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第11話『“普通”の武器』

春の風が、グラウンドに砂埃を巻き上げていた。


練習後、ユウトはボール拾いを終え、ゴールポストにもたれかかって水を飲んでいた。

その隣に、タケルが無造作に腰を下ろす。


「お前、最近さ……なんか地味にイヤなプレーしてくるな」


「え?」


タケルは笑っていない。真顔だった。


「前までのユウトは“分かりやすい天才”だった。スピードで抜く、テクで魅せる。けど今は……消えたと思ったら急に現れて、いつの間にか点に絡んでる」


ユウトは、軽く肩をすくめた。


「それ、褒めてる?」


「もちろん。俺、お前とやるのけっこう面倒くさい」


からかうような口調だったが、そこに込められた“敬意”を、ユウトは感じ取っていた。



風呂場でシャツを脱ぐと、肩に擦り傷ができていた。

今日のミニゲームで、味方のミスをカバーするために無理な体勢で滑り込んだのを思い出す。


(昔の俺なら、絶対こんなプレーしなかったな……)


ひとつのゴールに夢中だった少年時代。華やかなプレーにばかり目を向けていた。

でも今は、誰かの穴を埋める守備も、前線からの戻りも、当たり前のようにやっている。


「地味にいやらしいプレーか……」


ぽつりとつぶやいて、ユウトは湯船につかった。



翌日の練習。ユウトは“ゲームの間”をつくることを意識した。

ボールを持たなくても、ポジションを一歩だけズラして味方をフリーにする。

味方のトラップが乱れそうになれば、受け手に回ってフォローに入る。


ミスをした味方にも、責める言葉はかけない。ただ、次の瞬間には“どうカバーするか”を考えていた。


ふと横を見ると、控えの同級生の1人が言っていた。


「……ユウトのプレーってなんか見てると安心するよな」


それは、点を決める派手さでも、華麗なドリブルでもない。

「誰かがいてくれる」という信頼感。


気づけば、ユウトは“ただのうまい選手”じゃなく、“チームを整える選手”になっていた。



練習終わり。荷物をまとめて帰ろうとしたとき、タケルが背中越しに言った。


「お前、天才じゃなくなったこと、悔しくねぇの?」


ユウトは少しだけ間をおいて、振り返らずに答えた。


「……昔は悔しかった。でも今は、ちょっと誇らしいかな。俺、考えて動けるようになったから」


「はん。らしくねーこと言うな」


タケルはそう言って笑ったが、その目にはどこか羨望が混じっていた。


“天才じゃないからこそ手に入れた視点”。

それは、努力でしかたどり着けない場所だった。


ユウトは静かに思う。


──“普通の武器”でも、磨けば光る。


自分にしかない強さが、いま確かに育ってきている。


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