表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたたび天才(ジーニアス)  作者: やしゅまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/23

第20話『見えている世界』

「やっぱり君って、点じゃなくて“面”で見てるんだね」


夜のファミレス。店内の片隅、窓際の席。レンはいつものようにノートPCを開いて、清嶺の試合映像を巻き戻していた。ユウトは向かいの席に座り、ポテトをつまみながら画面を覗き込んでいる。


「“面”? どういう意味?」


「たとえば、これ」

レンが再生ボタンを押すと、準々決勝のワンシーンが流れる。ユウトがボールを持って、ひと呼吸置いてからスルーパスを通した場面だ。


「普通の選手なら、この時点で出せるコースは一つか二つ。だけど君は“誰が、どこに、どんな角度で来るか”まで見越してる。空いてからじゃなく、“空く前に”出してる。点じゃなく、面。そして時間も含んだ“流れ”ごと見てるって感じ」


「……」


ユウトはストローをくわえたまま、少しだけ首をかしげる。


「いや、そんなすごいことしてる自覚はないけど……たぶん、見えてるっていうより、“なる”って感じかな。ああ、次はそこが空くな、みたいな」


「感覚で読んでるのか……厄介だな、君は」


「それ、褒めてる?」


「もちろん。めちゃくちゃ褒めてる」


二人の間に、くすっと笑いがこぼれる。深夜のファミレスは、ユウトの“見えている世界”を唯一共有できる場所になりつつあった。


 


翌日――準決勝。


清嶺高校の選手たちは、スタンドからの声援に背を押されながらピッチへ出ていく。ユウトはその中心。もう誰も、彼を“元天才”などと呼ばない。


試合が始まってすぐ、ユウトはある“違和感”に気づいていた。相手のボランチが、予想より前に出てくる。ラインの上下動に合わせて、味方のCBとの間に隙が生まれる。


――ここがほころびだ。


彼はパスをもらうふりをしながらワンタッチで逆サイドへ展開。相手の視線が集中するタイミングを“ずらす”ことで、守備のスライドが間に合わなくなる。


そして、その“ずれ”の延長線上にあるのが、得点。


前半25分、ユウトがワントラップからふわりと浮かせたボールに、タケルが飛び込む。ヘディングシュートがゴールネットを揺らした。


ベンチからは歓声。そして誰かが呟く。「あの7番……何を見てるんだ?」


 


ハーフタイム。後輩の一人が、ユウトに駆け寄った。


「先輩、どうしてあそこが空くって分かったんですか?」


ユウトは少し笑って、答える。


「見えてたわけじゃないよ。そう“なる”って、感じただけ」


それは才能と経験、勘と論理が、一本の糸になった瞬間。


試合終盤、ユウトはもう一度、同じようなプレーを仕掛ける。今度はボールを持たず、ポジションだけで相手を動かす。スペースを生み、パスを預けた味方が追加点を決めた。


笛が鳴る。


清嶺高校、決勝進出。


 


スタンドにいたレンは、小さく拍手を送りながら、目を細めた。


「見えてるってことは、世界の先回りができるってことか……君は、もう次の景色を見てるんだな」


 


ユウトが支配するピッチは、時間と空間が交差する舞台。

その中心で、彼は静かに笑っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ