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その病、魔法じゃ治らない。異世界で鍼灸師をやることになった  作者: 夜凪レン


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第3話 治療不可宣言

 夜になっても、リーシャの容態は安定しなかった。


 宿屋の一室。

 薄暗い灯りの下、彼女は簡易ベッドに横たわり、浅い呼吸を繰り返している。額には冷や汗。指先は冷たい。


 ミナトは椅子に腰かけ、彼女の手首に指を添えていた。


 ――良くない。


 昼間より、流れが弱い。

 詰まりだけじゃない。乱れている。


「……どうだ」


 壁際に立っていたリーシャが、かすれた声で尋ねる。


「正直に言います」


 ミナトは視線を逸らさずに答えた。


「今は、治療できない」


 沈黙が落ちた。


 リーシャの喉が、小さく鳴った。


「……やっぱり、呪いか」


「違う」


 即答だった。


「呪いじゃない。でも――今、無理に触れば悪化する」


 リーシャは唇を噛みしめた。

 怒りでも絶望でもない。諦めに近い表情だった。


「……みんな、そう言う。最初は“大丈夫だ”って。

 それで、魔法をかけて……悪くなって……最後に、“呪いだ”って」


 ミナトは一度、深く息を吸った。


「私は、そうはしない」


 リーシャがこちらを見る。


「治療しないって言った」


「“今は”です」


 ミナトは指を離し、彼女の体全体を見た。

 姿勢。呼吸。目の動き。

 そして――触れなくても分かるほど、乱れた流れ。


「あなたの体は、ずっと無理をしてきた。

 痛みを無視して、限界を越えて……それが積み重なっている」


「冒険者だからな」


 リーシャは自嘲気味に笑った。


「止まったら、死ぬ仕事だ」


「止まらなくても、死にます」


 ミナトは淡々と言った。


「今のあなたは、治療じゃなくて休ませる段階だ」


「……休んだら、治るのか」


「すぐには治らない。でも――」


 ミナトは一瞬、言葉を探した。


「これ以上、壊れなくなる」


 その言葉に、リーシャの目がわずかに揺れた。


「……それは、治ってないのと同じだ」


「違います」


 ミナトは、はっきりと言った。


「壊れ続けるのを止める。

 それができなければ、治療は始められない」


 部屋の外で、足音がした。


 扉が開き、老女マルタが顔を出す。


「……先生。リーシャの具合は?」


 ミナトは立ち上がり、静かに頭を下げた。


「今夜は、針は使いません」


「え?」


「温かい水を、少しずつ。

 それから、この香を焚いてください。火は弱く、煙だけ」


 ミナトは懐から、小さな包みを取り出した。

 異世界に来たとき、なぜか一緒にあった――乾燥させた薬草。

 焔香に使える。


「……それだけ?」


「それだけです」


 マルタは不安そうにしながらも、頷いた。


 扉が閉まり、再び二人きりになる。


 リーシャが、ぽつりと言った。


「……怖くないのか」


「何がですか」


「治さないって言うの。

 期待させて、突き放すみたいで」


 ミナトは少しだけ考え、正直に答えた。


「怖いです」


 リーシャが目を見開く。


「でも、嘘をつく方が怖い」


 沈黙。


 焔香の、ほのかな匂いが部屋に広がる。

 リーシャの呼吸が、ほんのわずかに深くなる。


「……なあ、ミナト」


「はい」


「もし……本当に治るとしたら。

 私は、また前みたいに戦えるのか」


 ミナトはすぐには答えなかった。


 ――戦えるかどうか。

 それは、治療師の領分じゃない。


「……選べるようにはなります」


 リーシャは、しばらく天井を見つめていた。


「それで、十分だ」


 夜は、静かに更けていった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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