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プロローグ 人魔和平協定

 今日で元号が変わる。


 時代の節目に立ち会えることを、若き書記官は二つの意味を持って体を震わせていた。

 一つは当然、ここで起きる事の重大さだ。向こう百年はこの会議に参加した者たちが時代の基盤を作っていくのだと、そしてそれには自分も含まれるのだという栄誉に震えた。


 もう一つは単純だった。


 生まれて初めて見る魔族。人に似た人ならざる者たちの姿、気配だとか殺気だとか、根っからの文官である自分には分からないと思っていた感覚を今日で痛感した。相対するだけで恐ろしい。


 魔族の長である魔王の目が、その金色の、縦に割れた蛇のような瞳孔に一瞬でも触れただけで、自分の中にある何か大事な物を奪われたような不安に襲われる。


 若き書記官は状況を整理し落ち着こうと努めたが震えは収まらない。頭が回らずそれどころではないのだろうが、身を震わせる要因は、本当のところ二つどころではない。


 部屋に集まった人と魔の両陣営、その面子の豪華さ、部屋そのものの豪奢な作り、腕を載せている机も、身を預けている椅子でさえ、書記官が一度も触れたことがない質感だった。


 この部屋の中には、人も物も、そして魔も、最高級の存在しか無かった。


「始めましょうか」


 この中では不釣り合いな、書記官よりも若い声が部屋の重苦しい空気を掻き分けた。


「初めての方もいるので一応は自己紹介を、僕はレバンと言います」


 書記官は生唾を飲む。これがあの勇者レバンか、と。


神鳴り(かみなり)の勇者、原初の火の担い手、大地を纏う者、人魔共生(じんまきょうせい)、奇跡子、聖痕(せいこん)の選定者。


 二つ名、通り名、異名、称号、彼を表す言葉はいくらでもある。


「会議の進行なんてやったことがないので甚だ不安ですが、よろしくお願いします」


 レバンの声は確かに少年の物だが堂々としている。くぐり抜けた死線の数が違うのだろう。不慣れゆえのうろたえはあったとしても、声の奥からは自信が透けて見えるかのようだ。


「では、ガラドナル魔王陛下」


レバンが魔王を呼ぶ。「ああ」と返し、たいした造作もなく魔王が立つ。ただそれだけで書記官は自分の心臓が跳ねるのを感じた。金の瞳の魔王が、銀の髪をした魔王が、薄青い血管を白い肌の下から覗かせる魔の化身が、人類共通の厄災が、絶対的な悪が……。


 書記官の多彩だと自負していた表現力の何も、今の興奮や不安、そして期待が入り混じる自分の心境を言い表すことは出来なかった。始まる。勇者レバンと魔王ガラドナルが口を揃える。


 「「これより、人魔和平協定の会議を始める」」


 人と魔が同じ時、同じ速度、同じ言葉を発する。第六紀、始まりの合図だった。


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