第23話 広がらない技術
流脈調律師を名乗る者は、増えなかった。
むしろ、減った。
「……思ったより、誰も続かないな」
リーシャが、焚き火を見つめながら言った。
二人は街道沿いの野営地にいた。
派手な依頼もなく、今日は静かな移動日だ。
「当然です」
ミナトは、湯を沸かしながら答えた。
「これは、向いていない技術です」
「向いてない?」
「効率が悪い。
評価されない。
結果が数字にならない」
リーシャは、苦笑する。
「嫌われることも多い」
「ええ」
ミナトは、頷いた。
「それに――」
少し間を置いて続けた。
「成功体験が、少なすぎます」
村で一人を救う。
街で崩壊を止める。
土地を休ませる。
どれも、“劇的に良くなった”とは言いづらい。
「分かりやすい奇跡がない」
「そう」
ミナトは、火を見つめる。
「だから、広がらない」
数日前、別の街で出会った若者のことを思い出す。
「教えてください」
彼は、真剣な目で言った。
「あなたのやり方を」
ミナトは、断った。
「教えられません」
若者は、食い下がった。
「どうしてですか」
「判断が、教科書にならないからです」
流れを診る目。
触れない勇気。
止める判断。
それらは、技術ではなく――姿勢だ。
「間違えれば、壊します」
ミナトは、そう告げた。
「治そうとして、壊します」
若者は、黙った。
それが、答えだった。
リーシャが、焚き火に薪を足す。
「……それでいいのか」
「はい」
ミナトは、即答した。
「広がらないから、暴走しない」
便利な技術は、
必ず、使いすぎられる。
「流脈調律は、
使いにくいままでいい」
風が、火を揺らす。
「治療師は、増えない方がいい」
その言葉は、冷たくも聞こえた。
だが、ミナトは続ける。
「判断できる人が、
一人でもいれば、十分です」
夜が深まる。
遠くで、街の灯りが瞬く。
そこでは今日も、
回復魔法が使われ、
便利な生活が続いているだろう。
それでも――
「……全部は、変えなくていい」
リーシャが、ぽつりと言った。
「はい」
ミナトは、微笑んだ。
「壊れない場所が、少しあれば」
それで、世界は持つ。
流脈調律は、
広がらない。
だが、
消えもしない。
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