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世界規模の即落ち2コマ ~主人公とヒロインの異世界恋愛が成立しないと世界が滅亡する~

1


クエストから帰ってくると、なにやら俺の家の前で騒いでいる女子がいる。

見ない顔だ。


日が落ちかかってやや暗がりだからはっきりと見えないが、身なりからしてどこかのお偉いさんの女子っぽいな。


そんな人がなぜ俺の家に?

近頃やましいこともしてないと思うから、誰かに怒られるということもないはず。

……

やっかいごとはごめんだがこの女子をどけないと家に入れそうにない。


「あのー この家の者ですが、私に何か用ですか?」


「ああッ! やっとまともに取り合ってくれそうな人に会えました……! 何も言わず私を泊めてくださらない!? もちろんお礼はしますわ! 私、何も持っていないし家事などのお手伝いもできないので、できるのは…」


そういって彼女は上着のボタンを外してその豊満な胸を……


「ストップッ! ストップです! いきなり何してるんですか!?」


俺は理解した。彼女は『やっとまともに取り合ってくれそうな人に出会った』と言っていた。何やら訳ありなのは分かるがそれよりも、世間知らずというか頭のネジが抜けているような感じがする。だって会って間もない人に色じかけをしてきたのだから。


そういうことをしていたから、誰も取り合ってくれなかったんじゃないか?


女性しか住んでいない家には色じかけは通用しない(大体は)。また家事などの手伝いもできないと言っていたから、他の訪問した相手の誰からも役に立たないと思われたのだろう。本当に身の回りのことができない、お嬢様って感じなんだろうな。口調からしてもいかにも姫って感じがするし。


据え膳食わぬは男の恥、とは言うが……


「いきなりそんなことされても困ります。仮にここであなたの弱みにつけこんで好き勝手したことが知れ渡ったら村民からゲスい男だと思われてクエストを受ける時などに支障がでます。ここで生きていくには信用とか人柄とかが大事なんです。だからそのようなことは止めてください」


「えっ、それって泊めてくれないってことですの……? もう頼れるのはあなただけですの! だから泊めてください! じゃないと今夜は野宿になってしまいますわ。そうなったらモンスターに食べられてしまうかもしれませんわ! 助けてください!」


上目遣いで見つめてくる。


「あー! 分かりました、分かりました! 泊まっていっても良いです!」

「本当ですの!? 恩にきりますわ!」

「ただし条件があります。あなたでもできる仕事があるのでそれを手伝ってください」

「私にできること……そんなことあるんですの? それってやっぱり……」

「だから、おもむろに胸元をはだけるのを止めろ。あとエロ方面の仕事じゃないからな」

「冗談!」


どうやら宿泊場所を確保できたことで、戯言を言う余裕ができたらしい。


「これからお世話になりますわ! 私の名前は……」


◇◆◇


2


「……エープオ様。あなたはここを滅亡させてしまう恐れがあるのじゃ。なので申し訳ないのじゃが……」


「なッ! 離しなさい! 何をしますの!? 嫌ッー!!」


◇◆◇


私は今までに受けていなかった教会のステータス検査を受けました。


そしてそこの職員の老婆から占われた結果、私が城都を滅亡させる未来が見えたのですって……なんというかそこを焼却? 切り取る? ような感じらしくて……要するに私は爆弾ってことですの……?


一体、訳が分かりませんわ。


――城都の住民は自分たちがみすみす焼却させられるのは嫌だと思ったそうです。そこで彼らは私を城都滅亡効果外に隔離しようとしたのです。


こうして住んでいた城都から、見たことも聞いたこともない山奥の村に捨てられましたの……


死刑にならなかっただけマシですわね!


◇◆◇


本名を知られることで素性を詮索されたら、また知らない場所に捨てられる可能性がありますわ。


ここは偽名を使いましょう。


「そうね……」


嘘の名前……mendacium……


「ウーダですの!」


◇◆◇


今、名前を言う前に不自然な間があった気がする……ひょっとして今言われた名前は偽名か? 彼女は自分の素性を隠したがっている。名前から自分を調べられたくないんだろう。そんなに知られたくないのか? 何か知られたら困ることでもあるのか?


何かやっかいごとを抱えていたら後がめんどうだ。事前に彼女に教えないのは悪いが視させてもらおうか。仮に普通に聞いたところで教えてくれなさそうだしな。


《実態情報抽出》スキル発動。

LV9。

こんな低いLVでよくもまあナレッジワーカーみたいな仕事を今までできていたと思う。


それでは彼女の素性やステータスを調べさせてもらう。


……ふーん、城都の出身か。それで他は……!?


「――何か心ここにあらずって様子ですが大丈夫ですの?」


こいつ……文字通り、爆弾じゃねぇか! やっかいごとどころじゃない。死活問題だ。早く手を打たないとこの村が焼却させられる! リミットは……? もう一月もないか。とにかく村民にこのことを知らせて彼女をここ以外の遠方に運ぶ手筈を進めるか、もしくは……ここで殺す……か?


「い、いや何でもない――」


「そう? なら良いですわ。それで、あなたのお名前は?」


待て冷静になれ。俺は馬鹿か? 俺が彼女を処分することを誰かに知られたら社会的にマズい。バレたら最悪死刑だ。同じ理由で、俺個人が彼女を生け捕りにしてどこかに捨てるというのも無理だ。


あと、たとえ彼女が爆弾だったとしてここを焼却させられる危険性があったから先に処理しておいた――と村民に言って、その言動が彼らに受けいれられるか? そんなことはないだろう。


《実態情報抽出》はアイテムか生きている対象程度にしか効果を発揮しない。

それに彼女の焼却効果は殺したからといってなくなるかどうかも分かっていない。(これは俺の《実態情報抽出》スキルのレベル不足の影響だ)

そしてこの村には俺のような《実態情報抽出》スキルを持った人はいないから、彼女の爆弾要素を他人が確認する手立てがない。


まあ《実態情報抽出》を使って彼女の危険性を知ることができた、と伝えたところでそれを全ての村民が信じるとは限らない。というのも《実態情報抽出》で知った情報は、ダイレクトに誰かに共有できる効果はなく、あくまでその情報単体で口頭か文献で誰かに伝えられるものだから。


つまり。

ここで彼女を殺してしまうと発動するかどうか分からない焼却効果におびえることになる。(というかそもそも俺が劣勢になる可能性があるのでそれはできない)

確実に穏便に彼女を処理するためにはこのことを村民に知ってもらい協力してもらう必要がある。

そのためには彼女に対して行った俺の《実態情報抽出》について村人たちに信じてもらう必要がある。ここがネックだ。


「……俺の名はビゾーだ」


「よろしくお願いしますわ! ビゾー様!!」


彼女を処理することについて誰かにバレてはいけない。

仮にバレてしまったら自分の身を案じてどこかに逃げるかもしれない。そうなって消息が失われたら、彼女がどこで焼却効果を発揮するか分からなくなる。勝手にどこかの遠方に行ってくれる分には構わないが、もし村のどこかに身を潜められたらまずい。


あるいは別にこの焼却効果……もはやこの呪いとも呼べるものはどうにかして解くことはできないか? 時間をかけて《実態情報抽出》を進めればこの問題は解決できるか?


さっきはついビビッて、彼女を殺すことが脳裏をよぎったが、殺したり追放したりしないで済むのなら、それに越したことはない。俺は野放図に人殺しを奨励するような残虐な人間ではなく、ある程度は良心がある人間であるつもりだ。


少ないがまだ焼却までは時間がある。

《実態情報抽出》を深化させて彼女の呪いを解く手段を探してみよう。


「ああ。よろしくな。ウーダ」


◇◆◇


3


「荷物運びなんて重労働。私にはできませんわー!!」

「口を動かす暇があったら、手を動かせ。もうすぐ目的地だ」

「いやァーッ!!」


「書類整理なんて難し過ぎてできませんわー!!」

「分類番号をよく見るんだ。全部正しく整理できてなかったらやり直しだからな」

「いやァーッ!!」


「子供のお守なんて大変過ぎてできませんわー!!」

「もみもみ。ウーダちゃん、おっぱいでかーい」

「きゅうううんーッ!!」


数日間。このように彼女には様々な手伝いもといクエストを受けて使い走りのように働いてもらい、その報酬を俺が受け取りその見返りに俺の家に住まわせるようにした。

このおかげで俺は時間に余裕ができた。

そこで隙を見て彼女に対する《実態情報抽出》を深化させた。

そしてついに彼女の焼却の呪いを解く方法を解明した。


――この呪いを仕込んだ奴は、どういうことを考えてそんなことをしたのか。なんともいえないことを考えるやつもいるもんだと思ったね。


◇◆◇


4


ウーダもとい本名はエープオ。


彼女のこの呪いを解く方法は――


彼女の恋愛を成立させること。


――だった。


……なんでそんなことを。あたかも術者のそういうことを強制させたい欲望が露骨に表れているように感じられた。


術者に言ってやりたかった。


お前の個人的な趣味のために周りを巻き込むな!


◇◆◇


5


呪いを解くためだけに、彼女と俺で恋愛するというのは……なんか違う。

何でこの村を救うためだけにほぼ強制的に恋愛しなきゃいけないのか。そんな義務みたいに付き合ってもすぐ破局するのがオチだろ。それで結果的に焼却が発動してみろ、目もあてられない。


あほくさ。


この件は俺の手には負えない。

そういうわけで俺は彼女のことを村長に相談することにした。

かくかくしかじか。


「へー。なにそれ。新手のラブコメ?」

「真面目に聞いてくださいよ。もうリミットが近づいていてヤバいんですって」

「いや、私は信じるよ? だけどね、村民が信じない。だってね――」


ああ。村長に相談する間に考慮するべきだったか。

俺の能力は、俺たちのような奴らが持っている能力は――


「他の村民に私たちのスキルの類は秘匿されているものでしょ? 君のスキルについて私は信頼しているし、もちろん彼女の焼却の呪いについても信じるよ? だけど他の村民はそういうことはまず信じないよ」


俺のような奴が持っているようなスキル魔術異能の類は一般には秘匿されている。

それは世界の混乱を防ぐため。

そしてそのことについては管理塔や教会などと呼称される組織に実質独占されている。


自由に見えて不自由なのがこの世界。


力に恵まれなければ能力者に知らない間に搾取される。力があっても自分よりも強い力を持つ存在に搾取される。


果ての無い暗黒郷。


「君は表向きには、知識人や情報屋として思われているね。だけど裏では隠れてその《実態情報抽出》スキルを活用している。そう。特定の村民は表向きの、通な存在としての君が知られているだけなんだ」


「通ってなんですか?」


「通って知らない!? これはジェネレーションギャップってやつだなぁ……あのね。君のスキルの存在を他の特定の村民が信じない以上、焼却の呪いについても信じてもらえない。そこで私が先導して彼女の処理をしようとして画策するのも危ない。そんなことをしてバレたら私の立場が危うい。どんなに隠れてやってもバレる。賄賂渡して村民使ってもバレる。この世界では教会や管理塔以外は誰が悪い行いをしても排他されるものなんだよ。というか、そもそも私としてもそんな物騒なことはするつもりはないけどね――仮に私たち側のような能力者にこのことを相談しても無駄だと思うよ、その理由は分かるよね? 君は主観的に情報を得れるスキルを持っているだけで、直にそれ共有する能力ではない。君のこの村の微妙な立場的にもそんなことを自分と同じような能力者に相談したところでキモオタの妄想程度にだけに思われるの関の山ってこと。だから手っ取り早い話……」


「手っ取り早い話……?」


「君と彼女が恋愛すれば良いんじゃないの?」


「ええ……何で俺がそんなことをしなきゃなんないんですか?」


「いや、良いじゃん? 至極シンプルな話でしょ。私としては、わざわざ彼女に見合うような彼を用意して、あたかも普通恋愛のようにするって策も考えたよ。でもそれってめんどくさい」


「村の存続にかかわる話ですよ。そんな適当で良いんですか?」


「それは君も同じでしょ。この村に住んでいたいなら私の言うことに従ってよ。嫌ならよそに行きな。もっともそんなことできるほどこの世界は優しくないと思うけどね」


それは俺の経済能力的には無理だ。あとこの村を離れることで裏切者扱いされたらこの人にどんな仕打ちをされるか分からない……


「それにさ。そもそも彼女の何が嫌なの?」


「……心が通じ合う相手が良いです。姫口調じゃない普通の口調の方が良いです。」


「めんどうな奴だなぁ」


「じゃあどうしろっていうんですか?」


「……そうだね。最終手段を実行しようか」


「なんですか? 最終手段って」


「秘密」


「ええ……」


「こっちはこっちで焼却の呪いについて対策するよ」


「はあ」


「疑っているのかい? 君と私の間柄じゃないか。信用してくれよ。今回だってなんとかするから、安心しなさい」


たしかに。俺は過去に訳あってこの人と交友的になりそれから何度か村長に助けられてきた。この人は村長という立場で俺からすれば格上な存在だけど、寛容でフレンドリーな人だ。だから俺はつい気を許してこの人に対して感情的にあたってしまったりするがそんなことも気にする様子はない。怖い一面もあるが基本的には良い人だと思う……ん? ブラックぽいか? 


「分かりました。今回は相談に乗ってくれてありがとうございました。では。俺はこれで」


目的は達成した。

やっと肩の荷が下りた。

これから彼女の処遇がどうなるか分からないが、村長の最終手段とやらが実行されたら俺が彼女をかくまう必要もなくなるだろう。

これで俺も彼女も自由だ。みんな幸せだ。


俺はその場を退こうとする。


「ああ。そうそう。言い忘れていたよ。君」


「はい?」


「勘づいているとは思うけど、君が例の女の子と同居して使い走りにしていることは村中の人にバレているからね。その子の弱みにつけこんで好き放題やってるんじゃないかと噂が立っているよ。そのことについて私がフォローするつもりはないからよろしくね」


テンパって判断を先走ってしまった。そのことについて何も配慮していなかった。


「だけど、その割には彼女にクエストを受けさせる際にペナルティとかはあんまり発生してないみたいだね。運が良いなぁ、君は。でも一応これからどうなるか分からないから注意しておくよ」


なんでこのことに気がつかなかったのだろう。なにかおかしいというか……あるいはそのことが意識から抜け落ちていたような感じがするというか…

俺は馬鹿か?


◇◆◇


話は終わった。

帰宅。

そして数日後。

焼却のリミットまであと一週間もない。


村長の最終手段の実行をやきもきしながら待っていた。


その間はこれまで通り彼女に簡単な手伝いないしクエストを受けさせてその報酬のいくらかを貰って俺はのんきに楽な生活をしていた。


ところで彼女は識字能力がない――というかこの村で使われている文字を知らなかった。彼女が住んでいた場所で使われていた文字とこの村で使われている文字は違うらしい。そこで俺が彼女の仕事の選択からそこで必要な書類の代筆などをしていた。そして事前にその作業分の報酬は俺がもらいたいと彼女に伝えてある。居候代とその作業代を徴収するだけで結構な額を貰っている気がする。

それにしても使われている文字が違うのに、口頭の言葉は同じなのって不思議だ。


なんにせよ。楽ができて良いなぁ。


「ビゾー様。大変です! 私たちがこの村を乗っ取るテロリストの一味だと言われ村長から指名手配されています! 何とかしなければ!」


「はぁ!?」


◇◆◇


6


結局。村長とその他村の能力者たちの前に俺と彼女は生け捕りにされてしまった。


指名手配にされているのを知ってから、すぐに村長にそのことを問いただそうと連絡したが返信が来なかった。


捕らえられた檻越しに彼らと話をしていた。


「《真偽判定》の結果から言って彼らは嘘をついていますね」


「はぁ!? お前、本当に《真偽判定》のスキル持ってんのか? こいつの言っていることは嘘だ。なぁ、村長。これどうなってるんだよ! 教えてくれよ! お前らだったら俺が《実態情報抽出》のスキルを持っていることを知っているだろ? 何で嘘つくんだよ!? ――お前らは生まれながらに祝福された特別な奴らなんだろ。普通の奴らとは違う世界の住民だろ。なんでこんなことするんだよ! なぁ、答えてくれよ!」


村長は何も言わず、両手を合わせてウインクをしている。こいつ……何を考えていやがるんだ?


◇◆◇


ビゾー様は私のことを見向きもせず焼却の危険性について彼らに対して説得をしていました。というか半錯乱気味に糾弾していたと言ってもいいかもしれません。


ビゾー様は私が爆弾であったことで追放されたことを既に気づいていらしたのですね。ということは私の本名も知っているのでしょうか?


そして私のことを対処するために色々と考えたり手を回していたそうです。


私は彼にある疑問を投げかける。


「ビゾー様……よろしいですか?」


「――なんだよ!?」


「どうして。爆弾について気づいた時にそのことを私に打ち明けた後、交渉を持ちかけなかったのですか?」


◇◆◇


そう言われたらなぜ?


彼女を合理的に処理するためという名目で、彼女自身に俺が彼女の爆弾について気づいていることについては隠していた。たしかにバラしたことで逃げられて人知れずこの村のどこかで焼却を起される等のリスクがあったわけだが。


それにしたって他にやりようはあったんじゃないか?


爆弾について彼女に先に打ち明けてそれから解決策を二人で探るというやり方もあったんじゃないか?


なぜこんな簡単なことに気づかなかった?


俺は馬鹿か?


「黙ってないで何か言ってください! ビゾー様!」


「あのー痴話喧嘩はそのへんにしてもらえる? あのね私たちも鬼じゃないからね。君たちを処刑しない道もあるよ。テロリスト云々の件も水に流してあげる。まぁその後、またなにかしでかした時は知らないけど。でね、ある条件を飲んでくれさえすれば君たちを自由の身にしてあげられる。どうするかな?」


「だから俺たちはテロリストとかじゃ――」


「ビゾー様。彼らには何を言っても聞く耳を持ちません。ここはどうか冷静に」


「あっ。ああ」


単純に頭に血が上っていた。彼女の言う通り彼らには何を言ってもしかたがないようだ。


「話を続けてもらっても良いですか? 村長様」


「賢明な態度で良いねぇ。あのね。この村の遠くないところにあるトロールの巣窟を根絶やしにしてもらいたいんだ。あれは私たちの村の脅威のひとつでさ。時折、村の付近に出てきては人々を殺めたり建物を破壊してる。管理塔や教会にも駆除要請を出しているんだけど、手続きとか準備とかの手間がすごくてすぐには対処できないみたいでさ。それに、この村は殺傷系のスキル持った人とか職業の人で強い人はいないし、というかみんなトロールに殺されちゃった。それもうちの救護士たちでも蘇生が間に合わないほどにずたずたにされちゃってた。むごいよねぇ、トロール。そしてまぁ、この村小さいし、生産力? 自給力? というかも弱くて王国的に矮小で価値のない場所だから後回しにされてるんだろうね。難儀だね。手が焼かれる思いだよ」


「要するに俺たちをトロール駆除のための体のいいコマにしたい、てことか?」


一応、村長の本当の思惑を探ろうと《実態情報抽出》を使ってみたが抵抗が高くて無駄だった。俺のレベルが足りないらしい?


「イヤだなぁ。これは君たちの潔白を証明するための手続きと言ってもいいんだよ?。彼女、ウーダちゃんの爆弾? 焼却? のことが本当なら、その能力を使ってトロールの巣窟をドカンと一網打尽にできるはずでしょ?」


「ウーダの能力の効果どれぐらいに及ぶか分からない。そのトロールの巣窟の場所を教えてもらえるか? 調べてみる」


「地図士くーん。来てくれー……あのさ、最悪壊滅させずとも巣窟に大きなダメージを与えられれば良いからそのつもりでね。それに加えてあらかじめ言っておくけど、この条件を遂行する際に逃げようなんて思わないでね。こっちには優秀な索敵士がいる。地獄の果てまで追いかけるからそのつもりで」


――――


「俺の《実態情報抽出》から調べた限り、この位置から起爆すればこの村の安全を保障しつつ8割から全壊はできそうだが……」


「だがって、他に何か問題があるの?」


「焼却が行われたら、彼女が死ぬかもしれないんだ。そうだったら寝覚めが悪い」


「それは大丈夫じゃないの?」


「なぜ、そう言い切れる?」


「この手の問題はある一つの概念が解決へ導く。それは……愛だよ。お互いに生きていて欲しいと思っていたら、ウーダちゃんは死なないよ。あーでも今その感情が芽生えちゃうと恋愛が成立しちゃって焼却が機能しなくなる? ……だから、その時までは嫌悪し合ってね」


「そんな、むちゃくちゃな……」


「どっちにしろ、従わなきゃここで処刑なんだから、やりどくでしょ。大丈夫、トロールの巣窟の処理が確認できたら、最速で救護士を向かわせて傷ついたウーダちゃんを最速で蘇生させるから。それにそもそも彼女が傷づくかどうかは、やってみないまでは分からないでしょ。だから良いよね?」


「私は構いませんわ」


「ほら、彼女もこう言っているし。同伴しているテロリスト君はどうなの?」


「やります」


◇◆◇


7


「いいかい。焼却が発動した瞬間に彼女を全身全霊で愛すんだよ? なんなら嘘でも良い。うそからでたまこと、っていう言葉もあるぐらいだからね」


村長の言葉を回想した。

なんて身もふたもないんだろうな。


俺たちの縄はほどかれた。

トロールの巣窟に到着。

そして今日が焼却のリミット。


俺は彼女の焼却に巻き込まれないように、その範囲外まで移動しようとしていた。

俺ができるのは焼却効果を適切に発動させるために彼女をポジショニングさせることだ。

それも済んだ。

彼女の元を離れる間に一言いう。


恋愛が成立しないように。負の感情を抱いて貶す。


「お前なんて嫌いだ。お前が憎い。お前なんて不幸になればいい。お前なんて末永く爆発すればいい」


ん? 最後の一言は貶し言葉だったか?


◇◆◇


「あなたなんて嫌い。あなたが憎い。あなたなんて不幸になればいい」


――ここでしくじれば私たちの命はない。


ここで焼却が発動したら私は死ぬかもしれない。


死んだら、ビゾー様のことも考えられなくなる? それは嫌。


なぜ? 私にとってビゾー様はどんな存在? 衣食住を提供してくれる大切な存在?


それだけ? いや他にもある。そう。それは――


「さよなら。あなたなんて末永く爆発すればいい」


最後の一言は貶し言葉だったかしら?


◇◆◇


「村長。トロールの巣窟エリアの全壊を確認しました」


「観測士君、あの二人の状況は?」


「……二名、生存を確認しました」


「これは救護士の出動はいらなそうだね。彼らの邪魔をしちゃいけないし、そっとしておおこう。それにしてもやっぱ――愛。だよねぇー」


◇◆◇


8


このあと滅茶苦茶イチャイチャした――


いや、なんていうか。嘘はついていないと思う。


彼女がもしかしたら死ぬかと思ったら、そんなこと嫌だと思った。そして、彼女の焼却効果が発動するタイミングで、後は流れるままに彼女への愛を絶叫した。


後に村長らから知らされたが、その様子は観測士によって彼らへ筒抜けだったらしい。


恥ずかしさを超えて逆に冷静になった。


「あれは凄かったよ。何回好きって言ってた? そのあと○○したいとか○○してほしいとか、放送禁止用語だらけだったね。そして焼却効果が終わったら最速で彼女の元までいって、破壊されたトロールの巣窟の残骸の陰でしっぽり」


「やめろ。そのへんにしておけ」


ついため口がでてしまった。

一応目上の人だから丁重語で話した方が良いよな。


「これがボイスドラマやアニメ化したら、そのシーンの声優さんの演技と絵面がどんなふうになるかすごく楽しみだよ」


「村長……趣味悪いですよ」


「趣味が悪い人じゃなかったら、こんな村長なんて職はつとまらないよ」


たしかに……? 話が適当に流された気がした。


愛ってなんだろうな。エロではないと思うんだけど。


「ともあれね。テロリストからナレッジワーカーにジョブチェンジおめでとう。そしてお帰り。これからも知識労働者として、そのスキルを陰ながら用いて、この村この王国この世界に、貢献し続けてね」


「ごまかそうとしていますが、わざわざ俺たちに嘘をついて使い捨てようとしたことは根に持っていますからね。《真偽判定》の結果が云々とか言って嘘つきやがりまして」


「丁重語とタメ口が混ざってる混ざってる――いやだってこうしないとこういう結果は得られないと思ったから」


「これを計算していた? それにしてはもっとやり方あったと思いますが」


「それは私の采配? 手腕? の能力不足ってことでひとつ。ごめんね! 観測士から得た君たち二人のイチャイチャ映像を外部に捌かないら許して!」


「てめぇ! 俺らの楽しい時間の映像を持っていて、それを外部に流そうとしてたんか!? そんなことをしたら絶対許さんからな! ていうかその映像は捨てろ!」


「ヤダ」


「表出ろ。教育してやる」


「いいね。たまには運動して良い汗を流すとしよう」

  

この人に対して《実態情報抽出》が成功した試しはなかった。

実際にこの人と手合わせしたら何をされるか分からない。

この人は一体どんなスキルを持っているのだろう?


「村長のやつ自分から外に出ておいてどこに消えた……? 逃げ足が速すぎる」


「秘密ー!」


未熟さと絶妙な計算能力がある村長だった。

 

◇◆◇

 

この一連のできごとを経て《実態情報抽出》のLVが9から30に急上昇した。これらの経験でスキルが21LVも上がるなんて。上がり過ぎでは? この世界はどうなっているんだ。


これを機に俺は疑問に感じていたこと解明することにした。

俺の予想が正しければ、この強化された《実態情報抽出》を彼女に使えば答えが分かる。

疑問に感じたことは2つ


1つ目。

『「勘づいているとは思うけど、君が例の女の子と同居して使い走りにしていることは村中の人にバレているからね。その子の弱みにつけこんで好き放題やってるんじゃないかと噂が立っているよ。そのことについて私がフォローするつもりはないからよろしくね」


テンパって判断を先走ってしまった。そのことについて何も配慮していなかった。


「だけど、その割には彼女にクエストを受けさせる際にペナルティとかはあんまり発生してないみたいだね。運が良いなぁ、君は。でも一応これからどうなるか分からないから注意しておくよ」


なんでこのことに気がつかなかったのだろう。なにかおかしいというか……あるいはそのことが意識から抜け落ちていたような感じがするというか…

俺は馬鹿か?』


2つ目。

『どうして。爆弾について気づいた時にそのことを私に打ち明けた後、交渉を持ちかけなかったのですか?』


2つの疑問の答えは同じものだった。

どうして、この2つの発想ができなかったのか?

それは出会ったとき既に彼女の小規模な焼却効果が適用されていたから、だった。


なんじゃそりゃ。


最初に提示されていた1か月間のリミットは何だったのか?

それはあくまで彼女がもたらす大規模な焼却効果のリミットであって、既に発動されていた小規模な焼却効果については関係がなかった、らしい。


そして、なぜ彼女を使い走りにしていて少なからず悪評が立っていたにもかかわらずクエストをする際に受付からペナルティなどを負わされなかったのか?

それも彼女の小規模な焼却効果が関係しているらしかった。


小規模な焼却効果――つまり、俺や身近な人の思考を奪い、じわじわと焼却するというものだった。それが分からなかったのは俺のスキルのLVが低かった影響。

そんなのアリか? 俺の少なくとも俺のスキルではそのような説明がされていた。


LVが上がったから今後はこのような、後出しの情報は減ると思う。

スキルのLVが低いっていうのは不便だな!


◇◆◇


「なぜ私のことを愛しているの?」


「姫口調が若干崩れてない? 愛しているんですの? じゃないのか?」 


「あれは……若気の至りというか単なるキャラづけをしたかったというか……ともかく、周りに似たような口調の人が多そうだと思ったから。ここは普通の田舎だし……なんというか差別化がしたかったの! それに姫口調の人より普通の口調のほうが好きなんでしょ?」


もしや村長の奴、エープオに吹き込んだな。


「いや、今から思えば、あれもあれで良かった気がする。ところどころ口調の設定が下手な感じが逆に」


「キモ。でも。じゃあ私の気分次第で姫口調にしてあげますわ!」


最速でツンデレかましてない? キャラも若干変わってる?


「というか、答えて! なぜ私のことが好きなの?」


「ところで、焼却の件が片付いたし、もういいと思うんだ」


「質問の途中だけど何?」


「エープオの両親に挨拶がしたい。俺がこの女性の夫ですってな」


「夫? 婚約者通り越してない? それって既に結婚しているみたい。気が早くない?」


「そうか? 俺たちもうやることはやって」


「ビゾー様は馬鹿ですわ!」


本当に気分次第で口調変えるんだな。


話題をはぐらかすことに成功した。


俺がこの女性を好きな理由。そんなことなんて言わなくても分かりそうだけどな。


ところで話さえぎったことで、こちらからも聞くタイミングを失ってしまったんだけど、エープオはなぜ俺のことを愛しているのだろう?

ロマンのある話ではないが。これまで彼女をかくまっている間に俺に対して情がわいた、とか? そんな刷り込みというか、何とか症候群とか、吊り橋効果的な……恋愛ってこんなに夢がないのか? 実際そうだったら幻滅する。

いや俺も彼女に対して抱いている感情だって大したものではないから、相手のことを言える筋合いというか資格もないけどさ。

 

結果的に恋愛が成立しているので彼女の焼却効果は今後発生しないよな。


俺たちは生物である以上、レベルが上がって成長して、新しいことを覚えていく。それにはまだ解明されてないこともある。今回の彼女の焼却のスキルの件のように後から分かってくることもあるだろう。そういう災害みたいことに対処することも大切だと思う。


これから俺は無粋な恋愛をすることで世界を生存させていく。

お読みいただきありがとうございました!


「楽しかった!」


「次の話が読みたい!」


「まだまだ読みたい!」


と感じ取られましたら


下にある☆☆☆☆☆から、ポイントを入れられて作品への応援になりますので、お願いいたします。


面白かったら☆5つ、つまらなかったら☆1つ。正直に感じた気持ちでOKです!


ブックマークもいただけると作者の支えになります!


ぜひ、よろしくお願いいたします。


私は読者様の楽しい読書ライフを応援しています!

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