第16話『2年、試合を決める』
春の公式戦、トーナメント初戦。
新体制となって初の公式の舞台。そこにユウトは立っていた。
試合は終盤、スコアは1−1。
どちらに転んでもおかしくない拮抗した展開に、ベンチから声が飛ぶ。
「次のCK、ユウトに任せる」
監督の言葉に、周囲の選手が一瞬驚いた顔を見せる。
だが、ユウトは軽く頷くだけだった。
(任せるって、どういう意味か……もう、わかってる)
自分で判断し、局面を読み切り、勝負を決めろということだ。
右サイドからのコーナーキック。ボールを持ったユウトは、ゴール前の選手配置をじっと見つめた。
相手DFの動きが一瞬、パターン通りであることに気づく。背番号4、あいつはニアの動きにすぐ釣られるクセがある。
――なら、そこのスペースを空けさせればいい。
「ハヤマ、ニアに入って、フェイクだけかけて!」
「了解!」
声をかけると同時に、ユウトはボールをセットした。見せる素振りも、蹴るタイミングも、計算済み。
ニアに飛び込むフェイクに釣られて、相手の4番がわずかに前に出る――その瞬間、ユウトはファー寄りに柔らかいボールを送った。
そこへ、遅れて走り込んできたセンターバックのマキがジャンプ。
ドン、と完璧なヘディングがネットを揺らした。
ゴールの瞬間、歓声が爆発する。
そしてユウトのもとに、仲間たちが駆け寄ってくる。
「やべー、マジでハマったな今の!」
「お前、どんだけ頭回ってんだよ!」
「なんかお前にボール預けときゃ安心だわ」
歓喜と笑いが交錯する中、3年の先輩が冗談めかして肩を叩いた。
「後輩のくせに……憎たらしいな。試合決めやがって」
照れたように笑いながら、ユウトは小さく首をすくめた。
(この“憎たらしい”って、最高の褒め言葉だな……)
試合後、観客席の端からこちらに手を振る影があった。
レンだった。
「ユウト、あのコーナーの誘導、完璧だったよ」
「ありがと」
「ピッチ上の演出家って感じ。いよいよ本格的に“作品”を作り始めたね」
レンの言葉に、少しだけ背筋が伸びる。
演出家――そんな言葉をもらう日が来るなんて、1年前の自分には想像もつかなかった。
(考えて、動く。それが俺の“武器”になってきた)
走力じゃない、ドリブルでもない。
「読んで、ずらして、仕掛けて、決める」
その積み重ねの先に、ようやく今がある。
新チームの初陣を、自分のプレーで勝ち切ったという自信が、胸の奥で静かに熱く灯っていた。