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その病、魔法じゃ治らない。異世界で鍼灸師をやることになった  作者: 夜凪レン


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第8話 名前がつく

 会議は、村の診療所の奥で行われた。


 広い部屋ではない。

 長机が一つ。椅子が数脚。

 だが、そこに集まった顔ぶれは、この村では異様だった。


 回復魔導師グラン。

 協会監査官セリオス。

 そして――ミナト。


 立会人として、リーシャも壁際に立っている。


「……では、始めよう」


 口火を切ったのはセリオスだった。

 書類を机に置き、淡々と告げる。


「これまでの症例、計十二件。

 うち、明確な改善が七件。

 経過観察中が四件。

 治療不可判断が一件」


 淡々とした数字。

 だが、その一つ一つの裏に、人の生活がある。


「事故報告はなし」


 セリオスは、そこで一度だけミナトを見た。


「“無理をしなかった”結果だ」


 グラン医師が、低く頷く。


「……認めざるを得ん。

 魔法では触れられない領域がある」


 その言葉に、リーシャがわずかに息をのんだ。

 グラン医師の口から、それが出るとは思っていなかったのだろう。


 セリオスは続ける。


「問題は、これをどう扱うかだ」


 書類をめくる音。


「協会の規定では、治療技術は

 再現性・教育体系・責任所在が明確でなければならない」


 ミナトは頷いた。


「今の私には、どれも足りません」


 即答だった。


 セリオスが、わずかに眉を動かす。


「……否定しないのか」


「事実です」


 ミナトは、落ち着いていた。


「触診の感覚は、言葉にしづらい。

 同じことを教えても、同じ結果にはならない」


 グラン医師が、腕を組んだまま言う。


「ならば、個人技術として扱うしかあるまい」


「それが、現実的です」


 セリオスは、しばらく黙り込んだ。


 窓の外では、風が木々を揺らしている。

 雲が、ゆっくりと流れていた。


「……では、協会としての結論を出す」


 その声に、空気が引き締まる。


「カナデ・ミナト。

 あなたの行う治療は、現行分類に該当しない」


 書類に、ペンを走らせる。


「よって、正式承認はしない」


 リーシャが、思わず拳を握る。


 だが、セリオスは続けた。


「同時に、禁止もしない」


 顔を上げ、はっきりと言う。


「未分類治療として、記録・監督下に置く」


 ミナトは、静かに息を吐いた。


「妥当です」


「名称が必要だ」


 セリオスは言った。


「報告書に書くための、仮の名前が」


 グラン医師が、ミナトを見る。


「……お前は、何と呼んでいる」


 ミナトは、一瞬考えた。


「流れを整える。

 それだけです」


「流れ、か」


 セリオスが、書類にペンを落とす。


「協会用語としては、こうする」


 一拍置いて、告げた。


「流脈調律」


 その言葉が、部屋に落ちる。


「術者は――」


 ペンが止まり、再び走る。


「流脈調律師」


 リーシャの目が、見開かれた。


 名前がついた。

 それは、世界に“存在を認められた”ということだ。


「ただし」


 セリオスは、視線を上げた。


「あなたは協会員ではない。

 教育・指導・普及は禁止」


「分かっています」


「報告義務は継続」


「はい」


 セリオスは、満足したように頷いた。


「以上だ」


 会議は、それで終わった。


 椅子が引かれ、立ち上がる音。


 グラン医師が、ミナトの前に立つ。


「……教えろとは言わん」


 一瞬、言葉を探し――続ける。


「だが、見学はさせてほしい」


 ミナトは少し驚き、そして頷いた。


「条件があります」


「何だ」


「“魔法を否定しない”こと」


 グラン医師は、短く笑った。


「……今さらだ」


 外に出ると、リーシャが待っていた。


「終わったのか」


「一段落は」


「……名前、ついたな」


 ミナトは空を見上げた。


「ええ。

 重くなりました」


 リーシャは、ふっと笑う。


「責任ってやつか」


「ええ」


 風が吹き、雲が流れる。


 流脈調律師。

 それは、まだ不完全で、広められず、守られた存在。


 だが――


 ミナトは分かっていた。


 この名前は、

 村では収まらない。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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