂が宿る」と言います。


 特に人の手で長く作られ、強い想いが注がれたものには、〝形〟ではない何かが残るとも……。


 永田さん達のヒーローサークルが、翌年以降の夏祭りショーに参加することはありませんでした。


 そして件の着ぐるみは、今も和田さんのガレージの片隅にあるそうです。


 和田さんはもちろん、永田さん達サークルメンバーの誰も近づこうとしません。


 なぜなら、あの夜と同じ〝音〟が、時折聞こえるからです。


 「ギチ……ギチ……」と!

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