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その病、魔法じゃ治らない。異世界で鍼灸師をやることになった  作者: 夜凪レン


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第16話 同じ症状の街

 その街は、静かだった。


 喧騒はある。

 市場も、人の流れも、都市としては十分に機能している。


 ――だが、どこか遅い。


「……ここも、同じだな」


 リーシャが、歩調を落として言った。


 都市〈ミル=ファーデ〉。

 アーク=レインから三日ほど離れた、中規模の交易都市だ。


 魔法灯は控えめ。

 魔法炉も小型で、常時全力稼働ではない。


 それなのに――


「顔が、似てる」


 リーシャの言葉に、ミナトは頷いた。


 すれ違う人々。

 誰もが深刻な病ではない。

 だが、どこか疲れている。


 笑顔が、浅い。

 呼吸が、短い。


「回復魔法は?」


 リーシャが尋ねる。


「使われてる。適切に」


 ミナトは、街の中心を見渡した。


「……それでも、追いついてない」


 協会の支部は、小さかった。

 受付に立つ魔導師は、二人だけ。


「衰弱、ですか」


 事情を聞いた魔導師は、苦笑した。


「ええ。

 こちらでも、原因不明の慢性疲労が増えています」


「重症者は?」


「ほとんどいません。

 だから、後回しになる」


 ミナトは、その言葉に小さく息を吐いた。


「……一番、厄介なやつですね」


 診療室を借り、数人を診せてもらう。


 商人。

 御者。

 市場で働く若者。


 共通しているのは――


「詰まりは、ほとんどない」


 ミナトは、静かに言った。


「流れも、乱れていない」


「じゃあ、何が?」


 魔導師が困惑する。


「……減ってる」


 リーシャが、ぽつりと呟いた。


 ミナトは、彼女を見る。


「ええ。正確です」


 押し流されているわけでも、吸われているわけでもない。

 ただ、少しずつ、少しずつ。


「この街は……削られている」


 魔導師が、目を見開く。


「魔法炉のせいか?」


「違います」


 ミナトは首を振った。


「ここは、使いすぎていない」


 街を歩く。

 倉庫街。

 街道の出入口。


 そして、気づく。


「……流れていく」


「何がだ」


「人です」


 リーシャが、眉をひそめる。


「出ていく人が、多い」


 確かに。

 街道を行き交う人の数に対して、

 街に留まる人が少ない。


「交易都市だからな」


 魔導師は言う。


「人は、滞在して、すぐ次へ行く」


 ミナトは、足を止めた。


「……それです」


「え?」


「この街は、“通過点”になりすぎている」


 人は来る。

 働く。

 稼ぐ。

 そして、去る。


 休まず。

 根を張らず。

 戻る前に、次へ。


「流れは、滞留してこそ戻ります」


 ミナトは、静かに続けた。


「ここでは――

 戻る前に、出ていく」


 沈黙。


「つまり……」


 リーシャが、言葉を探す。


「この街自体が、休めてない」


「はい」


 ミナトは、頷いた。


 都市の規模も、魔法の量も、関係ない。

 問題は――生き方だ。


 その夜、宿でリーシャが言った。


「じゃあ、どうする」


 ミナトは、すぐには答えなかった。


 灯りを落とし、窓の外を見る。


「……治療は、同じにはならない」


「アーク=レインみたいに、止める?」


「無理です」


 ミナトは、首を振った。


「止めるものがない」


 しばらくして、静かに言う。


「ここは――

 休む理由を、作る必要がある」


 リーシャが、息をのむ。


「理由……?」


「ええ」


 ミナトは、確信を持って言った。


「治療は、体だけじゃない。

 この街は、“休まなくていい”と思い込んでいる」


 それは、病でも呪いでもない。

 もっと根深い――習慣だ。


 ミナトは、思った。


 世界は、同じ症状でも、

 同じ治療を拒む。


 そしてそれは――

 どこまでも、続いている。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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