第27話 真似される巡回治療師
噂は、本人の知らないところで育つ。
「最近、“何もしない治療師”が流行っているらしい」
「治さずに帰るんだってさ」
「休めばいい、って言うだけらしい」
リーシャは、街道沿いの宿でその話を聞いた。
「……聞いたことあるな」
隣で食事をしていた商人が、笑う。
「うちの街にも来たよ。
巡回治療師って名乗ってた」
ミナトは、箸を止めた。
「……どうでしたか」
「最悪だった」
商人は、即答した。
「病人を見て、
『大丈夫です』って言って帰った」
リーシャが、眉をひそめる。
「それで?」
「三日後、倒れた」
空気が、少し冷えた。
「治療を拒んだわけでも、
説明したわけでもない。
ただ、“休めばいい”と」
ミナトは、深く息を吐いた。
「……それは、治療じゃありません」
商人は、肩をすくめる。
「だろうな。
でも、名乗ってたぞ。
“流脈調律師”だって」
その夜、ミナトは眠れなかった。
広めていない。
教えていない。
名前すら、名乗っていない。
それでも――
形だけが、真似されている。
「……どうする」
リーシャが、静かに聞く。
「止めます」
即答だった。
翌日、問題の街へ向かう。
小都市〈ベル=カイン〉。
人の流れが多く、情報も早い。
診療所は、荒れていた。
「治療師は、どこだ」
ミナトが尋ねると、
若い男が名乗り出た。
「俺だ」
自信に満ちた顔。
「あなたが、巡回治療師?」
「そうだ。
治しすぎると、壊れるんだろ?」
言葉だけは、正しい。
「……誰に、教わりましたか」
「噂だ」
男は、悪びれずに言った。
「やらない方がいいって。
治療師は、触らない方が偉いって」
ミナトは、首を振った。
「違います」
静かな声だった。
「触らないのは、判断です」
男は、苛立った。
「結果は同じだろ」
「違います」
ミナトは、一歩前に出る。
「診てもいない。
説明もしていない。
責任も取っていない」
周囲が、ざわつく。
「それは、放棄です」
男の顔が、赤くなる。
「じゃあ、どうすればいい!」
ミナトは、答えた。
「診る」
短い言葉だった。
「触る前に、診る。
止める前に、理由を伝える」
「面倒くさいな」
「はい」
ミナトは、頷いた。
「だから、向いていません」
沈黙。
男は、視線を逸らした。
「……簡単だと思った」
「分かります」
ミナトは、責めなかった。
「簡単に見える治療ほど、危険です」
その場で、ミナトは患者を診た。
触診し、
流れを確かめ、
そして――治療をした。
針を一本だけ。
ほんの少し。
「……それだけ?」
「それだけです」
患者は、数分後、呼吸が深くなった。
「……楽だ」
男は、黙って見ていた。
夕方、彼は言った。
「……俺は、やめる」
「それが、正解です」
ミナトは、頷いた。
「真似しなくていい」
街を出るとき、リーシャが言った。
「広がらない理由、また増えたな」
「ええ」
ミナトは、空を見上げた。
「広がらなくていい理由も」
巡回治療師は、増えない。
だが――
間違った巡回治療師は、減らさなければならない。
それもまた、
治療師の仕事だった。
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