表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その病、魔法じゃ治らない。異世界で鍼灸師をやることになった  作者: 夜凪レン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/50

第31話 壊したくなかった人

 その知らせは、夜に届いた。


「……倒れた」


 短い言葉だった。


 伝令の青年は、息を切らしている。


「例の街で……

 “治療を控える方針”を進めていた医師が」


 リーシャが、顔をしかめる。


「患者じゃないのか」


「ええ。

 治す側です」


 ミナトは、目を閉じた。


 来ると思っていた。

 だが、来てほしくなかった。


 街〈エル=トラウ〉に戻ると、診療所は静まり返っていた。


 ベッドに横たわっているのは、

 あの若い医師だった。


 顔色は悪い。

 呼吸は浅い。

 流れは――


「……限界まで、我慢している」


 ミナトは、低く言った。


 リーシャが、唇を噛む。


「患者を減らしたんだろ」


「はい」


 ミナトは、静かに答える。


「自分が倒れるまで」


 医師は、薄く目を開けた。


「……先生」


 かすれた声。


「正しいと思ったんです」


 ミナトは、頷いた。


「分かっています」


「皆が、我慢すれば……

 街は、うまく回ると」


 医師の手が、わずかに震える。


「でも……

 自分が、一番……我慢してました」


 ミナトは、何も言わなかった。


 言葉は、もう十分にあった。


 治療は、慎重だった。


 針を打つ。

 流れを、ほんの少しだけ緩める。


 戻しすぎない。


 医師の呼吸が、わずかに深くなる。


「……助かりますか」


 看護師が、震える声で尋ねた。


「生きます」


 ミナトは、はっきり言った。


「……でも」


 視線を落とす。


「前と同じには、働けません」


 沈黙。


 それは、失敗の証だった。


 医師は、目を閉じたまま言った。


「……それで、いいです」


 声は、弱い。

 だが、迷いはなかった。


「誰かを、黙らせる正しさは……

 もう、使いません」


 リーシャが、そっと息を吐く。


 数日後。


 評議会は、方針を一部撤回した。


 「様子を見ろ」は、消えた。

 代わりに、こう書かれた。


来ることを、ためらわせない


 街は、完全には戻らない。

 だが、壊れきることは、避けられた。


 街を出る前、ミナトは医師と話した。


「……あなたを、真似しようとしました」


 医師は、微笑った。


「でも、無理でした」


「真似しなくていい」


 ミナトは、静かに言う。


「あなたは、あなたの線を引けばいい」


 医師は、ゆっくりと頷いた。


 街道に出て、リーシャが言った。


「……救えたな」


「ええ」


 ミナトは、歩きながら答える。


「でも、壊れました」


「それでも?」


「それでも、

 壊しきらなかった」


 それが、現実だった。


 善意は、人を壊す。

 だが――


 善意だけが、

 壊れた後に立ち直る理由にもなる。


 ミナトは、思う。


 治療師の仕事は、

 間違いを、無かったことにすることじゃない。


 取り返しがつかなくなる前に、止めること。


 それだけだ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ