表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その病、魔法じゃ治らない。異世界で鍼灸師をやることになった  作者: 夜凪レン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/50

第25話 世界は、完治しない

 朝は、どこでも同じように来る。


 薄い光。

 冷たい空気。

 鳥の声。


 ミナトは、街道沿いの丘に立っていた。

 眼下には、小さな村。

 昨日まで滞在していた場所だ。


 畑に出る者。

 井戸で水を汲む者。

 子どもを見送る者。


 特別なことは、何もない。


「……治ったわけじゃないな」


 リーシャが、隣で言った。


「はい」


 ミナトは、頷いた。


「痛みも、疲れも、なくなってはいません」


「でも」


「ええ」


 ミナトは、村を見下ろしたまま続ける。


「壊れていない」


 それで、十分だった。


 ここまで来るのに、

 多くの提案を断った。

 多くの期待を裏切った。

 多くの不満を背負った。


 世界を管理する話。

 効率を最大化する話。

 英雄になる話。


 どれも、選ばなかった。


「……後悔は?」


 リーシャが、何気なく聞く。


「ありません」


 即答だった。


「治療師が後悔するときは、

 壊したときです」


 歩き出す。


 次の町へ。

 次の村へ。


 どこへ行くかは、決めていない。


 昼頃、街道で馬車とすれ違った。


「治療師さん!」


 御者が声を張る。


「この先の村で、皆が休む日を作ったそうだ!」


 ミナトは、足を止めない。


「それで?」


「文句も多いが……

 倒れる者はいなくなった!」


 それだけで、十分だった。


 夕方、焚き火を起こす。


 リーシャが、湯を沸かす。


「……結局、世界は変わったのか」


「少しだけ」


 ミナトは、炎を見つめた。


「でも、それでいい」


 世界は、一人の患者じゃない。

 一度に治せるものでもない。


 無理に戻せば、必ず壊れる。


「完治は、しません」


 ミナトは、静かに言った。


「でも――

 壊れないまま、生きることはできる」


 夜が更ける。


 遠くで、街の灯りが揺れている。


 そこでは今も、回復魔法が使われ、

 便利な生活が続いているだろう。


 それでも、

 立ち止まる選択肢は、残った。


 ミナトは、思う。


 治療師の仕事は、

 奇跡を起こすことじゃない。


 世界を元に戻すことでもない。


 ただ――


 壊れない線を、示し続けること。


 焚き火が、静かに爆ぜた。


 夜は、深い。


 だが、流れは止まっていない。


 流脈調律師カナデ・ミナトは、

 今日もまた、

 どこかで「何もしない」という治療を行っている。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ