第42話 別の道
翌朝、ユイは早くに起きていた。
焚き火はまだ熾きていない。
空は薄く白み始めたばかりだ。
ミナトが荷をまとめていると、ユイが近づいてきた。
「……昨夜は、眠れましたか」
ユイは、少し困ったように笑った。
「いえ」
「でも、考えることはできました」
それは、逃げなかった者の顔だった。
「……続けますか」
ミナトは、歩みを止めずに聞く。
ユイは、一度だけ深く息を吸った。
「ついて行くことは、できます」
「でも――同じ場所には立てない」
リーシャが、ちらりとユイを見る。
「やめるってことか」
「……いいえ」
ユイは、首を振った。
「**別の道を選びます**」
ミナトの手が、わずかに止まる。
「治療師には、なれないと分かりました」
「判断が、追いつかない」
「欲が、先に出る」
自嘲はない。
ただ、事実を受け取った声だった。
「でも」
ユイは、言葉を続ける。
「止める側には、なれるかもしれない」
沈黙。
「街で、医療補助をしていたとき」
「本当に足りなかったのは、技術じゃない」
ユイは、ミナトを見る。
「**立ち止まらせる役でした**」
ミナトは、ゆっくりと頷いた。
「……それは、大事な役目です」
「治療師には、届かない声もある」
「同じ場所に立ってる人間じゃないと、言えない言葉がある」
リーシャが、腕を組んだ。
「裏方だな」
「はい」
「でも、逃げじゃない」
ユイは、少しだけ笑った。
「逃げるなら、全部投げます」
「これは……選択です」
ミナトは、しばらく黙っていた。
そして、静かに言う。
「それなら、一つだけ」
ユイが、身を正す。
「覚えておいてください」
「何を」
「**止めるときは、代わりを用意しないこと**」
ユイの目が、見開かれる。
「代わりがあると、人は考えなくなります」
「考えなくなると、選べなくなります」
ユイは、深く頷いた。
「……分かりました」
朝日が、地面を照らし始める。
ユイは、荷を背負い直した。
「ここで、お別れです」
リーシャが、軽く手を上げる。
「死ぬなよ」
「努力します」
ユイは、少し照れた。
ミナトは、最後に一言だけ言った。
「壊れそうなときは、外に出てください」
ユイは、笑った。
「……あなたがいた場所ですね」
「はい」
ユイは、背を向けて歩き出す。
街へ戻る道ではない。
かといって、二人と同じ道でもない。
それでも、確かに前だ。
リーシャが、ぽつりと言う。
「……継がなかったな」
「ええ」
ミナトは、空を見上げる。
「でも、残りました」
教えなかった。
渡さなかった。
引き継がせなかった。
それでも――
**別の場所で、線を引く人が増えた。**
それで、十分だった。
二人は、再び歩き出す。
もう一度。
今度は、少しだけ軽く。
継承できないものを、
無理に繋がないまま。
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