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10話 風の少女のウラ側

「何百年振りだろうか、この我が冷や汗なんぞかいたのは」


 魔王ガラドナルが露台で風にあたりながら「ふう」と息を吐いた。


「エメラが居て助かりましたね」


「ああ、まったくだ」


 理由については言わずもがな、四方大天将が一人、南方火天将ルヴィオードの独断的な行動により勇者レバンの旅路はあわや一巻の終わりとなるところであった。ちなみに西方風天将エメラシーナの登場もルヴィオードの例に漏れず独断である。


「本音を申しますと、私としては勇者が死のうが生きようがどちらでも構いませんが」


「サファローラよ、お前そんなに冷血だったか?」


「元より、ガラドナル様以外のことは些事に過ぎません。とはいえ勇者が死ねばガラドナル様は悲しむでしょうから、そういった点を加味しますと生きていて良かったかな、といったところですかね」


「ふむ。まあ無理に考えを改めよと言うつもりもないがな。……それよりエメラシーナとルヴィオードへの対応を決めるとしようか」


 ガラドナルが露台から部屋に戻り、考えをまとめようとしたところだった。サファローラが窓を閉めた少し後、覚えのある一陣の風がカタカタと硝子を叩き出したのだ。


「噂をすればエメラの風がやってきましたね。さて事後報告を聞いてみましょう」


 閉めたばかりの窓を再び開くと、隙間風の細い音に乗ってエメラシーナの声が届く。


『ガラドナル様、報告にあがりました~。色々やっちゃってすみませんです』


 声だけでも分かる悪びれたところのない調子だ。ガラドナルもサファローラも慣れた様子でそれについて咎めることはなかった。


「構わん、ルヴィオードがレバンくんをどこまで害するつもりだったかは分からんが、エメラシーナが割って入らなければ我が雷が使うところであった」


『え、いつの間にか「くん」付けで呼んでる……』


「そうだな、とりあえず状況の説明を貰おうか」


『あ、はい』


 そんな簡単に流されるなんて、とか何とか聞こえた後でエメラシーナの報告が始まる。


『私はこのままレバンくんとアリンちゃんに同行する予定です~。元々は、ハルピュイアの聖地巡礼をする風使いの不思議な少女、って設定で接触してこうと思ってたんですが、ルヴィの馬鹿がやり過ぎなことしてたんで急いで飛び出して……じゃあもう成り行きでこのまま付いていこうかなって、いいですよね?』


 ガラドナルが考える素振りを見せたのでサファローラが間に入る。


「ガラドナル様、お手数ですが、私の口にする内容が秘匿事項に抵触していましたら御止め下さい。セレンデールの事についてなのですが」


 と、そこで一旦は切り、主人の顔を伺う。ガラドナルは目だけで頷き許可を出した。


「ありがとうございます」


『あ、セレンも動いてたんだ!』


「ええ、エメラのすぐ近くに居ますよ」


『えっ? いま誰も近くに居ないよ⁉』


「いえ、貴方のすぐ傍にという意味ではなく、アリン姫のことです」


『あっ、そういうこと~? ごめんね、シーナちゃんの可愛いとこ出ちゃったね』


「そうですね。私もセレンの動きはほとんど知らされていませんので、ここから先は予想ですが、おそらくセレンはレバンが何かしらの窮地を迎えそうな時にアリン姫と入れ替わり、火の粉を払う役目を与えられています」


『もうちょい構ってくれても……。うん、まーなるほどね。あれ? でも待ってよ、ルヴィにやられてたよ?』


「はい。あくまで入れ替わりなので即時的な対応は難しいのだと思います。予め察知してセレンが出張れればいいのですが、ルヴィほどの障害が突発的に現れれば、さすがのセレンも仕事は出来ないでしょう」


『ふ~む、そっかそっか。……あ、じゃあやっぱ、あたしがこのまま二人に付いていくのってちょうどいいって事じゃない? セレンが出て来られない時はあたしが守ればいいんだもんね?』


 サファローラがガラドナルの様子を伺った後に応える。


「ええ、そのようですね。あくまで想定ですので、セレン絡みのことはこちらの解釈と一致しない事も起きるでしょうが、何か違っていたらセレンの方から軌道修正の話が来るでしょう」


『そだね、りょーかい! んじゃあ直近であたしがやろうとしていること説明するね』


 エメラシーナが準備をしていた内容を聞く。


 元はハルピュイアに所縁のある地を巡る巡礼者として各地でレバンと顔を合わせるつもりだったのだが、これからは森の民に育てられた出生の不明な少女(正体は風の精霊)として旅の仲間に加わる。


 巡礼地の一つ目として不知森へ導き、勇者の武力強化として剣を授けるため聖剣の噂を流していた。不知森を守る一族というのもエメラシーナが用意した自らの部下たちの事である。


 ちなみに不知森が人族にとって危険な場所だったことは事実であり、森に巣食う樹木の姿をした魔物がやってきた人族を捉え食っていたのだった。


 今はもうエメラシーナの部下たちによって一掃されておりただの鬱蒼とした森になっている。


『……じゃあそんな感じであたしは動きま~す。ルヴィの件はどうしよっかな? とりあえず遠くに吹っ飛ばしただけであんまり効いてないと思うし、とりあえずで飛ばしたから居場所も全然掴めてないし、不意打ちだから出来たけどルヴィとガチンコで殴り合うのってあたしには厳しいよ? 相性的にはサファちゃん応援に欲しいんだけどなぁ~』


「ルヴィの性格上、一度してやられたら今度は本気でかかって来るでしょうね。しかし私が城を空けるのも色々と滞るでしょうし、ダイアの手は空いていないのでしょうか?」


『ん~どうだろ? いちおー風は送ってみたんだけど、けっこう遠いとこいるのかも。返事ないね~』


「困りましたね。エメラ以上に素早い伝達手段を持つ者はいませんし、ダイアが厳しいようであればいよいよ私が駆り出されるわけですが、そうなると今からでも引継ぎの準備を……」


 しばらく聞くことへ徹していたガラドナルが口を開いた。


「……決めたぞ。エメラシーナの用意した状況の利用、そしてルヴィオードには罰を下す」


 唐突な発言は何か閃いたようなはっきりした口振りだった。


「……ガラドナル様、詳細をお聞かせ頂いてもよろしいでしょうか?」


「いや、あえて語らぬ。エメラシーナの対応力も見たいのでな。安心せよサファローラ。我が自ら出向くわけではない、少し手は出すが……。さあ、手間な呪文を唱えるから話しかけてくれるなよ?」


 一方的にそう言い終え、ブツブツと何か大きな魔術を起こすため詠唱を始めるのだった。


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