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第6話『体は変えられる』

「ユウトってさ、いつも“かわされる側”じゃない?」


放課後、レンとファミレスで話していたとき、不意にそう言われた。


「……まあ、体小さいし、当たり負けるし」


「それって、本当に“体格の差”だけかな」


レンはポテトをつまみながら、スマホをいじる。そして、とあるYouTube動画を差し出した。


『フィジカルは“力”じゃなく“使い方”で変わる』


画面には、小柄なサッカー選手が、体格の大きな相手を受け流すようにボールを奪っていた。

肩の入れ方、重心の置き方、姿勢のバランス。すべてが計算されているように見えた。


「これ……全部、理屈なんだ」


「うん。体を“大きくする”んじゃなく、“動かし方を変える”。それで、対格差を埋めるっていう考え方」


ユウトは目を見開いた。


これまで“体格差”という言葉に諦めを抱いていた。

だけど、今ここに、“変える方法”がある。



それからユウトは、レンがまとめてくれた動画と理論資料を毎日見るようになった。


●“正しい立ち方”=いつでも重心移動できる構え

●“効率的な走り方”=無駄を削って加速を最短に

●“当たり負けしないコツ”=重心と姿勢のシンクロ


部活の帰り、こっそり体育館裏でランジや体幹トレーニングを始めた。筋トレも、がむしゃらにやるのではなく、目的別に負荷と回数を変える。

「成長は“やった分だけ”じゃなく、“やり方次第”」という言葉が、ユウトの胸に刺さった。


週に1回、レンと一緒に地元のトレーニングルームにも通った。

高校生は無料だった。

そこには本気で動きに向き合う大人たちもいて、「どうせ体格がないから…」というユウトの甘えを容赦なく砕いてくれた。


「お前、背筋ちょっとだけど付いてきたな」


「ほんと?」


「動きの“キレ”が出てる。たぶん、姿勢が変わったからじゃない?」



ある日の部活。練習試合形式のミニゲーム中、ユウトは相手のDFに背を向けた状態でパスを受けた。


以前なら、すぐ身体を寄せられて潰されていただろう。

だが今は違った。


重心を低く、右肩だけを軽く当てるようにして体を回す。


「おっ……!」


相手がバランスを崩した一瞬で、前を向けた。


ボールをキープし、味方に展開する。

それだけのプレーに、なぜか自分でもゾクッとした。


「ユウト、ちょっと変わった?」


試合後、先輩がそんなふうに声をかけてくれた。

それは誰よりもうれしい言葉だった。



家に帰り、鏡の前でTシャツをめくる。

まだガリガリ。でも、少しだけ腹筋が締まってきた気がした。


鏡の中の自分が、前よりも“戦える顔”をしている気がした。


──変われる。


それは、才能でも体格でもない。“選択”の問題だ。

やるか、やらないか。それだけ。


ユウトはスマホのメモ帳に、ひとこと書き込んだ。


「体格差は、思考で埋めろ」


そしてまた次の自主トレメニューを開いた。


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