第24話 流脈調律師の役割
小さな町だった。
街道から少し外れ、
地図にも載らない集落。
回復魔法師は一人だけ。
診療所も、簡素なものだ。
「……先生、と呼んでいいですか」
若い女性が、遠慮がちに尋ねた。
「構いません」
ミナトは、そう答えた。
その日、彼はほとんど何もしなかった。
触診をして、
話を聞いて、
首を振っただけだ。
「治療は、必要ありません」
それが、ほとんどの結論だった。
「でも……」
不安そうな顔。
「痛みはあります」
「ええ」
ミナトは、否定しなかった。
「ですが、壊れてはいません」
人々は戸惑う。
治療師が来たのに、治療をしない。
針も、魔法も、使わない。
だが――
「……言われてみれば」
老人が、ぽつりと言った。
「最近、無理をしすぎていた」
別の男が、頷く。
「休めば、戻りそうだ」
ミナトは、そこに言葉を足す。
「戻らなくても、
壊れなければいい」
その言葉は、理解されにくい。
だが、拒否はされなかった。
夜、焚き火の前でリーシャが言う。
「……今日は、何人治した?」
「誰も」
「それで、いいのか」
「はい」
ミナトは、炎を見つめた。
「私の仕事は、治すことじゃありません」
リーシャが、顔を上げる。
「じゃあ、何だ」
ミナトは、少し考えた。
「……線を引くことです」
「線?」
「これ以上、やってはいけない線」
便利さ。
強化。
効率。
それらが、人や土地を壊す前に。
「止める」
「触らない」
「待つ」
それを、伝える。
「流脈調律師は、
世界のブレーキです」
リーシャは、苦笑した。
「嫌われ役だな」
「ええ」
ミナトも、少し笑った。
「でも、必要です」
翌朝、町を出る前に、村長が頭を下げた。
「……先生、ありがとうございました」
「何もしていません」
「それが、一番ありがたかった」
その言葉に、ミナトは静かに頷いた。
街道に出る。
風が吹き、空は高い。
「……終わりが近いな」
リーシャが言う。
「ええ」
ミナトは、歩きながら答えた。
「でも、仕事は終わりません」
世界は、完治しない。
だから――
流脈調律師の役割も、
終わらない。
ここまでご覧いただきありがとうございます。
明日からは1日1話の投稿予定です。
ブックマークをして、続きを楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。




