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その病、魔法じゃ治らない。異世界で鍼灸師をやることになった  作者: 夜凪レン


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第47話 止められる側

 倒れたのは、昼過ぎだった。


 激しい音もなく、

 前触れもなく。


 ただ、足が止まり、

 そのまま地面に膝をついた。


「……ミナト」


 リーシャの声が、低く落ちる。


「大丈夫です」


 即答だった。


 だが、立ち上がるまでに、わずかな時間がかかる。


「足を取られただけです」


「地面は平らだ」


 リーシャは、はっきり言った。


 ミナトは立ち上がる。

 呼吸は乱れていない。

 意識も明瞭。


 壊れてはいない。


 だが――


「今日は、ここで休みます」


 リーシャは、即座に荷を下ろした。


「珍しいな」


「合理的です」


 ミナトは、木陰に座る。


 身体の奥が、わずかに重い。

 痛みではない。

 崩れでもない。


 ただ、反応が遅い。


「……最近、見えにくいって言ってたな」


「言っていません」


「顔に出てる」


 沈黙。


 風が、木の葉を揺らす。


「壊れていません」


 ミナトは、繰り返す。


「壊れる前に止めるのが、お前だろ」


 リーシャの声は、静かだが強い。


 その言葉は、

 何度も他人に向けてきたものだった。


 今は、逆向きに刺さる。


「……まだ、境界の内側です」


 ミナトは、ゆっくり答える。


「なら、外に出るな」


 リーシャは、膝をついて正面に座る。


「今は、俺が線を引く」


 その瞬間、

 ミナトは、初めて言葉に詰まった。


 止める側。

 止められる側。


 立場が、静かに反転する。


「……過保護です」


「職業病だ」


 リーシャは、わずかに笑う。


「壊れてない?」

「そうだな」


 ミナトの目を、まっすぐに見る。


「だから、止める」


 沈黙。


 抗う理由は、ある。

 理屈もある。


 だが。


 自分が言ってきた言葉が、

 そのまま返ってくる。


 壊れる前に。

 間に合ううちに。

 無理をしない。


「……三日」


 ミナトは、短く言った。


「三日、動きません」


「五日だ」


「三日です」


「四日」


 少しの間。


「……四日」


 リーシャが、ようやく頷く。


「よし」


 その日から、ミナトは何もしなかった。


 診ない。

 触れない。

 判断しない。


 驚くほど、何も起きなかった。


 誰も困らない。

 誰も呼びに来ない。


 夜。


 焚き火の前で、ミナトは静かに言った。


「……止められるのは、

 思ったより楽ですね」


「楽か?」


「ええ」


 少しだけ、目を閉じる。


「判断しなくていい」


 リーシャは、火を見つめたまま答える。


「怖くないか」


 ミナトは、少し考える。


「……少し」


 それが本音だった。


 自分が止まっても、

 世界は回る。


 壊れない。


 その事実が、

 ほんのわずかに、胸を締めつける。


 だが。


 壊れていない。


 まだ。


 四日間は、静かに過ぎた。

ここまでご覧いただきありがとうございます。


あと数話で完結となります。


ブックマークをして、続きを楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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