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その病、魔法じゃ治らない。異世界で鍼灸師をやることになった  作者: 夜凪レン


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第21話 流れを“戻さない”治療

 街道沿いの小さな村だった。


 地図にも、名前がかろうじて載る程度の場所。

 協会の支部もなく、魔法炉もない。


 それでも、ミナトはここを選んだ。


「……普通だな」


 リーシャが、周囲を見回す。


 畑があり、井戸があり、

 子どもが走り、老人が腰を下ろしている。


 だが――


「……少し、早い」


 ミナトは、歩く人々の足取りを見て言った。


「急いでる、ってほどじゃないけど?」


「戻る前に、次へ行こうとしている」


 村長の家で話を聞く。


「最近、村を通る旅人が増えましてな」


 白髪の村長が言った。


「休まず、泊まらず、

 そのまま次の街へ行く者が多い」


「それで?」


「村も、落ち着かなくなった」


 不思議な話ではない。

 流れは、人の振る舞いに引きずられる。


 ミナトは、診療所を開かなかった。


 針も、焔香も、出さない。


 代わりに、村長に言った。


「……一つだけ、提案があります」


「何でしょう」


「何もしない日を作ってください」


 村長が、目を丸くする。


「……は?」


「畑仕事も、修繕も、行商も止める日です」


「そんなことをしたら――」


「困ります」


 ミナトは、正直に言った。


「でも、壊れません」


 リーシャが、少し驚いた顔をする。


「治療じゃないな」


「はい」


 ミナトは頷いた。


「治療をしない治療です」


 半信半疑のまま、村は一日だけ動きを止めた。


 最初は、不安が勝った。


「本当に、何もしなくていいのか」

「無駄じゃないのか」


 だが、昼を過ぎた頃から、変化が出た。


 子どもが、昼寝をした。

 老人が、長く話した。

 大人が、畑を眺めただけで終えた。


 夕方。


「……妙に、疲れていない」


 村長が、ぽつりと言った。


 翌日、畑に出ると――


「根の張りが、違う」


 誰かが、気づいた。


 劇的ではない。

 数値にもならない。


 だが、確実な変化。


 リーシャが、夜に言った。


「流れ、戻ったか」


 ミナトは、首を振った。


「戻ってません」


「え?」


「減りました」


 リーシャが、少し考える。


「……使わなかった分か」


「はい」


 流れを無理に戻す必要はない。

 使いすぎなければ、足りる。


「これが、世界にできることだと思います」


 ミナトは、静かに言った。


「治すんじゃない。

 減らす」


 村を出る朝、村長が頭を下げた。


「先生……また、来てくだされ」


「来ません」


 ミナトは、微笑んだ。


「自分たちで、できますから」


 街道に出る。


 世界は、相変わらず忙しい。


 だが、どこかで――

 立ち止まる理由は、作れる。


 それだけで、

 流れは壊れない。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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