表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その病、魔法じゃ治らない。異世界で鍼灸師をやることになった  作者: 夜凪レン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/50

第38話 それでも、戻らない

 街は、もう街ではなかった。


 完全に崩れたわけではない。

 瓦礫が積み上がっているわけでもない。

 ただ――役割を失っていた。


 アーク=レインは、

 「戻れる場所」ではなくなっていた。


 丘の上から見下ろす街には、

 人の流れがない。

 急ぐ足も、競う声も消えている。


「……終わったな」


 リーシャの声は、乾いていた。


「はい」


 ミナトは、否定しない。


「一つの役割が、終わりました」


 野営地では、朝の支度が始まっている。

 焚き火に鍋をかける者。

 子どもに靴を履かせる者。

 簡単だが、確かな営み。


 街の代わりではない。

 だが、人生の代わりにはなっている。


「……戻らなくて、よかったのか」


 リーシャが、ぽつりと聞いた。


 それは、誰にともなく投げられた問いだった。


「分かりません」


 ミナトは、いつもの答えを返す。


「でも」


 少しだけ、言葉を足す。


「戻っていたら、ここはありませんでした」


 リーシャは、野営地を見る。


 あの職人。

 あの母親。

 あの医療関係者。


 皆、街に戻れば“また同じ場所”に戻っていた人たちだ。


「……やり直せなかった」


「はい」


 ミナトは、頷く。


「でも、選び直せた」


 沈黙。


 風が吹き、丘の草が揺れる。


「……治療師ってさ」


 リーシャが、苦笑する。


「人気商売じゃないな」


「ええ」


 ミナトも、わずかに笑った。


「嫌われます」


「恨まれることもある」


「あります」


 それでも、ミナトは言う。


「それでも戻らない線を、引き続けます」


 昼過ぎ、野営地を訪れる者がいた。


 街の評議会の一人。

 かつて、便利さを選んだ側の人間だ。


「……遅かったか」


 男は、力なく言った。


「いいえ」


 ミナトは、即答する。


「来られました」


 男は、目を伏せた。


「街は……もう」


「ええ」


「それでも、助けてほしい」


 ミナトは、男を見る。


「何をですか」


「……生き方を」


 その言葉に、リーシャは息をのんだ。


 ミナトは、少し考え、

 そして答える。


「治療は、しません」


 男は、頷いた。


「それでいい」


「代わりに」


 ミナトは、野営地を示す。


「ここで、休んでください」


「……休んでいいのか」


「はい」


「責任を、放り出して」


「放り出していません」


 ミナトは、静かに言った。


「**終わった責任を、握り続けないだけです**」


 男の肩が、わずかに落ちた。


 夕方、男は焚き火のそばに座っていた。

 誰とも話さず、ただ火を見ている。


 それでいい。


 夜。


 リーシャが、ミナトの隣に座る。


「……戻らないって、決め続けるのは、きついな」


「はい」


 ミナトは、空を見上げる。


「だから、一人ではやりません」


 リーシャは、少しだけ笑った。


「……そうだな」


 丘の向こう。

 かつて街だった場所は、暗い。


 だが、完全な闇ではない。

 小さな灯りが、点々と残っている。


 戻らなかった場所。

 戻れなかった場所。


 そして――

 生き直している場所。


 ミナトは、思う。


 治療師の仕事は、

 治すことでも、救うことでもない。


 **戻らなくていい場所を、増やすことだ。**


 二人は、また歩き出す。


 次の境界へ。

 次の選択が、壊れきる前に。


 それでも、戻らないまま。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ