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第16談 隔週更新・怪異混線ラジオ

 約15年ほど前のことになります。

 

 私は友人のY君、H君と3人で、隔週更新のインターネットラジオ番組を制作していました。


 当時は、まだ今のように動画配信が盛んではなく、「ネットラジオ」という形で、自分たちの好きなものを語り合うだけの番組が、小さなコミュニティの中で細々と楽しまれていた時代です。


 大学の一室を借りていたわけでもなければ、立派なスタジオがあったわけでもありません。使い古されたマンションの一室に機材を持ち込み、マイクのコードが何本も床を這っている――そんな手作り感のある空間で、私たちは毎回収録をしていました。


 その部屋に入ると、微かにホコリっぽい匂いが鼻をつきます。蛍光灯の白い光が机の上に落ち、窓の外からは時折、自動販売機が硬貨を飲み込む音や、遠くを走るバイクの排気音が聞こえてきました。日常的で、ごくありふれた光景。だからこそ、あの日の異変はより際立っていたのかもしれません。


 番組の内容は、私たちが漫画や特撮について好き勝手に語ったり、ときには友人知人の声優さんや芸人さんを招いて賑やかにするというものでした。


 1日で2本録音し、まとめて1ヶ月分を収録するのが習わしで、回を重ねるごとにリスナーも少しずつ増えていきました。


 ある月、私たちは芸人のMさんをゲストに呼びました。彼はお笑いの舞台でも名の知れた人でしたが、意外にも心霊体験談をいくつも持っているそうで、そのひとつを話していただいたのです。


 ――当時付き合っていた女性が、どうやら生き霊のようになって目の前に現れた、と。


 本人は笑い話に変えて語っていましたが、その場の空気は少しだけひんやりとしたことを覚えています。


 次の収録は、Mさんのいない3人だけでした。


 その時のテーマは「世間一般では知られていない映画やドラマについて語ろう」というもので、私は牧口雄二監督の1967年公開作品『徳川女刑罰絵巻 牛裂きの刑』を紹介しました。


 今ではとても公開不可能と思われるほど残酷な処刑の場面が並ぶ映画で、私はそれを冗談めかして、少しふざけながら解説したのです。前回のMさんを真似すれば、リスナーも笑ってくれるだろうと考えたからでした。


 収録時の部屋はいつも通りのはずでした。けれども、妙に喉が乾き、声がマイクに吸い込まれるたびに耳鳴りのようなノイズが重なって聞こえた気がします。H君もY君も、何も言いませんでしたが、どこか表情が固かったように思い返されます。


 問題はその後でした。


 次の収録日、Y君がいつになく硬い表情をして言いました。


 「……この前の放送に、変な声が混じってるんだ」


 半信半疑で彼の持ってきた音声を聴くと、背筋に冷たいものが走りました。


 まず、Mさんが出演した回。


 彼が生き霊の話を締めくくった直後に、「あぁー!」と、女性の叫び声が入り込んでいたのです。ヘッドホン越しにも、耳の奥に突き刺さるような声でした。


 続いて、私が件の映画の話をしていた回。


 劇中の女性が虐げられる場面を冗談混じりに説明したあと、収録回の該当部分には「うぅぅー!あぁぁー!」と、苦痛を伴うような悲鳴が重なっていました。


 どちらも女性の声。しかし、その場にいたのは私とY君、H君、そしMさんだけ――すべて男性です。録音機材の不調かと疑いましたが、声はあまりに鮮明で、ノイズの延長線では到底片づけられませんでした。


 冷房を入れてもいないのに部屋の空気は妙に冷たく感じられ、息をするたびに肺の奥がざらつきました。


 Y君が震え声で言ったのを覚えています。


 「……どっちも、〝女〟に関する話題の後なんだよ」


 それが単なる偶然だったのか、あるいは――。


 あの部屋には、誰にも気づかれずに漂っていた〝何か〟がいたのかもしれません。


 女性の話題に触れられたことで、耐えきれない思いを声に変えてしまったのではないか。


 今でも、私が話した回の音声はYouTubeに残っています。「ほんとにあった!呪いのラジオ」と検索すれば見つけることができるでしょう。


※一応、リンク先も掲載しておきます。

https://www.youtube.com/watch?v=xgkUcjS5K9Y


 ただし、再生したその時、あなたの耳に本当に聞こえるのは――番組の声だけでしょうか?


 あれから年月が経ちましたが、私はいまだにあの収録部屋に入った時の「乾いた喉の渇き」と「背筋をなぞるような冷気」を思い出します。


 正直、私自身も〝声〟を本当に耳で聞いたのか、あるいはY君に言われたからそう聞こえただけなのか、今となっては自信がありません。


 しかし一つだけ確かなのは、あの音を耳にした瞬間、全身の毛穴が逆立ち、心臓が握られるように強く脈打ったという体感です。


 録音データに混じった声が本物であろうとなかろうと――私の体は、それを〝現実〟だと判断してしまったのです。

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