第19話 世界は一人の患者ではない
集まった顔ぶれは、重かった。
回復魔導師協会の上級魔導師。
王権の使者。
大都市の代表者。
そして――ミナト。
場所は、協会本部の会議室。
円卓の中央には、世界地図が広げられている。
「……状況は理解した」
白髪の魔導師が口を開いた。
「世界各地で、同様の衰弱が起きている。
原因は、回復魔法文明そのものにある可能性が高い」
ミナトは、黙って聞いていた。
「だからこそだ」
王権の使者が、声を張る。
「君の“流脈調律”を、体系化したい」
その言葉に、室内の空気が一段張りつめる。
「世界規模で流れを制御する。
都市も、土地も、人も――まとめてだ」
ミナトは、ゆっくりと息を吐いた。
来ると思っていた提案だ。
「協会主導で研究所を設立する」
「君を中心に、専門部隊を作る」
「必要なら、法も変える」
それは、救済案に聞こえる。
だが――
「それは」
ミナトは、静かに口を開いた。
「治療ではありません」
ざわめき。
「管理です」
会議室が、静まり返る。
「世界を一人の患者のように扱う。
数値を見て、調整し、抑え込む」
ミナトは、地図に手を置いた。
「人も、街も、土地も――違います」
「だが、放置すれば壊れる」
老魔導師が、低く言う。
「ええ」
ミナトは頷いた。
「だからこそ、
一つの正解で治してはいけない」
王権の使者が、苛立ちを隠さずに言った。
「代案はあるのか」
ミナトは、しばらく黙っていた。
視線を落とし、手を握り、そして開く。
「……ありません」
一瞬、空気が凍った。
「正確には」
ミナトは、続けた。
「用意できません」
誰かが、息をのむ。
「治療師ができるのは、
診て、伝えて、止めることだけです」
「無責任だ」
誰かが、吐き捨てるように言った。
ミナトは、その視線を受け止めた。
「責任を負えない方法を、
私は選びません」
リーシャが、背後で小さく頷く。
「世界は、一人の患者じゃない」
ミナトは、はっきりと言った。
「一斉に治せば、必ず誰かが壊れます」
沈黙。
長く、重い沈黙。
やがて、老魔導師が言った。
「……では、君は何をする」
ミナトは、答えた。
「私は、治療師で居続けます」
その言葉は、静かだった。
「管理者にも、英雄にもならない」
王権の使者が、眉をひそめる。
「それでは、世界は変わらない」
「ええ」
ミナトは、否定しなかった。
「でも――
壊れきるのは、防げます」
その場にいた誰もが、言葉を失った。
革命ではない。
救済でもない。
ただの、判断。
だが、それは――
誰よりも重い選択だった。
会議が終わった後、リーシャが言った。
「嫌われたな」
「いつものことです」
ミナトは、少しだけ笑った。
「……それでいい」
窓の外には、広がる世界。
完治はしない。
正解もない。
それでも――
「……診る価値は、ある」
ミナトは、そう思った。
治療師として。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




