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その病、魔法じゃ治らない。異世界で鍼灸師をやることになった  作者: 夜凪レン


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第12話 強化という名の治療

 騎士団本部は、都市の中でもひときわ静かな場所にあった。


 高い天井。

 磨かれた石床。

 壁には歴代騎士団長の肖像が並んでいる。


 ミナトは、正面の椅子に腰を下ろしていた。

 向かいに座るのは、現騎士団長――ヴァルド。


 大柄な男だ。

 鎧を着ていなくても、存在感がある。


「まず、礼を言おう」


 ヴァルドは、低い声で切り出した。


「街の衰弱について、原因を示した。

 協会の連中には、できなかったことだ」


「礼を言われるようなことはしていません」


 ミナトは、淡々と答えた。


「診ただけです」


 ヴァルドは、短く笑った。


「その“診ただけ”が、今の我々には足りなかった」


 そして、本題に入る。


「――だからこそ、頼みたい」


 机の上に、書類が置かれた。


「騎士たちの疲労が限界だ。

 魔法で回復させても、翌日には戻る」


 ミナトは、書類に目を落とした。


 症状は、街の住民と同じ。

 ただし、消耗の度合いが違う。


「そこでだ」


 ヴァルドは、はっきりと言った。


「お前の“流脈調律”で、

 疲れない体を作ってほしい」


 部屋の空気が、わずかに張りつめた。


「……それは、治療ではありません」


 ミナトは、即答した。


 ヴァルドの眉が、わずかに動く。


「何が違う」


「壊れたものを戻すのが、治療です。

 限界を押し広げるのは――強化です」


「結果は同じだ」


 ヴァルドは、腕を組んだ。


「騎士が倒れなければ、街は守られる」


「短期的には」


 ミナトは、視線を逸らさなかった。


「長期的には、もっと壊れます」


 沈黙。


「騎士は、人です」


 ミナトは、静かに続けた。


「道具ではない。

 消耗を前提に使えば、戻れなくなる」


 ヴァルドは、しばらく黙っていた。


 やがて、低く言う。


「……それでも、必要だ」


 ミナトは、小さく息を吐いた。


「なぜですか」


「脅威がある」


 ヴァルドは、窓の外を見た。


「街道の外れで、魔獣の動きが活発化している。

 魔法炉が止まれば、結界が弱まる」


「だから、休ませられない」


「そうだ」


 ヴァルドは、正直だった。


「お前の言う“休養”は、理想だ。

 だが、現実は待ってくれない」


 ミナトは、少しだけ考えた。


「……代案があります」


 ヴァルドが、身を乗り出す。


「聞こう」


「強くしません」


 ミナトは、はっきりと言った。


「壊れにくくします」


 ヴァルドの表情が、変わる。


「違いは?」


「限界を延ばさない。

 戻る速度を、落とさない」


「回りくどい」


「安全です」


 ヴァルドは、しばらく考え込んだ。


 やがて、首を振る。


「……それでは、足りん」


 ミナトは、頷いた。


「でしょうね」


「なら――」


 ヴァルドの声が、わずかに低くなる。


「この依頼は、断るのか」


 ミナトは、迷わなかった。


「断ります」


 空気が、凍りついた。


 数秒。

 だが、それ以上は続かなかった。


 ヴァルドは、深く息を吐いた。


「……分かった」


 拳を握りしめ、そして開く。


「お前は、治療師だ。

 軍属に向いていない」


「自覚しています」


 ヴァルドは、苦笑した。


「だが……他を当たる」


 その言葉に、リーシャの表情が曇る。


 ミナトは、静かに言った。


「一つ、忠告を」


「何だ」


「強化された体は、戻れません」


 ヴァルドは、答えなかった。


 その沈黙が、答えだった。


 騎士団本部を出たあと、リーシャが口を開いた。


「……正しいことをしたんだよな」


「正しいかどうかは、分かりません」


 ミナトは、歩きながら答えた。


「でも――」


 足を止め、街を見渡す。


「壊すことは、できません」


 その夜、街のどこかで――

 別の治療師が動き始めていた。


 より簡単で、

 より早く、

 より都合のいい“答え”を持って。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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