第6話『体は変えられる』
「ユウトってさ、いつも“かわされる側”じゃない?」
放課後、レンとファミレスで話していたとき、不意にそう言われた。
「……まあ、体小さいし、当たり負けるし」
「それって、本当に“体格の差”だけかな」
レンはポテトをつまみながら、スマホをいじる。そして、とあるYouTube動画を差し出した。
『フィジカルは“力”じゃなく“使い方”で変わる』
画面には、小柄なサッカー選手が、体格の大きな相手を受け流すようにボールを奪っていた。
肩の入れ方、重心の置き方、姿勢のバランス。すべてが計算されているように見えた。
「これ……全部、理屈なんだ」
「うん。体を“大きくする”んじゃなく、“動かし方を変える”。それで、対格差を埋めるっていう考え方」
ユウトは目を見開いた。
これまで“体格差”という言葉に諦めを抱いていた。
だけど、今ここに、“変える方法”がある。
◇
それからユウトは、レンがまとめてくれた動画と理論資料を毎日見るようになった。
●“正しい立ち方”=いつでも重心移動できる構え
●“効率的な走り方”=無駄を削って加速を最短に
●“当たり負けしないコツ”=重心と姿勢のシンクロ
部活の帰り、こっそり体育館裏でランジや体幹トレーニングを始めた。筋トレも、がむしゃらにやるのではなく、目的別に負荷と回数を変える。
「成長は“やった分だけ”じゃなく、“やり方次第”」という言葉が、ユウトの胸に刺さった。
週に1回、レンと一緒に地元のトレーニングルームにも通った。
高校生は無料だった。
そこには本気で動きに向き合う大人たちもいて、「どうせ体格がないから…」というユウトの甘えを容赦なく砕いてくれた。
「お前、背筋ちょっとだけど付いてきたな」
「ほんと?」
「動きの“キレ”が出てる。たぶん、姿勢が変わったからじゃない?」
◇
ある日の部活。練習試合形式のミニゲーム中、ユウトは相手のDFに背を向けた状態でパスを受けた。
以前なら、すぐ身体を寄せられて潰されていただろう。
だが今は違った。
重心を低く、右肩だけを軽く当てるようにして体を回す。
「おっ……!」
相手がバランスを崩した一瞬で、前を向けた。
ボールをキープし、味方に展開する。
それだけのプレーに、なぜか自分でもゾクッとした。
「ユウト、ちょっと変わった?」
試合後、先輩がそんなふうに声をかけてくれた。
それは誰よりもうれしい言葉だった。
◇
家に帰り、鏡の前でTシャツをめくる。
まだガリガリ。でも、少しだけ腹筋が締まってきた気がした。
鏡の中の自分が、前よりも“戦える顔”をしている気がした。
──変われる。
それは、才能でも体格でもない。“選択”の問題だ。
やるか、やらないか。それだけ。
ユウトはスマホのメモ帳に、ひとこと書き込んだ。
「体格差は、思考で埋めろ」
そしてまた次の自主トレメニューを開いた。