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怪奇事変

怪奇事変 悪霊を使役する者

掲載日:2026/03/23

善人にも悪人にもなれる世界、その基準とは?

第二十二怪 悪霊を使役する者


 生きているとムカつく場面って言うのは幾らでもある。

 なぜ?どうして?そんなものはどうでも良い……ただ、無償に腸が煮えくり返る程の“怒り”。

 それらを止められるのは“理性”――そう言う意味では“彼”は“理性”を会得できておらず……いや、未熟――だったのかもしれない。


 「……成績が優秀なお前が何故暴力なんかを?」


 「先に手を出して来たのは向こうだ、正当防衛でしょ」


 「だからと言って……はぁ…大人になれ、次は大学だ。お前の成績ならいい大学にだって――」


 「進路相談なら別の機会でお願いします」


 教師に頭を下げて教員室から退出する男子学生。


 「お、おい!まだ話は終わってないぞ!鏑木!戻れ!!」


 「……五月蠅(うるさ)いんだよ。どいつもこいつも」


 鏑木釼持(かぶらきとうじ)、高校3年で成績優秀、真面目、そして――欲望の赴くまま本能に従う“生き物”。

 何故彼をこの様に表現するかと言えば、彼の素行に問題があるからだ。

 彼はこの高校3年に至る前まで遡れば、不祥事を起こした問題は数十万以上にも及ぶだろう。

 

 『うえぇぇぇぇん!!』


 『どうしたの!?南くんに何をしたの?釼持くん!?』


 『……ソイツが僕の玩具を奪ったから殴っただけだよ』


 そう、最初の不祥事は保育園に入れて数日も及ばない内に起きた些細な喧嘩。

 ――些細な喧嘩なはずだった、床に塗られた血痕とその主の傷を目の辺りにするまでは。


 『こんな事をご両親の前で言うのも何ですが、釼持君の暴力沙汰は異常です。』


 そう言われたのは隣の部屋で玩具で遊んでいた時だった。

 項垂れる保育士と必死に自身の子供の行いを認めない両親――この時の釼持は特に、何も思ってはいなかった。

 そういえば――その教師は流血していたのだ、片方の額から。

 

 『釼持君の暴力、その怪力、この怪我を見ても信じられませんか!?』


 『そんな事を子供がやれるはずないでしょ!?』


 『私達が自作自演をしてるとでも!?そんな面倒な事をしてまで釼持君を陥れる訳ありません!自分の息子さんなのにお気づきになれないのですか!?』


 その言葉が原因で酷く言い争いが激化した。

 煩わしいと感じた釼持は玩具の中で、最も大きい“物体”を隣の部屋に投げた。

 当然、あり得ないのだが、扉は激しい音と共に破損し、向こう岸に居る保育士と両親は唖然としていた。

 

 『こ、これ、が……貴方達の息子さんです』


 『……せんせい』


 『!?』


 『うるさいか静かにして』


 子供が乗って遊べる玩具、そんな物を子供が投げ飛ばす事などできはしない。

 しかも扉を破壊など当然……だが――彼はできる、何故なら――


 『そうだ釼持、五月蠅い奴等はそうやって黙らせないと、ちゃんと“霊力”の使い方さえ覚えれば自分より強い相手だって簡単に殺せるさ!』


 唯一無二の友が居たから。




 『ブッ飛ばさないのか?』


 何処からともなく声が聞こえる、最近は何処から声がするのか?その人物は何者なのか?

 良く目を凝らせば分かる様になってきた。


 「……学校で話しかけるな、おかしい奴だと思われるだろ」


 『もう思われてるぜ?喧嘩無敗で他校からも焼きを入れらてる、ほ~ら…今日もだ』


 廊下の窓越しから見える不良たち、白服や黒服とみな同じ見た目をしている。

 眉毛を沿って、刺青を入れて、髪を金髪にして……理解ができない。


 「アレは…彼なりにお洒落なのだろうか?」


 『さぁな。自分を強く見せて―んだろ、ライオンのたてがみみたく』


 「ああ。なるほど」


 コイツの言った通り、ライオンのたてがみの様なものだ。

 自身を大きく見せる為に大きなたてがみがあるらしいっと何処かのテレビ番組で見たような気がする。


 「わざわざボコされにご苦労な事だね」


 『……釼持、お前、“霊力”の使い方がまた一段と上達したな』


 「一段だけ…だろ、不満なんだ、解消してくる」


 『おい!またあの先公にキレられるぞ』


 「昔からだろ、そんな事より、俺は知りたいんだ……この“力”でどれだけやれるのかを」


 『んな事してなんの役に――』


 「立つさ、例えばプロボクサーのパンチと“霊撃”を加えたパンチは同程度なのか?もしそうであるなら普通にプロボクサーを目指した方が良い」


 『なんでだ?』


 「“霊力”の消費は体力の消費と同じ、使えば使う程精神も体力も削られて行く…でも同程度なら、基本的に呼吸法やパンチの練習をしてスタミナをつけた方が良いとは思わないか?」


 『まぁ確かにな、けど今からプロボクサー目指すのは遅すぎだろ~』


 「何事にも、遅いって言うのはないんだ。大事なのは気づいた事で行動できるかどうか――」


 『いや~だいや~だ、そうやって何人病院送りにしたか……』


 「それにプロボクサー並みのパンチが繰り出される様になれば、そこに“霊撃”を加えれば相当な火力になると思わないか?」


 『……死ぬだろ、それ』


 「邪魔はしないでくれ、いつも通り、面倒事になりそうなら、知らせてくれ」


 『まぁ俺は退屈しねーけどな、マジで、あの日から退屈しねーは』


 は蜃気楼の様な靄が消え去り釼持はそれを確認して進む。

 ネクタイを緩め、純敏をする、臨戦態勢と言う名の。


 


 屍の山――厳密には鏑木釼持をボコる為に集結された不良、総勢100名程が彼の前で倒れていた。

 事の発端は以前の関係からただ何癖を付けてきただけ。

 それに対応した釼持は自身が持つ特別な力――“霊力”の使い方を学ぶべく実践方式で生身の人間と戦っていた。

 結果は御覧の通り、圧勝であった。


 「“霊力を目に集中”させれば見えなかった相手の“霊力”を感知でき、脳に“霊力”を送り込み神経細胞に作用させれば一時的に身体能力や危機感知能力なども常人以上のステータスに上昇できる…拳に集中させた“霊力”を留めれば“霊撃”のグローブを作れたり、色々と便利だ――そう思うだろ?」


 「……ば、ばけ、もん」


 「試しにチェーンで柔らかい眼球膜に“霊力”を集中させて“霊壁”を作ったが、涙が出る程度で済んだ、失明してない……他には、そうそう、あったな」


 屍の山から飛び降りる釼持はひれ伏すかのように倒れている人間を“霊視”を使い凝視する。

 すると薄っすらだがモヤのような膜が揺らついているのを確認できる。


 「“霊力”を持っている者も“霊視”すれば確認できるのは朗報だ、しかも本人がその素質に気づけなくとも占い師の様に才能の有無が一目で分かる……まあ残念だけど、君は――才能ないのかな?“霊力”は…使えないみたいだ」


 そう言い捨て屍になった肉体を踏みつけて歩く。

 苦悶の声すらも彼にとってはどうでも良い、ただ己の欲望の赴くまま――。


 『おい、お前がド派手に暴れているせいで……』


 「“悪霊”……此処ってでる所?」


 『いいや、美味そうな“霊力”につられてきたゴミ共だ』


 人の顔を持っているようで目と鼻の部分が爛れて肉が見えている怪物、それが口を開けると、体内の血液がドバァっと溢れ出る様に流れ落ち、まだ倒れている肉体に噛みついた。

 先ほどの才能のない人間の“霊力”を食っているらしい。


 「こうして“悪霊”は力を蓄えるのか?」


 『まあな、俺達はもう味なんて“霊力”でしかわからねーからな』


 「肉体は?」


 『……食う時もある』


 「……なるほど」


 そう言うなり、静かに近づくと手刀で首を切り落とす。

 当然、霊体の首に音などあるはずもないがボトリっと落ちた感覚は聞こえた。


 「“霊聴”…確か霊の残した物音など感知できるんだっけ?いつの間に……」


 『そりゃ子供のころからそんな戦ってばかりいれたら、自然に身に付くだろう……』


 呆れた様に相方は返事を返す。

 手にこびれ着いた感触を“霊感”が強いと鮮明にリアルに体験する事ができる。

 それを雑に振り払うと、血が地面に付着するも蒸発したように消える。


 「もっと良い相手が欲しいね」


 『それなら“霊媒師”がいいぜ?アイツ等はその道の専門家(プロ)だ』


 「“霊媒師”?……まだ会った事ないな」


 『俺様に良い方法がある、乗るか?』


 「ああ、任せる」


 『へへ、任せろ。特段嫌がらせしてやる』


 彼と悪だ組をするときはいつもこんな形だ。

 だが彼らは互いに損得利益の為に行動しているだけに過ぎない。

 鏑木釼持は“霊力”とは?の探求のため。

 そして――この“悪霊”は、自身の“欲望”のためである。


 こうして悪霊の考えた悪知恵が上手く働き、ついに相まみえる事となる。

 騒ぎは簡単に起きた、東京の夜の街。

 人気の無い所で4人の男性が小競り合いをしていた、つまるところ喧嘩だ。

 そんな騒動の最中、悪霊は1人、全く霊感のない人間を道具で吊るし上げてそのまま殺した。

 

 『ん?1人凄まじい霊力を持ってる奴が居るな……』


 リーゼント風の男、3人にタコ殴りにされていた人物だ。

 こちらを凝視している様子が伺える。


 『面倒だ、此処で祓われるとなると計画がすすまねー…おい』


 そう言って後ろに待機していた、他の悪霊に声をかける。


 『へへ、なんでございやしょう?』


 『もう1人殺しとけ、適当で良い、殺したら適当にお前も逃げておけ』


 『全員殺っても?』


 『フリーダム♪』


 『OK♪』


 そう言ってその場から速やかに離れる。

 チラっと見るとやはり、あのリーゼント男は既に“手印”と呼ばれる“霊術”を使おうとしていた。


 『馬鹿が、敵の力量も知れねーからいつまでたっても下級レベルなんだよ』


 そう言い残し、その場を去る。

 あの場はあの“霊媒師”に清められるだろう…だが、死んだ魂はこちらに引っ張って来れてる。


 『釼持が奴と戦うまでのレベルになるには、前座が必要だ』


 悪霊に等級があるように霊媒師にも等級が設定されている。

 

 『確か最高は……“特級霊媒師”だったか?多分、アイツはそのレベルだな、あそこまでに成長してもらうには――』

 

 不敵な笑みを浮かべながら上空を浮遊する。

 夜の街並みは人知れず悪霊渦巻く摩天楼となっていることも知らずに…。




 「……それで、成果はどうだったんだ?」


 『バッチリだ、何人か殺ってきてるから魂も、ほら』


 「……悪霊になりかけてるな、まるで孵化するまでの蛹って感じだ」


 『だな。これを暴力団が使ってる隠し倉庫で解き放つ』


 「そこに“霊媒師”が集まるって手はずなんだろうが――」


 『分かってるさ、サツが来るのも、だがそのサツも仏にしちまえば――』


 「本丸が出張ってくるわけか……“霊媒師”に姿を見られるより、警察を間引きたいな」

 

 『なんでだ?』


 「占い師が明日世界が滅亡する…と言ったとしてお前は信じるか?」


 『なるほどな』


 「専門家とは言え“霊媒師”。霊が視えるだけで特別な所はほとんどないなら、与太話も信憑性がない、だからそれよりも――」


 『見れるサツを全員始末してから“霊媒師”と殴り合いか?』


 「ああ、その台本でとりあえずは行こう……」


 不敵な笑みを浮かべ、内包するエネルギーを解き放つ釼持。

 禍々しい赤いオーラ―の靄が屋上から解き放たれ、それに呼応された悪霊たちが渦を成すかのように禍々しさを増していた。


 ――港倉庫A――


 暴力団の仮のアジトのような場所になる。

 主に此処で危険物から薬物の取り渡しなどが行われているが、そこに不似合いな人物が居た。


 「なんだテメェガキコラ!?」

 「ブッ殺されてーのか!!」

 「焼き入れられたくなかったらとっとと土下座しろ!」


 「……在り来たりな台詞だな」


 『しかたねーさ、だがこんだけ血の気が多いなら正当防衛は有効だよな』


 「ああ、さっさとゴミ掃除をしよう」


 コンテナから飛び降りゆっくりと歩み寄る。

 周囲は既に取り囲まれ、銃まで取りだして威嚇射撃をする者まで居る様だ。

 ついでに言えば、コイツ等は最近強盗を行って指名手配犯となって、警察の捜査が行われている。


 「これで全員か?」


 「ア!?」


 「いや、全員でもそうじゃなくてもこの量なら大丈夫か、初めようか」


 「舐めた口聞きやがって、調子乗ってんじゃね!!」


 そう言って1人が銃口を向けて撃つと、その反動で身体が仰け反る……が、それだけで倒れる事はなかった。


 「なるほど、本当に凄いな。“霊壁”でガードをしていれば防弾チョッキ並みの防御力は取れる訳だ」


 「なっ!?」


 仰け反った状態で話す学生に驚愕する暴力団員達。

 姿勢を戻し、そのまま額に埋め込まれるはずだった銃弾を取り、それを親指で弾くと、目の前の人物が吹っ飛んだ。


 「霊撃を加えれば銃を使わなくても手が銃の代わりにさえなるって事か、本当に便利だ――ただ」


 一斉に銃を構えられる釼持は淡々と説明を続ける。


 「銃弾に指紋が残るのが面倒だ――」


 銃声の嵐の中、釼持は異様な反射速度で敵を薙ぎ倒していく。

 狙うは急所一点のみ、次々と倒されて行く仲間に恐怖を覚えるも、釼持は止まらない。

 それどころか受ける銃弾の雨さえ心地よく思ってしまっている状態で、完全に愉悦に浸っている状態だ。


 「いた…な!」


 霊撃を込めた手刀が心臓を抉る。

 手は真っ赤に染まり、立ち尽くし満悦した笑みを浮かべる。


 「これが…霊能力者の戦い!!」


 「コイツ、トラみたくはえーぞ!」


 「狙え!同じ人間なんだ、死なね―はずねぇー!!」


 仲間たちは互いの声に鼓舞しあい、銃の音を止めない。

 その中で、僅かに聞こえたサイレンの音に釼持は我に戻り、一瞬で敵を薙ぎ倒していく。

 

 「時間がないんだ、死んでもらうよ」


 「くそ、なんだよこの――」


 1人の首に手がかかった瞬間、重い扉が開いた。

 

 「全員手をあげろ!警察だ!!」


 「お、おーー」


 人差し指に霊撃を集中させた針、後に“指針”と命名したその技で息の根を完全に止める。

 周囲には金具臭い匂いが充満しており、先ほどの暴力団の半分は死んでいた。

 だが残りの半分は敵のはずの警察に懇願する様に声を発する。


 「た、たす――」

 「助けて下さい!!」


 その声をかき消す様に言ったのは暴力団ではない、釼持だった。


 「暴力団に捕まって、俺…今も殺されそうになってて、血だって、ッ…い、いたいよ!」


 「て、テメェ!!」


 「動くな!!」


 警察は拳銃を暴力団に向けたまま慎重に間を詰める。


 「良いか?下手な真似はするなよ」


 「ち、ちげーよ!俺じゃ――」


 「殺れ“死神”」


 『OK』


 警察が入ったタイミングで悪霊が躍る様に“見えない鎌”を振りかざしていく。

 途端に落ちる腕、頭が落ちて死人の数が増えていく。

 釼持は――怯えたふりをしつつ、大量に集まって行く怨念が、徐々に膨らみ成長する過程を楽しんでいた。


 「ガァ!?」


 「いきなり腕が…クソ!」


 「畜生!ど、どうなってやがる!!」


 ここぞとばかり釼持は大きく息を吸い、まだ倉庫の中に入ってこない警察に向けて大声で助けを呼ぶ。


 「わぁぁぁぁぁ!!た、助けて!!警察の人がどんどん殺されてるよー!」


 ワザと、全ては縁起、大物を釣る為の大袈裟な演技。

 その演技で観客だった警察もぞろぞろと舞台に上がってくる、生贄と言う名の舞台に。 

 そしてワルツを弾くかの様に“死神”は鎌を振りまわして血のアートを作り上げていく、これは最高の演者を向かい入れる為の儀式。

 その中で――釼持はただただ静かに、指揮棒を扱う様に指揮者を演じていた。


 異様な光景を目の当たりにしても警察は止まらない。

 ただ目の前にいる暴力団員の確保、暴力団員は異様な少年の力への恐れから逃亡劇を、そして見えない演者――“死神”の舞踏会は続く。

 

 「俯瞰(ふかん)してみると――面白可笑しいね、本当に」


 そうして観客が全員舞台に上がり役目を終えるのを確認した後、上に浮かぶドス黒い球体は禍々しいオーラーを放っていた。


 「さぁ解き放て!」


 『あい――よ!』


 振り下ろされた鎌は球体を真っ二つに引き裂くと、死体となって転がっていた人物達が霊体として飛び出してきた。

 みな目はくり抜かれたかのように黒くなっており、欠損してる部分には血が流れ続けていた。

 死体と同じ――そしてやがて霊体から禍々しい赤いオーラーが解き放たれまじりあい、それは人の姿をした“ナニカ”に変貌を遂げるのであった・


 「これが…融合」


 『共食いだがな、強い奴の意思だけが残る。言い忘れてたが意思が強い奴ほど記憶も――』


 『殺ス』


 「おっと」


 途端にゴムの様に伸ばされた腕が釼持を掴もうとするも、躱す。

 

 「なるほど、意思が強ければ記憶を保持できるのか…てか“死神”が意思を持てるんだから原理はそうだろうね」


 『油断するなよ?50以上は食ってるんだ、等級で言えばかなり上のはずだ』


 「それって前に聞かされた“特級”ってやつ?」


 『いや、それより2~3下か?』


 「なんだ、雑魚じゃないか」


 『コロ…ス、オマエーー信ジテ、タノニ」


 「……ん?口調が…」


 『どうやら完全に共食いできた訳じゃねーみてーだな、コイツは』


 「さっきは暴力団、今は…警察…かな?この場合、どうなる?」


 『さぁ、どちらにせよ、意思の強い奴が霊体の支配権を持つ』


 「見ものだね…気づくかな、ゲストは」


 そう言いながら悪霊となり果てた魂たちの攻撃を躱し続ける釼持は好奇心で満たされていた。


 ――一方――


 「ここですか」


 警察官に案内された倉庫には此処までくるに辺り漂ってきた瘴気が充満していた。

 しかもその瘴気の渦は強さを増し、既に“霊域”を作り上げようとするほどの規模であった。


 「早急に手配します、2人なら大丈夫でしょう」


 「さくっとやっちまいましょう!」


 冷静な成人男性とまだ性格に幼さが残る2人の“霊媒師”が共に倉庫の重い入口を開けると、そこには瘴気の根源、悪霊と、傍らには悪霊と共にいる血塗られた人間が居た。


 「待ってたよ、来るの」




 「2人も“霊媒師”が来てくれるなんてね、嬉しいや」


 「……君は」


 「鏑木釼持、しがない学生――だった“詛呪師(そじゅし)”って所かな」


 ニヤリと不敵な笑みを浮かべながらコンテナから飛び降りる。

 血だまりになった小さな池を、戸惑いなく歩く仕草から霊媒師はこの人物が転がってる遺体を殺めたと確信に変わった。

 それは意志疎通を取らなくとも2人ともそうであった。

 誰が声を掛ける前に動き出したのは成人男性の方だった。


 「ッ!?」


 「硬いな…強固な霊壁だ」


 「あれ?順序的に君の相手は“アレ”だろ?」


 頭上を見ると、遺体になった魂の集合体“悪霊”と成人男性と共に付き添っていた人物が戦っていた。


 「鉈か~、それって俺達“詛呪師”が使う武器でしょ?」


 「正しく活用するなら霊媒師でも使える代物」


 「素人にも使えるでしょ、アレは――それより、アンタは何もしないのかい?」


 「もうしている」


 「ッ!?」


 反射的に気づいたが、手印を結んでいることに気づき、咄嗟に距離をとるも、身体が異常に重くなる。

 まるで背中に大人1人…いや、数人が圧し掛かっているかのような感覚。

 これが――


 「“霊術”――初めてくらうよ」


 「存在自体は知っていたんのか、だがコントロールもできずあんな物を生み出すとは…そこの“死神”の戯言か?」


 『ヒヒ、俺様の知恵を授けただけさ、コイツがど~しても霊力の――』


 「仕組みをしりたいと思って」


 「ッ!?」


 会話で油断してる最中に複雑な数式を解くが如く、これに掛けられた封を解読することができた。

 内容的には数式を解くのに等しい、鏑木釼持にとっては簡単な事だった。


 「なるほど、これを逆に“術”として成立させる必要があるのか…問題は、あの手印」


 忍者が使う印の様なものと漠然とした理解はできるが、完全な理解はできていなかった。

 だが先ほど殴り掛かれた時に手印はある程度見る事ができている。

 逆にあの通りに行い、数式を当てはめれば――


 「俺にも“霊術”が使えるってことか!」


 「天才…てやつか、ならば――」


 そう言って懐から出したのは短い棍棒のような物を取りだした。

 アレは…三節棍ってやつだ。


 「手加減はなしでいく」


 「なるほど、応用できるのは知っていたが、得意な武器に応用するとそこまで強さを増すのか、霊撃は!」


 互いの攻撃が衝突する。

 当然ダメージを受けたのは――釼持の方だった。

 棒で殴られたと言うよりも大きな岩でもぶつけられたような気分だった。

 

 「……クク、これが霊能者のバトルか、“死神”!!」


 『満足そうでなによりだ、手を貸すか?』


 「いや、このままやらせてくれ…もっと、もっと知りたい!」


 『ハハーーっと…おい!オメェ―の相手はコイツだろ!?』


 「彼は人間でありながら“彼岸に近づき過ぎた”――だがそれだけであとは普通の人間だ、問題はそそのかしたお前だ」


 『げ!俺のせいかよ』


 「祓ってや――」


 一瞬の隙を見逃さなかった釼持の拳が顔面を捉える。

 この状態で三節棍はーー使用できなくもない。

 だが間に合わないと悟った霊媒師は顔面に来るであろう攻撃から身を守るために霊壁を顔面に集中させるが――


 「グガァ!?」


 「パンチの衝突時にもう片方の拳に一気に霊撃を込めれば極上のフェイントを作れる!これで防御ががら空きの霊媒師さんはどの程度ダメージを受けるんだい?」

 

 吹っ飛ばされる霊媒師は血を吐きながらコンテナが凹むほどの威力で衝突する。

 口から吐血をしながらも、ゆっくりと立ち上がり状況を確認しつつ、追撃をかわし三節棍で攻撃をしかけるも――


 「こうやって密着すれば、得意の三節棍も利用できない」


 釼持はこの短期間で相手の弱点を看破していた。

 本来敵を近付けさえないための武器、臨機応変に変幻自在の武器として活用できるものの、こうして密着されてしまえば、せいぜい防御することで精一杯、しかもーー霊媒師は先ほど釼持から食らったダメージと、釼持のフェイント攻撃により集中力が薄れていた。

 

 「(戦いの天才か、それがまさか狂気と言う形になるとは…)」


 止まない攻撃を必死に受け止めるだけで精一杯だった。

 

 一方、巨大な悪霊と対峙していた片割れは順調に悪霊を祓っていた。

 

 『グ、イ、イタイ』


 「どんどんいっちゃうもんね」


 HP的にあと3割を切った所で――“死神”の援護射撃が飛んできた。


 『楽しんでるみたいで良かったぜ、次は俺のターンな』


 「いやいや、誰君?」


 鎌と鉈が衝突すると凄まじい霊気の波動が辺りに散らばる。

 どうやら互いに理解したようだ。

 互いに只者ではないことを。


 「悪霊になって何年目ですか?」


 『さぁな。気づいたコレが俺のスタイルになってた』


 そう言って自身の身体を指さし答える。

 肉から浮き出る骨、もはや瘦せ過ぎなんてものでは計り知れない程で、力いっぱい振りかざした筋力が一体どこから出る物なのかっと考えてしまうぐらいに。

 空洞に空いた2つの穴には真っ赤な目玉が装着しており、絶えず血の涙を流しているようにさえ見える。


 『“悪霊”の先は“死神”にでもなんのか?そこはお前等が一番良く分かってんだろ?』


 「さぁ、俺もこんな奴と対峙するのは初めてなので」


 その言葉が最後に互いの脚力を瞬発的に発揮して攻撃を繰り出す。

 衝突する武器に付与された霊撃が波長に様に霊気として周囲に散らばる。

 並みに霊体ならその威力だけで吹き飛ぶ程の。


 『させねーよ』


 鎌を持つ手首を巧みに使い、上段から下段、真横、斜めと緩急をつけて攻撃を繰り出す死神。

 その攻撃を時には鉈で受け止め、時には紙一重で避け、相手の急所目がけて攻撃を繰り出していく。

 実力が拮抗している中、もう一方の攻撃が飛んでくる。


 「チッ!?」


 『ご愁傷様~』


 鎌が振り下ろされ斜めに切り込みを入れられてしまう霊媒師。

 原因は上空に漂っていた祓いきれなかった残党の最後の攻撃によって隙が生じてしまったこと。

 いや、厳密には死神の目を見る限りなんらかの合図を送っていたことが分かっていた。

 その結果――大ダメージを受ける結果となってしまったのだ。


 『お前も霊媒師なんて辞めてーー悪霊になれ』


 鎌の攻撃が繰り出された瞬間、飛んできた影に邪魔をされる。

 それは先ほど鏑木釼持と戦闘を行っていたもう一人の霊媒師…手には三節棍を持っており、それで足りない間合いを計っていたようだが――


 『おいおい、無茶すんなよ…カッコつける場面じゃーー』


 「ないでしょ、今のは」


 死神と釼持の言葉通り、もう一人の霊媒師は鎌の攻撃を防ぐ代わりに釼持の霊撃を込めた拳を心臓部分に受け、吐血していた。

 

 「見誤ったーーそれが今の現状……」


 ゆっくりと膝から力が抜け落ちて、その場に膝をつく。

 予想外だった、その言葉の意味は2人の顔を見れば一目瞭然であった。


 「霊媒師には等級があるって聞いたけど、君達何級?」


 「その…問い、に…なん…の、意味……が?」


 「ね?死神。何級だと思う」


 『そうだな…精々2級か1級程度だろう』


 「だって、合ってる?」


 満身創痍の2人はその問いに何も答えない。


 「だんまりか…じゃそのままだんまりのまま俺の知的好奇心に付き合ってよ」


 落ちていた拳銃を拾い、弾がちゃんと入っている事を確認した鏑木は、そのまま銃口を向けてこう言い放つ。

 

 「霊媒師が霊体となって“悪霊化”するとどうなるのか…それを今試させてね」


 乾いた銃声が倉庫内に鳴り響く。

 



 「ちぇ、逃げられちゃった…」


 『仕方ねーよ、増援なんて聞いてね―し』


 不貞腐れながら朝日が昇るのを2人で眺める。

 鏑木は拳銃を見つめながら死神に問う。


 「ねぇ?あのまま俺が勝ってたらさ、アイツ等は霊体になってるって所は…合ってる?」


 『さぁな。霊媒師が霊体になった所なんて見た事も聞いた事もねぇ~』


 「世紀の大発見――が、ただの演劇になっちゃったね」


 つまらなそうにつぶやき、拳銃を懐にしまうと、鏑木は予め用意してあった服に着替え、血の付いた服はリュックに収納した。

 あとでこれはこれで“役立つ”からだ。


 「さて、警察には顔バレしてないけど、霊媒師には顔バレしちゃったし、社会的にも安全じゃなくなった所で――だれ?」


 後ろを振り向くと、顔面を包帯で巻いた人物が居た。

 その男はフードを被っており、懐から一通の手紙を手渡してくる。


 「これを」


 「…ラブレター?」


 「ある方から貴方に、きっと貴方の探求心を満たしてくれるに違いない」


 「そう、どうも…俺にとって君も十分探求心を満たしてくれそうだけど?」


 「では……」


 そう言うなり、まるで蜃気楼の様に背景と溶け込み消えていく包帯。


 『追うか?』


 「いや、派手に目立つよりも今はこの手紙が気になるかな、霊痕(れいこん)を辿れば後で追う事もできる」


 その手紙の内容を見てだんだんと口元が緩み、不敵な笑みを浮かべる鏑木。


 『なんて書いてあったんだ』


 「来ればわかるさ……そう言えば――“死神”、お前は俺と警察、霊媒師まで巻き込んで何か企んでただろ?」


 『……なんのことだ?』


 「まぁいいさ、行こう」


 2人組――基、1人の“詛呪師”はこうして悪意に満ちた笑みを浮かべながら後に、霊媒師達の敵となる存在になる。

 霊媒師と詛呪師――この2つの勢力は互いに拮抗した力を持ち、一方を霊を良い方向に導き、そして成仏させる。

 もう一方は霊を利用し、悪用する…彼らは光と影の存在としてこの世に存在するのであった。



 第二十二怪 詛呪師(悪霊を使役する者) 


 

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