第22話 失われるもの
噂が広がるのは、早かった。
「休む日を作る村がある」
「魔法を使わない時間帯を設けた街道宿がある」
「効率が、落ちたらしいぞ」
どれも、事実だった。
そして――歓迎されない事実でもあった。
「売り上げが三割落ちた」
商人ギルドの男は、苛立ちを隠さなかった。
「確かに、体は楽になった。
だが、数字は嘘をつかん」
場所は、小都市〈ロウ=ケイン〉。
ミナトが直接関わったわけではない。
だが、彼の思想を聞いた者たちが、独自に動いた街だ。
「間違ったことはしていない」
ミナトは、静かに言った。
「ですが――」
男は、机を叩く。
「楽になるだけじゃ、街は回らない」
リーシャが、口を挟む。
「じゃあ、壊れるまで回すのか」
男は、言い返せなかった。
別の場所では、もっと露骨だった。
「不便だ」
「遅い」
「昔に戻ったみたいだ」
魔法灯を減らした街区では、夜が暗い。
荷運びは時間がかかる。
利益は、確かに下がった。
だが――
「……頭痛が、出なくなった」
老女が、ぽつりと言う。
「夜、眠れる」
誰もが、同じ恩恵を受けるわけではない。
失うものが大きい者ほど、反発する。
「責任を取れるのか」
地方領主が、冷たく言った。
「この不便で、他国に遅れを取ったらどうする」
ミナトは、答えた。
「取れません」
即答だった。
「だから、決めるのはあなた方です」
領主は、顔をしかめる。
「無責任だな」
「はい」
ミナトは、認めた。
「でも――
壊れた責任は、もっと取れません」
沈黙。
領主は、結論を出さなかった。
街は、半分だけ“休む”ことを選んだ。
中途半端な選択。
結果は――中途半端だった。
楽にはなった。
だが、回復は遅い。
不満も、減らない。
その夜、リーシャが言った。
「全部は、うまくいかないな」
「はい」
ミナトは、頷いた。
「それでいい」
「いいのか?」
「世界は、実験場じゃない」
完璧な解答を押しつけること自体が、暴力だ。
翌朝、街を出るとき、若い商人が声をかけてきた。
「……俺は、続ける」
迷いのある目だった。
「利益は減った。
でも、倒れなくなった」
ミナトは、頷いた。
「それで十分です」
去り際、背後から罵声も聞こえた。
「理想論者め」
「便利さを返せ」
ミナトは、振り返らなかった。
治療師は、
全員に好かれる必要はない。
壊れない選択肢を、
残せばいい。
それだけで、
仕事は終わる。
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