第45話 それでも続く
朝は、いつも通りに来た。
特別な夢も、啓示もない。
焚き火を消し、荷をまとめ、歩き出す。
リーシャが、ふと足を止めた。
「……ここまで来たな」
「ええ」
ミナトは、周囲を見回す。
小さな集落。
治療師はいない。
だが、混乱もない。
水を汲む人。
荷を運ぶ人。
休憩する人。
誰かが倒れても、
すぐに“治される”わけではない。
だが、誰かが支えている。
「……呼ばれないな」
リーシャが、半分冗談のように言う。
「はい」
ミナトは、少しだけ笑った。
「それで、いい」
昼前、一人の男が近づいてきた。
「……治療師さん?」
ミナトは、首を振る。
「違います」
男は、困ったように頭を掻く。
「じゃあ、あんた何だ」
ミナトは、少し考えてから答えた。
「……通りすがりです」
男は、しばらくミナトを見つめ、
やがて頷いた。
「そうか」
「じゃあ、今日は大丈夫だ」
それだけ言って、去っていく。
リーシャが、声を潜めて言った。
「……仕事、減ってないか」
「はい」
「不安じゃないのか」
「なります」
ミナトは、正直だった。
「でも」
少しだけ、言葉を足す。
「必要とされ続けるのは、
治療師としては失敗です」
丘の上に立ち、遠くを見る。
かつて壊れた街。
戻らなかった場所。
残らなかった技術。
それでも――
選び直した人たちは、歩いている。
「……お前がいなくなっても、回りそうだな」
リーシャが言う。
「ええ」
ミナトは、頷いた。
「だから、次に行けます」
「どこへ」
「まだ、境界が残っている場所へ」
リーシャは、肩をすくめた。
「結局、終わらないな」
「はい」
ミナトは、空を見上げる。
「終わらない仕事を、終わらせようとしない」
それが、今の答えだった。
夕方。
道端で、子どもが転んだ。
泣きそうな顔。
ミナトは、立ち止まる。
手を差し出す。
「……立てますか」
子どもは、涙をこらえて頷き、
自分で立ち上がった。
「だいじょうぶ!」
そう言って、走っていく。
リーシャが、小さく笑った。
「……治療、したな」
「ええ」
ミナトも、微笑った。
「でも、治してはいません」
日が沈む。
今日も、世界は壊れなかった。
誰かが、選び直したから。
治療師は、必要とされなくなりつつある。
それでも――
境界は、まだ残っている。
ミナトは、歩き出す。
名前のない仕事を、
誰にも気づかれないまま、
続けるために。
それでも、続く。
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