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第9話『誰のためのパス?』

「今のお前のプレーさ……なんか、パスの出しどころ迷ってるよな」


練習後のグラウンド脇、汗だくのタケルが水を飲みながら、ぽつりとユウトに言った。


「……え、そう見える?」


「うん。パスは悪くない。でも、誰に何をしてほしいかが曖昧っていうか。ボール預けて“はい終わり”みたいな」


グラウンドに沈みかけた夕陽が影を長くする。タケルの目は、昔と変わらず真っ直ぐだった。


「昔は“オレに預ければ点取るから”って感じだったじゃん、お前。でも今は、たぶんそうじゃない。……だからこそ、“誰のためのパスか”って大事だと思うんだよね」



夜。ユウトは、またあのフットサル場のベンチにいた。


レンがタブレットを開くと、数本の試合映像が映し出される。プロ選手たちのプレー。だが、今回は少し視点が違った。


「この選手、パス出すとき、どこ見てると思う?」


「……DFの位置?」


「それもある。でもそれ以上に、“味方が何を得意としてるか”をわかってる。たとえば、この選手。味方がワンタッチで返してくれるの知ってるから、ギリギリのタイミングで預けて、自分も走る」


映像の中の連携は、機械的ではなく、信頼に満ちていた。


「お前、さっきの練習でさ、10番の先輩にパス出したろ? あの人、足元でもらうよりスペースに走って受けるのが好きだよ」


「……たしかに、止まったまま受けてたな、オレのパスで」


「パスって“渡す”んじゃなくて、“意図を通す”ってことだよ。味方の得意に合わせて、相手の裏を取る。そういうのが、いちばん生きる」


ユウトは黙って頷いた。


──点を取るだけが“天才”じゃない。


むしろ今は、“誰かを輝かせるための選択”を覚えることが、自分に必要なんだと思った。



次の日の練習。


ユウトは意識を変えた。ボールが来る前に、味方の動きとクセを見る。ポストプレーが得意な先輩には、タメをつくるパス。スピードのある後輩には、少し前に転がるようなボール。


自然とパスがつながり、周囲が動き出す。


「ユウト、今のパス、ナイス!」


一人の先輩が声をかけてくれた。冗談も毒舌も混じっていない、純粋な称賛だった。


その言葉に、心がふっと軽くなる。



帰り道、タケルが並んで歩いてきた。


「……変わったな。お前のプレー。今の方が、やりにくいよ。相手として」


「そう? “味方の得意”を考えただけなんだけどな」


「だろ? そういうのがいちばん厄介なんだよ。オレとしては、昔の“自分で全部やっちゃうユウト”の方が楽だったわ」


タケルは苦笑いを浮かべながらも、少し嬉しそうだった。


かつてはひとりで戦っていた。だが今は違う。


「誰のためのパスか」を考えたとき、ユウトはまた一歩、かつての自分とは違う“強さ”に近づいていた。


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