第22話『レンが仕掛けてきた』
決勝戦のホイッスルが鳴った瞬間、ユウトはすぐに違和感を覚えた。
動き出した瞬間から、龍華高校の守備が“こちらの得意”を完璧に封じにきていた。
──サイドのスペースがない。中盤に縦のパスが通らない。セカンドボールが拾えない。
チームとして積み上げてきた武器が、まるで事前に知られていたかのように機能不全に陥っていた。
ベンチのレンが、腕を組んで冷静に指示を出す。
「早川ユウトのパスは“間”で来る。だから、その前の呼吸を潰せ。……間を作らせないことが、鍵だ」
龍華の選手たちはその言葉通り、清嶺のプレーをことごとく“先に”潰してきた。ユウトがボールを受ける前に、プレスがかかる。味方が走り出す前に、パスコースが封じられる。
「……全部、読まれてる……?」と、後ろのMFが呟いた。
その声に、ユウトは唇を噛んだ。
(あの人の頭には、俺たちの設計図が入ってる……)
味方の“動き出すタイミング”、自分が“出したくなる局面”。すべて先回りされている。
──それでも、彼は焦らなかった。
前半終了。ベンチに戻ったユウトは、静かに目を閉じていた。
(“理由”があるプレーは、すべて読まれる。なら……“理由のない”プレーに、意味を宿せばいい)
後半、ユウトのプレースタイルが、明らかに変わり始める。
パスのテンポが不規則になる。タッチ数が急に増えたかと思えば、ワンタッチで流す。トラップの方向も“らしくない”ズレ方をする。
レンの表情が僅かに動いた。
「……“ズレ”を作り始めたか」
まるで、パズルのピースが1つ、意図的に違う場所へ置かれたような感覚。ユウトの動きに、龍華のDFラインが戸惑いを見せはじめる。
ユウトは思う。
(あの人の頭の中のピースから、俺が外れていけばいい。予測できない存在になれば、読みは無力になる)
そして、試合終盤。
ユウトはドリブルで相手2枚を引きつけたかと思えば、なぜか足を止めた。
一瞬の“間”。
観客席の誰もが固唾を飲んだ。
そして次の瞬間、ユウトはノールックで、まったく見ていなかったサイドの裏へスルーパスを放った。
走り込んでいたのは、FWのタケル。
「っしゃああああっ!」とタケルが右足を振り抜く。
ネットが揺れた。会場が割れるように沸く。
逆転。
ベンチで、レンが小さく目を伏せた。
「……完全に、外された」
清嶺イレブンがユウトに駆け寄り、歓喜の渦が生まれる。
だがユウトだけは、じっとレンのベンチを見ていた。
心の中で、こう呟いた。
(あなたのおかげでまたサッカーが楽しいと思えました。ありがとうございます)




