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第21談 母の遺した人形

 これは、数年前にSNSを通じてQさん(仮名 女性 年齢非公開)から聞かせてもらった話です。


 Qさんの親友であるFさん(仮名)は、長年子どもを望みながらも授からず、不妊治療を続けていました。


 十年近くの時間と、心身を削るような治療の日々――。


 しかしその努力がついに実り、ようやく女の子を授かりました。


 母と娘、親子の時間は幸福そのものでした。


 三歳の誕生日には、Fさんが選んだ日本人形が娘さんに贈られました。


 箱から出した瞬間、娘さんはその人形を離さなくなり、眠るときも出かけるときも、いつも抱えていたそうです。


 ――けれど、幸福の陰には、どこか不幸の影が潜んでいたのかもしれません。


 娘さんが小学校に入った直後、Fさんは癌で急逝します。


 残された娘さんは、母の形見として、その日本人形をいっそう大切に扱いました。


 髪を梳くように撫でたり、時折鼻を近づけて、ほんのり香るような懐かしい匂いを吸い込んだり。


 まるで母親がまだそこにいるような安心感を、その人形から得ていたといいます。


 しかし中学生になったある日、下校途中で駅の階段から転落し、頭部を強く打って意識不明となりました。


 生死の境を漂うような日々。


 けれど、奇跡的に意識を取り戻した彼女は、目覚めの直後に父親へこう語ったそうです。


 「夢の中でね……お母さんが、すぐ隣にいてくれたの」


 ところが、退院して自宅に戻った時、異変が待っていました。


 大切にしていたはずの日本人形が、忽然と姿を消していたのです。


 父親に尋ねても「知らないぞ、どこかにあるんじゃないか」と首を振るばかり。


 家中を探し回っても、影も形もありません。


 娘さんはそこで、父から衝撃の事実を知らされます。


 生前、Fさんは(愛しい娘といつまでも一緒にいられるように)と願い、自らの髪の毛と七五三の着物を人形師に託して、その人形を作らせていたというのです。


 つまり、彼女が幼い頃から愛していた人形には、母の肉体の一部が宿っていたのです。


 それを聞いた娘さんは、なぜか幼いころからその人形が母の匂いを放っていると感じていた理由を理解し、嗚咽が止まらなくなりました。


 父は娘を抱きしめながら、静かに言いました。


 「きっと、お前が助かったのは、あの人形が身代わりになってくれたからだ。だから泣くな」


 以来、何年経ってもその人形は見つかりませんでした。


 まるで彼女の事故の瞬間、母の魂を伴って――役目を果たしたかのように姿を消したのです。


 現在、娘さんは立派な社会人になっています。


 成人式の折、Qさんを訪ねてきた彼女は静かに打ち明けました。


 「私、お母さんの命日には必ず二人分の線香を炊いているの」


 なぜ二人分かと尋ねると、彼女は少しはにかむように笑い、こう答えました。


 「だって、あの人形もお母さんと一緒に私を守ってくれたんだもの。きっと天国で二人並んで待ってるはずだから。……いつか私が行ったら、会えるよね」


 アナタは、この話をどう思われますか?


 単なる偶然にしてはあまりに出来すぎた話のようにも感じますが……。


 大切にしていた持ち物が、ふと消えてしまったことはありませんか?


 もしかしたらそれも――アナタを守るために役目を果たした〝誰か〟が旅立った印なのかもしれません。

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