第43話 残るもの、残らないもの
旅は、少し静かになった。
ユイがいなくなったからではない。
余計な“可能性”が、一つ消えただけだ。
「……軽くなったな」
リーシャが、歩きながら言った。
「ええ」
ミナトは、頷いた。
「無理な重さが、なくなりました」
次に立ち寄った村は、小さかった。
診療所も、回復魔法師もいない。
だが、村人は落ち着いている。
「最近、倒れる人はいなくてな」
村長が、そう言った。
「前は、無理をして倒れてた」
「今は……倒れる前に、休む」
リーシャが、ミナトを見る。
ミナトは、首を振った。
「私ではありません」
「……じゃあ、誰だ」
「分かりません」
それでいい、という顔だった。
村を歩く。
畑仕事を途中で切り上げる男。
昼寝をする老人。
子どもを先に家へ返す女。
誰も、特別なことをしていない。
ただ――
無理を続けていない。
「……教えてないのに」
リーシャが、低く言う。
「はい」
ミナトは、静かに答える。
「だから、残っています」
夜、焚き火の前でリーシャが聞いた。
「なあ」
「お前のやり方、残らないよな」
率直な言葉だった。
「技術も」
「理論も」
「名前も」
ミナトは、少し考えた。
「残りません」
「それで、いいのか」
「はい」
ミナトは、迷いなく言った。
「残るものは、
真似できないものの方がいい」
リーシャは、首を傾げる。
「分かりにくいな」
「判断です」
ミナトは、続ける。
「止まっていいか」
「戻らなくていいか」
「今じゃなくていいか」
それは、教えられない。
マニュアルにできない。
だが――
「一度、体験すると」
「次は、少しだけ選べる」
リーシャは、黙り込んだ。
「……ユイも、か」
「ええ」
ミナトは、空を見上げる。
「彼は、治療師になりません」
「でも、壊れにくい人を、増やします」
それで十分だった。
翌朝、村を出るとき、子どもが声をかけてきた。
「おじさん、治療しないの?」
ミナトは、しゃがんで目線を合わせる。
「今日は、しません」
「いつするの?」
「必要になったら」
子どもは、少し考えてから言った。
「……じゃあ、今日は元気だ」
ミナトは、微笑った。
治療しなかった。
だが、間違っていない。
歩き出しながら、ミナトは思う。
治療師の仕事は、
世界を良くすることじゃない。
悪くなりきらない選択を、残すこと。
それは、形には残らない。
だが――
確かに、人の中に残る。
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